制圧
どれだけの間戦ったのだろう。 回避する際に限界領域も駆使しながら更に剣圧と『気』で切り続け、さすがに『気』の使いすぎで意識が朦朧としてきた。
“マイセン! 無理をしないで下がって”
眼を向けるといつの間にかキャロが武器を手に戦っていた。 『気』が読めないとはいえ、そんなことにも気がつかないほどボロボロな状況なんだろう。
ゼノモーフの攻撃はキャロには一切効かないで素通りしているけど、キャロ自身が振る武器もゼノモーフにはろくに当たっていない。
そりゃあキャロは元々ウィザードだから素人が武器を振り回しているのとそうかわりがないのだから仕方がないのだろう。
それに無理をするなって言われても、まだまだゼノモーフはたくさんいて休んでいる余裕なんてない。
「聞こえなかったのか? 下がるんだ!」
ディルムッドが俺を掴んで引きずって玉座の間の入り口まで連れて行こうとする。
「何を!?」
「今から不死王が何かやらかすそうだ」
言われて不死王を探すとゼノモーフに囲まれて、インナーマウスや槍のように鋭い尻尾に刺されまくりながら戦い続ける姿が見えた。
「あの状態で何ともないというのは、やはり人知を超えた存在だな」
リセスドも肩で息をしながらその光景を眺めている。
「強さで言えばさほどでもなく見えるが、不死でしかもあそこまで再生が早いとなると敵に回すのは御免被りたいものなのは確かだ」
「それは不死王はどちらかと言うとソーサラー寄りだから仕方がないよ。 失敗を気にしないで原初の魔法が使えるから、不死王の魔法は実質エラウェラリエルよりも強力だよ?」
「先ほど俺が見たアレか」
「うん、アレはパワーワード・キルっていう高位魔法の原初魔法で、普通なら1体に対してしか効果がないものなんだけど、視界に映る全てに効果があるみたいだったかな?」
まるで自分がやったかのようにセーラムが嬉しそうに説明している。 話からして先ほども使ったようだ。
「準備いいよ! 不死王」
セーラムの声で不死王が片腕を上げて答えたけど、直後にその腕は切り落とされた。
もっともその直後には再生しているけど。
「魔の原初にして元なる魔法。 今その力を解き放たん。 原初の力を顕現す……」
ウィザードのように印字を組みながら詠唱している。
不死王ごと玉座の間全体が何かに包み込まれていき、包み込まれたゼノモーフたちはそこからは出られなくなっているようだ。
「融解」
中からそんな不死王の声が聞こえた。
その直後、ゼノモーフたちがドロッと溶けだしていく。
全てが液体化すると魔法の効果も切れたようで、しっかりと目視できるようになった。
「この液体……全てがゼノモーフだというのか?」
最初に声を出したのはリセスドだった。
「ついでに不死王まで溶けたみたいだが……これ、大丈夫なのか?」
「俺に聞かれてもわかんないよ」
そんな事を俺に聞かれても困る。
みんなが見守る中、一部の場所が徐々に骨の形状を作り出し初めて、見る見るうちに血管から筋肉、そして皮膚が再生されていき、最後に髪の毛が元の通りになると、一糸纏わぬ姿で不死王が元どおりになった。
最初の方は見ているだけで気持ちが悪くなるその光景だったけど、元どおりに戻ったのを見てホッとした。
1人を除いては。
「ちょっ! はわわわわわー」
慌てた様子で手で顔を覆いだすセーラムだけど、指の隙間からしっかり見ている姿は可愛らしく思える。
そして今更ながらキャロもいなくなっているのに気づいた。
「でかっ!」
「奴にアレは無用の長物じゃないのか?」
思わず不死王の逸物に目がいって叫んでしまう。 それぐらい立派すぎるものが不死王に付いていた。
「やはり服までは再生しないんだな」
「当然だ」
何を言ってるんだとでもいう目で再生しきった不死王がリセスドを見つめ、リセスドも自身の馬鹿な発言に頭を掻いて誤魔化している。
素っ裸の不死王にセーラムが、所持していたマントを取り出して顔を真っ赤にさせながら渡す。
「無用の長物かどうかは……まだ試した事がないな」
「いい加減その話を引っ張るのはやめてー!」
不死王は意外に冗談も通じる相手のようだ。
倒しきった玉座の間を見回して自爆したセドリックを思いだした。
「セドリック……」
俺が最後に見た辺りに目を向ける。
不滅の象徴である不死王とは違い、セドリックが蘇る事はない。
「あの男はこの戦いに死地を求めたらしい」
「リセスド、それどういう事」
セドリックはこの戦いに参加する条件に死を要求していたんだそうだ。
ただその理由までは教えてもらえなかったらしいけど。
「たぶん少し前の俺と同じだったんだろうな」
ディルムッドがボソッとつぶやいた。
「俺は戦うためだけにずっと生きてきた。 それがなくなった時どうしたらいいのか分からなくなった。 もしかしたら、いや……」
「同じ兵士だからわかるというわけか?」
今のでリセスドはどうやらセドリックが異世界転生者だと知っていたようだ。
「あくまでも憶測でしかないがな」
「我からすれば羨ましい悩み……っ! カハッ!」
え……?
不死王の胸を貫いていた。
しかもその貫いたものは俺の腕だった。
不死王が俺のことを見つめてくる。
「違う! これは俺の意思じゃない! 籠手が、籠手が勝手に!!」
不死王が何かを言おうと手を伸ばした直後だ。
ファサ……
塵となって不死王が崩れてしまった。




