城と不信
静かだ。
城の外から聞こえる限りでは物音もしないし『気』も感じない。
「リーダー、気配は感じ取れますかな?」
首を横に振るしかできない。 気配が全く感じられないなんて言いたくなかったから。
「まぁまだ大きな城の一角ですからな。 もしかしたらどこかに避難をする場所か、抜け道ぐらいはあるかもしれませんな」
確かに俺の気配を読む範囲は7つ星の騎士が使う感知よりもかなり狭い。
僅かな可能性を期待しながら、捜索と女王に繋がる道を探す。
「なぁマイセン、お前さんが『気』を感じないというのならそれはゼノモーフもいないという事だよな?」
「そのはずだよ」
「だったら、手分けをしたほうが早くはないか?」
ディルムッドの提案に俺がセドリックを見る。
「確かに……悪くはない提案ですな」
となるとどう別れるかだ。
「俺とセドリックが組む。 マイセンはリザードマンに嬢ちゃんもついてるから十分だろう? それにリザードマンもお前からは離れないはずだ」
確かに……
「じゃあ些細な事でも発見したらここに戻って全員であたろう。 それと何も見つからなくても1時間後にここに集合で」
「了解リーダー。 一応ドワーフの城ですからな、いろいろと仕掛けもあると思いますから無闇になんでも触らないほうがいいと思いますな」
「うん、わかった。 セドリックもディルムッドも気をつけて」
2人が頷いたのを確認して二手に分かれた。
気配が完全に感じられなくなったところまで離れるとキャロが俺に聞いてくる。
“ねぇマイセン、セドリックって何者なの?”
「うん? もしかしてキャロ、セドリックの事を疑っているの?」
“疑っているわけじゃないと言えば嘘になるけど、集められた勇者の中で唯一身元が不明じゃない?”
それは確かに俺も思っている。 だけどセドリックもサハラ様が選別した1人なのだから大丈夫なはずだ。
“じゃあ反対に、ディルムッドは信用できるの?”
は? 何を言っているんだ。 今までずっと仲間として一緒に苦楽をともにしてきたのに、なんで今になってキャロはディルムッドを疑っているんだ?
「俺は信用しているよ。 どうして今更そんな事を聞くの?」
“うん……”
先ほど二手に分かれる話をしているときに、ディルムッドがキャロに目配せをしていたらしい。
そうなると考えられるのは、ディルムッドがセドリックを怪しんでいるか、あるいわディルムッドが実はデスに関係していた? それはまず無いはずだけど、もしそうならセドリックが危ない。
この二手に分かれる提案もディルムッドからのものだ。
つまり提案をしたディルムッドがなんらかの考えがあってというのが普通だろう。
“もちろん純粋に手分けの可能性も無いわけじゃ無いわ”
確かにこの城は相当広そうだ。
「選択肢は2つ、2人を追うか、それともこのまま捜索を続けるかだね。 キャロはどっちがいいと思う?」
“あのさマイセン、追うって言ったって今気配が感じられない距離まで離れちゃってるんでしょ? だとしたらこのだだっ広い城で2人を探すのは大変だと思わない?”
まぁ確かに……でも何かを見つけるよりは楽な気がするけどなぁ。
グアグア!
「ん? ガーゴどうしたの?」
黙っていたガーゴが何か俺に言ってくるけど、言葉がわからないからキャロに通訳をお願いする。
“え! あ! 本当だ!”
キャロが辺りを見回して自己完結している。
「キャロ?」
“あ、ごめんなさい。 ガーゴに言われてつい……えっとね、城に入ってからあちこちに戦った後はあるのに1体も死体が見当たらないと思わない?”
キャロに言われて俺も辺りを見回すと確かに血が残ったりしているのに死体が見当たらない。
「どういう事だ?」
グアグア!
“引きづった跡があるって言ってるわ”
それは俺も気がついていた。
どちらにせよ、この血の跡を追えば何かわかるかもしれない。
「ガーゴよく見つけてくれたね、ありがとう。 よし、手がかりは見つかったんだからセドリックとディルムッドの方に行こう」
褒められたガーゴが尻尾をぶんぶん振っているところから喜んでいるんだろう。
2人と別れた城の入り口のホールまで戻ったけど、2人の姿はなかった。
ちょうど反対側に向かったからそちらに向かって少し移動すると先の方から2人分の気配が感じられた。
「コッチだ」
小走りに進んでいく。 近づいていく気配の先から話し声が聞こえてくる。
「しっ! ちょっとここで待って」
どんな会話をしているのか気になったからだ。
そっと聞き耳を立てながら会話を聞いてみる。
「リーダー、盗賊相手に盗み聞きなんてうまくいくと思ってるんですかな?」
ひょっこりとセドリックが顔を覗かせてきた。
「え、い、いやぁ……」
「気がついているとは思うが、セドリックに問い詰めてみたんだ。 安心してくれ、セドリックは確かに信用できる人間だった」
「ディルムッドはそれを確認するためにわざと二手に分かれる提案したの?」
「いや? それもあるが、実際にここはまるで1つのダンジョンのように広いと思ったのも事実だ」
ひ、ひとつのダンジョン……
地下世界に住んでいたディルムッドだからこそわかるらしく、庭園で先に行ったときにざっと全体を見た限りだけで、その広さを図れたらしい。
「ドゥエルガルならもっと正確に読むだろうが、俺の見立てだと上は5階層、地下に該当する部分はおそらく10階層はあるかもしれんな」
はい!? そんな広いのここ?
「正確に言うとですな、この城はこの先に繋がるダンジョンと繋がってるみたいなんですな」
「そ、そうなんだ……じゃなくて、セドリックって何者なの?」
「そっちが知りたいですかな?」
知ったらいけない事なのかな? 聞かないほうが良いのか?
「いやぁディルムッドが信用できるっていうのなら別に良いんだけど……」
「知りたい、んですな?」
セドリックがニヤリとさせてきた。




