リセスド=パーラメント
麓の出口の方へ一旦引き返してダンジョンに繋がる道に入っていった僕たちは、そこで一度休憩を取ることにした。
「魔法の方はまだ大丈夫?」
「えっとね……うん、よほどの相手じゃなければ、たぶん」
「じゃあ、ダンジョンで1〜2度戦ったら戻った方が良さそうだね」
休憩ついでにキャロの魔法の確認をしておく。 キャロはその確認をした僕を褒めてくれたのが嬉しかった。
休憩を終えて少し進んでいくと、奥から争う音が聞こえてくる。
「どうするの?」
「少し覗いて、危険そうなら助けよう」
そう言って近づくとオーガ1体を相手に戦っている1人の姿が見える。 その人の持つ武器は鞭のようで、長い鞭を巧みに操ってオーガの巨大な棍棒と同じぐらい離れた位置から攻撃を仕掛けていた。
「凄いな……」
「どうやら私たちが行っても邪魔しちゃいそう」
「そうでもなさそうだよ」
オーガと戦っている音を聞きつけてきたのは僕たちだけではなくて、僕たちの目からは丸見えに見えているバグベアがその人に忍び寄っていく姿が見えた。
僕が行こうとするとキャロが止めてくる。
「待って」
そう言うとキャロが魔法の詠唱に入る。
「魔法の矢よ敵を打て!魔法矢!」
キャロの横に3本の魔法の矢が現れて、バグベアを指し示すと勢いよく飛んでいく。 不意打ちに集中していたバグベアが気がついた時はすでに遅く、キャロの放った魔法矢が命中していく。
「マイセン、今! バグベアだけを狙って」
キャロに言われるまま駆け出してバグベアに斬りかかる。 不意打ちを邪魔されたバグベアの目に怒りが見えたと思ったら何かを投げつけてきた……
「うわっ!」
ダンジョンの土だった。 モロに顔にかかった僕の視界が奪われて目に入った土を払っていると、キャロの危ないっていう叫び声が聞こえた。
目が見えない僕は気配だけを頼りにバグベアの振り下ろしてきた攻撃から身を逸らす。 そのまま横っ飛びしてダンジョンの壁に触れたところで上段に構えた。
バグベアの迫ってくる気配が感じる……
僕の目はまだ目が開けられないままで、気配だけを頼りにバグベア迫る気配を絶つように剣を一閃した。
「ハァッ!」
剣にはなんの手応えもなく、バグベアに命中はしていなかった。 にもかかわらずバグベアの気配はその一振りで感じなくなっていた。
「マイセン!」
キャロの声が聞こえて手で目に入った土を払う。 僕が無事なのを心配する姿を想像していたけど、視界が開けた時にキャロはバグベア死体を見ていた。
「えっと……僕の心配は?」
「もうした。 それより今のは何?」
「もうしたって……今の? ……それよりも!」
オーガと戦っていた人もオーガを倒して僕たちの方に向かってくる。
「危ないところ助けてくれてありがとう。 俺はリセスド、リセスド=パーラメントという」
「お邪魔していなかったみたいで良かったです。 僕はマイセンと言います」
僕の名前を聞いて反応を見せてくる。 この人も僕の噂を聞いているんだろう。
「巷で聞いていた話とは随分と違うな。 まぁいい、それでそちらのお嬢さんは?」
キャロも礼儀正しく頭を下げる。
「キャロンです」
だけどそれだけだった。 驚く僕に対して苦笑いを浮かべるリセスドさんは、ダンジョンで初めて出会った者を信用しないのは良いことだって感心しているようだった。
「リセスドさんはたった1人でダンジョンに挑んでいるんですか?」
「ああ、俺はパーラメント一族の強さを示さねばならないからな。 さて、そちらのお嬢さんが俺に睨みを利かせているようだし、そろそろ行かせてもらうとしよう」
リセスドさんは機会があればまた会うこともあるだろうっていって、立ち去っていってしまった。
コツンッ!
「いたっ!」
「気が緩んでる証拠。 ダンジョンで出会う人は誰であっても簡単に信用したらダメ」
「そうなんだ」
キャロが言うには、ダンジョンの中には冒険者崩れが他の冒険者を襲ってくることもあるらしい。
本当に知っている人であっても、ダンジョンの中で会った場合は決して気を緩めたらダメなんだって言われた。
次話更新は明日の朝6時頃を予定しています。
更新速度は下書き次第では、今のように日に何度も更新していくつもりですが、逆に下書きが進まない場合、更新は減っていきますが、最低1日1話は更新させていきます。




