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幻覚

 ドワーフ王コイーバのとてつもなくでかい城を見て驚いているあいだに、セドリックは庭園の青々とした植物を見つめている。



「これは全部苔ですな。 さすがに一冒険者が立ち入ることはできなかったのでずっと気になっていたんですが、まさかここにきて知る事になるとは思いもしなかったですなぁ」


 言われて俺も苔を見る。 そこでふと気になる部分があった。



「セドリック、おかしくないかな?」

「何がですかな?」

「荒らされた形跡がない」


 ハッとなったセドリックが苔というより庭園全体に目を通し始める。

 もしもゼノモーフがここにも来ていれば、今も庭園がこんなに綺麗なままなのはおかしい。

 そして遠い先に見える居城には、ゼノモーフに崩されたような部分が見える気がしたからだ。



「まさか……」

「何かわかったか?」


 不思議な事にディルムッドは楽しそうにセドリックに聞いている。



「この庭園は幻影、あるいわ幻覚ですな!」

「ご名答!」

「ディルムッドは気がついていたの?」


 ディルムッドが当然だと答えてきた。

 100年ほど前まで地下世界(アンダーダーク)の住人であったドゥエルガルとドラウは魔に対する抵抗力が高いのだそうだ。 ゆえにこの庭園が幻覚であることはきたときに気がついていたそうだ。



「ディルムッドも気がついていたんなら教えてくれればいいじゃないか!」

「教えてくれればと言われてもなぁ……」


 つまりは俺とセドリックが綺麗な庭園だとか言っていないから気にしなかったのだそうだ。



「それじゃあディルムッドはこの庭園がどう見えてるの?」

「そこらじゅうドゥエルガル……いや、ドワーフの死体だらけだ。 それとゼノモーフのものも多数ある」


 幻覚のせいで本来見えるはずのものも見えていないという事か。



「という事はつまりこの辺りには……」


 セドリックが一歩先が庭園になる場所を指差しながらディルムッドに聞いている。



「そこにはゼノモーフの死体があるな」


 どれと言わんばかりにディルムッドが槍で苔の部分を突き刺して引っ張り出すと、ゼノモーフの死体が出てきた。



「ガーゴには見えているの?」


 ガーゴがグアグアと横に首を振っているところからわからなかったようだ。



「私とリーダーとガーゴには見えないとなると……ここの突破は厳しそうですなぁ」

「そうなの?」

「そりゃあそうですな。 何しろ死体だらけなのに足元がわからないという事は、足がとられてしまいますな」


 そうか……暗闇ででこぼこ道を歩くようなものなのか。



「魔法でこの幻覚はなんとかできないかな? キャロ」

“うーん、私にも幻覚は通じないみたいだから酷い有様なのは見えているの。 という事は幻覚がかかっていると認識できていないから解除できるかどうか……それ以前に私の魔法で解除できるかしら?”


 とりあえずやってみるとキャロが魔法の詠唱に入る。


“…………魔法解呪(ディスペルマジック)


 魔法を唱えると地面が徐々に本当の姿を映し出していき、ディルムッドの言った通り庭園だと思っていた床は死体で覆い尽くされていた。



「これはすごい有様ですな……」

「う、うん……あっ」


 すぐに床が元に戻っていってしまった。



“ごめんなさい、私の魔力だと一時的が限界みたい。 それと上位の魔法解呪(ディスペルマジック)じゃないと無理みたいね”

「どうするマイセン? なんなら俺が道を作ってもいいんだぜ?」


 どうやって? と聞くまでもなくディルムッドがまるでほうきでもはくような仕草を槍で見せてくる。



「いや……ここにはゼノモーフだけじゃなくドワーフ達の死体もたくさんあった。 それを槍で避けていくような事はあまりしたくないな」

「じゃあどうするっていうんだ?」


 他に方法はないのか?


 ……この幻覚さえ消せれば。


 不意に魂抜きの籠手をつけた手が動き出し、雑な動きで払うような仕草をすると幻覚がまるで吹き飛んだように消えていく。



「うわ、幻覚が消えた!?」

「き、消えましたな」

“呆れた……なんなのその籠手。 私の存在価値がないじゃない”

「そんなことないよ。 キャロがやって見せてくれたからできたんだよ……たぶん」

“ふーん……ま、そういうことにしておいてあげるわ”


 キャロが不機嫌そうに答えてくる。 それをディルムッドは楽しそうに見ていた。



「ま、まぁこれで先に進めそうですな」


 セドリックが苦笑いを浮かべながら城の方へと死体を避けながら足を進めはじめる。

 習うように俺とガーゴも進みはじめ、キャロは浮遊しながらついてきている。



「俺は先に行って調べておくとしよう」


 ディルムッドはそういうと瞬間移動を使ってあっという間に城の方に行ってしまった。



「あれはインチキですなぁ……人間がどれだけ努力しても超えられない壁ですな。 言葉を借りれば、存在価値がないですな」


 一歩一歩死体に気をつけながら進みつつセドリックがこぼしている。

 あの瞬間移動があるだけで、盗賊(シーフ)としての役割や戦闘手段に大きく差ができるのだそうだ。

 スカサハがドラウの盗賊(シーフ)だけど、確かに戦闘の時の奇襲攻撃は凄かった。



「でもディルムッドは戦士だからセドリックの盗賊(シーフ)の力は必要になってくるよ」

「だといいですなぁ」


 苦笑いを浮かべながら笑って答えてくる。

 そこでふと思い出し、セドリックは一体何者なのだろうと。

 今回選ばれた人選はサハラ様が選んだ信用できる人だと言っていた。

 トラジャはマルボロ王国のララノア女王お付きの鍛冶職人だったらしい。 しかももともとは地下世界(アンダーダーク)でドゥエルガルの頭領だかで、本来であればここロミオ・イ・フリエタの隠し通路なんかも詳しいだろうという事だったらしいけど、残念ながら亡くなってしまった……

 そしてアラスカ、言うまでもなく7つ星の剣に選ばれた英雄セッターの娘であり7つ星の騎士だ。

 セーラムは今なお生きる伝説の英雄で、サハラ様の娘のような存在だと聞いている。

 リセスド、サハラ様と戦ったこともあるらしく、しかも勝利までしたと言われるパーラメント一族の末裔で、後に初代パーラメントはサハラ様と交友もあったらしい。 故に信用もあるんだろう。

 そこから考えていくとセドリックだけが接点が薄い。 前に一度だけセドリックが俺に似たようなものと言っていたのだけはおぼえている。


 セドリックが一体何者なのかわからないが、サハラ様が選んだのであれば敵ではないだろう……



 そんな事を考えながら歩いている間にドワーフ王コイーバの居城まで辿り着いた。




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