お洗濯
冒険者ギルドに戻って姿を見せると涙目になったヴェルさんに腕を掴まれて、猛烈な勢いで下宿先に引きづられるように連れて行かれた。
「一体どうしたんですか?」
「どうしたじゃないわよ! 背負袋開けてみたら猛烈な悪臭が襲ってきて、何かと思えば腐りに腐った何かがあったわよ!」
あ……それは数日前に僕が残しておいた携帯食だ……昨晩の据えた匂いの原因はアレだったのか。
「ゴメンなさい!」
「もう! いつもいつもそうやって謝れば許されると思わないの!」
どうやら腐った携帯食のせいで、冒険者ギルドに来ていた一部の鼻の良い獣人の冒険者が卒倒したりで、ギルド内が騒然となってしまったらしい。
ひとまずギルドで謝罪して大事にはならないで済んだみたいだった。
僕が何も言い返せないでいるとヴェルさんがため息をついてくる。
「まぁマイセン君の事だから? 悪気があってじゃないのはわかってるわよ? でもね、今回だけはちょっと許せないわ」
そう言うと小袋を手渡してくる。
「コレ! 責任もって匂いが取れるまで洗濯しておくこと!」
「はい……」
というわけでキャロンさんに今日は竜角山に行けなくなった事を言いに行こうと、僕が下宿先を出たらキャロンさんが立っていた。
「また怒られてたってところからすると、あの騒ぎの原因はマイセンってところかな?」
やらかした事を話して今日は行けなくなった事も話すと、キャロンさんは嫌な顔1つしないで了承してくれた。
まぁ洗濯は孤児院で慣れてるからいいや。
下宿先に戻って、どうせなら一緒に僕の服も洗っちゃおうと今着ている服を脱いで、庭先に向かい小袋から服を取り出していく。
ギルド職員の制服のスカートとシャツ、それと上着に……
ピラッ……
最後に取り出したもの、それはヴェルさんのブラジャーとパンツだった。
「よぉし! 洗うぞ!」
一枚一枚丁寧に洗って匂いが残ってないか確認する。 ヴェルさんの洗濯物が終わると今度は自分のも洗って干していった。
綺麗になって満足してるところへ、慌てた様子でヴェルさんが姿を見せる。
「マイセン君! 洗濯物の中に私のっ!」
「はい?」
全部洗濯して干してあるのを目にして口をパクパクさせながらなぜか絶句している。
「大丈夫ですよ? ちゃんと匂いが残ってないか確認しながら洗いましたから」
「に、におい……嗅いだ……の?」
「はい、そうしないと匂いまで落ちたかわからないじゃないですか?」
あれ? 孤児院で洗った洗い方だったけど、間違っていたのかな。
「そ、それって孤児院でも、シスターテレサのもそうやって洗っていたの、かな?」
「シスターテレサは自分のは自分で洗ってました。 以前一緒に洗おうとしたら、なんでか凄く怒られたけど」
うわぁぁぁぁぁって叫んだかと思うと、涙目になりながら干してある制服と下着を乾いていないのに引ったくってヴェルさんはいなくなっちゃった……
夕方に夕食代を貰いに行った時は、ヴェルさんじゃなくてスクルドさんから今日は受け取った。
あとでわかったことだけど、ヴェルさんは携帯食の残りが何かわからず、開いた瞬間のあまりの悪臭で膝下に落っことしてぶちまけちゃったんだとか。
そのせいで余計に匂いが広まったらしい。
もっともこれはその日の夜、夕食を食べて戻ったら僕の部屋のベッドで横になっていたスクルドさんに、大笑いしながら教えられたことなんだけど。
「それじゃあ今度、私の下着も洗ってもらっても良いですか? なぁ〜んて冗談ですよ」
「僕が洗濯する時で良ければ一緒に洗いますよ」
「……まさかマイセン君の朴念仁がここまでとは……ん〜、えへっ、じゃあその時はお願いしちゃいますね!」
「ぼくねんじん? にんじん? わかりました、任せてください!」
なんか嬉しそうな顔をしながらスクルドさんは自分の部屋に戻っていった。
ベッドに残るスクルドさんのほのかな暖かさに包まれて、その日、僕は眠りについた。
次話更新は本日のお昼頃を予定しています。




