出生の秘密
話が済んでディルムッドを迎えにいく。
当然断る権利もあるけど、ディルムッドは一つ返事で行くことになった。
そしてゲッコの埋葬を手短に済ませた後、俺たちはキャビン魔道王国へ向かおうとした。
「マイセン!」
息を切らせてスカサハが猫ちゃんと姿を見せる。
2人は今、オーデンさんの元で罪滅ぼしに無償で働いているのだそうだ。
もっとも猫ちゃんは「猫は無関係にゃり〜」とわめいていたけど。
「奥さんと生まれてくる子供のためにも必ず帰ってくるのだ」
ハイとは言えない。
今度の相手はおそらく神様なのだから。
「必ず倒してみせるよ」
そう返事を返してからギルガメシュさんの方を見る。
「ある程度はレディマトゥルに聞きました。 ギルガメシュさんならきっと、メビウス連邦共和国を再建できると思います」
「タワケめ! 貴様が勝手に俺様の人生を決めるな!」
「あはは、そうですね。 今まで色々とお世話になりました」
「フン、男として生まれたのであればしっかり使命を全うしてこい! 我が弟よ」
「え!?」
ギルガメシュさんはそれだけ言うと口を噤んだ。
「まさか……そういうことでしたのねお兄様」
「レディマトゥル、どういうことですか?」
そっぽを向いてしまっているギルガメシュさんには聞きにくく、レディマトゥルも何か知っているようだったので聞いてみた。
そこで今こんな時になって初めて俺は知った。 紋章の入ったシグネットリングは通常人に貸すなんてことは絶対にしないものなのだそうだ。
「血が少しでも繋がっていれば別ですわね」
「それって……どういうことですか?」
「どうもこうもお兄様は貴方のことを弟だと知っていたようですわ。 という事はつまり私の弟でもあることになりますわね」
その昔、ギルガメシュさんの父親には愛人がいて、2人の間に子供ができてしまったらしい。
らしいというのは、ある日を境に愛人は行くへ知れずになってしまったからそうなんじゃないかと思ったんだそうだ。
ギルガメシュさんが冒険者になったのも、実は長男ではなかったために父親から密かにこの話を聞かされて探し出してほしいとお願いされたかららしい。
また隠密に行動しなければならないとなると、口を割らないように出来る奴隷が便利だったから、仲間は奴隷ばかりだったのだそうだ。
「なんでその事をレディマトゥルが知っているんですか?」
「別荘である屋敷でお兄様に当てた手紙を見つけたんですわ」
随分と不用心にも感じたけど、自分の出生を初めて知り更にはギルガメシュさんが俺の兄だったことに驚きを隠せない。
「じゃあ俺の本当の母さんもギルガメシュさんは知っている?」
「当然ですわね、そうでなければどうして貴方が弟だって気がついたと思いますの?」
それならばなんで早く教えてくれなかったんだ。
「……そこはマイセン、あなたの生まれ育った境遇を見るからに母君はきっと……」
そこでアラスカは言葉を詰まらせる。
亡くなったと言いたかったのだろう。
「ギルガメシュさんお願いします、本当の事を教えてください!」
我関せずな素振りをしていたギルガメシュさんに詰め寄る。
目だけ俺の方に向けてから大きくため息をついた。
「なら教えてやるが覚悟して聞け! お前の母親は俺様が探し出してやった。 だが見つけた時はガリガリにやせ細りながら貴様に乳を与えて暮らしている姿だった」
ギルガメシュさんと会った母は俺をギルガメシュさんに託してすぐに息絶えてしまったらしい。
俺の母は元貴族のお嬢さんだったらしかったが、没落してしまったのだそうだ。
ギルガメシュさんの父親とそういう関係になったのも養ってもらう代償だったのだそうだ。
そしてある日妊娠したのがわかった時、没落貴族の娘をかくまっていた事が公になればギルガメシュさんの一家も最悪没落してしまいかねない。
迷惑はかけられないと、今まで貰っていた僅かな金品を手に出て行ったそうだ。
「働いた事もない貴様の母親は金目のものでしばらくはしのいだが、それもすぐに底を尽きたというわけだ」
「そうでしたか……」
ん? じゃあ俺をここに預けたのは……
「孤児院に預けたのは俺様だ。 貴様を連れて戻れば当時いずれは家督を継ぐ兄上に迷惑がかかってしまいかねなかったからな」
話の内容は衝撃的だった。
「さて、すべて教えてやった。 恨みたければ俺様を恨んで構わん」
俺は1人ぼっちじゃなかった。
家族がいた。
「ギルガメシュ……お兄さん……」
「貴様を孤児院に置き去りにした俺様を兄と呼ぶのか?」
「おかげで今日まで生きてこれました! ありがとうございます!」
クソッと小さく呟いたあとギルガメシュ兄さんが俺を抱きしめてくる。
思わず涙が溢れてしまった。
「一応、姉もいますわよ?」
「マトゥルお姉さん!」
「きゃ!」
飛びつくようにレディマトゥル……マトゥルお姉さんに抱きついた。
「どうせならこんな世界になる前に出会っておきたかったものですわ」
俺の頭を優しく撫でてくる。
「全て知って隠していたのだな、だからマイセンの側にいつもついていたのか」
「貴様も義理とはいえ俺様の妹という立ち位置だと知ったのなら無駄口を叩かずに黙っていろ」
俺にはアラスカ以外にも家族がいた。 生きていた。 ヴァンパイアになってしまったマトゥルお姉さんは如何かと思うけど、ひとりぼっちじゃなかった事が嬉しかった。
「感動的なシーンなのに申し訳ないけど、そろそろいいかなぁ?」
少し控えめにキャス様が聞いてくる。
もうこれだけで十分だ。
「はい!」




