純粋ウブ
部屋を貸し与えられた建物の扉を開けて入ると目の前に下着姿の女性が……
「お?」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ご、ごご、ゴメンなさい! 間違えましたぁぁぁぁぁ!」
慌てて扉を閉めた。
改めて建物を見て確認したけど場所は間違ってない、はず。 そう思ってると扉が開いてヴェルさんが申し訳なさそうに謝ってきた。
「マイセン君ゴメンね。 みんなにはちゃんと言っておいたはずなんだけど……」
ヴェルさんに言われて建物に入るとそこにはやっぱり下着姿のお姉さんがいる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ご、ごご、ゴメンなさい!」
回れ右してまた建物から逃げ出そうとした僕を下着姿のお姉さんが捕まえてきた。
「おいコラ、少年。 人の下着姿を見て鼻の下を伸ばしてくるのならまだしも、そんなに拒絶されるような態度をされるとさすがに傷つくぞ?」
「見てません、見てません、ゴメンなさい、本当にゴメンなさい」
必死に謝る。 本当はチラッと見えたけど、一瞬しか見てないし記憶にないからセーフのはず!
「ウルド先輩、もうその辺にして服を着てください。 マイセン君がペコペコバッタになってるじゃないですか!」
「わかったよ……しっかしなんだか腑に落ちないなぁ」
ヴェルさんにもう大丈夫だからって言われて、やっと目を開けて顔をそっとあげて下着姿のお姉さんがいないのを確認してホッとする。
「驚かせちゃってゴメンねぇ。 みんな普段仕事の時は気を張ってるから、仕事が終わってここに戻ると自由奔放になっちゃうの」
そうだった、ここは僕以外みんな冒険者ギルドの女性職員の方しかいなかったんだった……ということは他にもあと1人……
「へ〜、今時珍しいぐらい純粋でウブな子ですね。 なんだか守ってあげたくなっちゃうなぁ?」
「ちょっとスクルド!」
今度は水を滴らせながらタオルで体を巻いただけのお姉さんが———————
ブッ…………バタッ。
「キャーーーー! マイセン君大丈夫!?」
「うわわ! 鼻血出して倒れちゃった!」
意識が遠のく中でそんな声が聞こえた気がした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
目が覚めて飛び起きると窓から朝日が入ってきて眩しかった。
昨日の最後に倒れた後からの記憶がなくて、気がついたら僕はベッドの上に寝かされていた。
身体を起こして周りを見回した後、寝過ごした時間に慌てて飛び起きて隣の冒険者ギルドに向かう。
「おはようマイセン君、昨日は本当にゴメンね」
「あ、えっと、ヴェルさん、おはようございます。 なんだかすごい夢を見たような気がします……」
「う、うん、そうね、夢だよ夢」
冒険者ギルドは既に朝のラッシュ時間が終わったようで、ある程度余裕があるみたいだった。
「とりあえず、はいコレ、朝食の代金ね。 それとクラスはもう決まったのかな?」
「ありがとうございます。 えっとクラスは戦士にしました」
「そっかそっか、それじゃあ朝食が済んだら訓練場に行くといいわ。 そこでマイセン君に合った武器とか稽古をつけてもらえるから」
「はい! 何から何まで本当にありがとうございます!」
食事代はその都度渡すようになっているらしくて、夕食のお金は夕方受け取らなければいけなかった。 たぶん僕の想像だと、その後ダンジョンに行くようになった時に、死んだりして戻らなかった時のためなんだと思う。
お金を受け取った僕は、その足で昨日の酒場〔ヒヨコ亭〕に向かった。
「昨日はお店の名前見なかったけど、随分と可愛らしい名前のお店だなぁ」
「おっそーい! でも約束通り来てくれたんだね」
看板に目をやっていたらソティスさんが店先に出てきて、声をかけてきて笑顔で迎えてくれる。 ソティスさんに腕を引かれるように中に入って遅い朝食を済ませていると、ソティスさんが食べている僕の顔を覗き込んでいる。
「僕の顔に何かついてますか?」
「ん〜、これはなかなか手強そうね」
「はい?」
「うううん、なんでもない、こっちの話。 今日はこれからどうするの?」
この後は訓練場に向かう話なんかをすると、ソティスさんがウンウンと頷きながらなんだか楽しそうに聞いていた。
「それじゃあ、夜待ってるからね〜」
手をブンブン振ってくるソティスさんに見送られながら、霊峰竜角山の麓近くにある訓練場へと足を運んだ。
今回の物語の登場人物の名前は覚えやすく作る予定ですが、元の由来の名前とは関係ありません。