マイセンの気持ち
「バケモノ」
大統領が呼び集めた兵士たちからそんな声が聞こえてきた。
ナーサイヴェルなら今倒したじゃないか?
そこで気がつく。
バケモノと言って見つめているのが俺であることに……
え?
「お、俺のこと……?」
左手で自分を差しながら尋ねると兵士たちが後ずさりだす。
あ、そうか。 籠手を見て怯えてるんだ。
外そうと魂抜きの籠手を掴んでみると、自分自身の手を掴んでいる感じだ。
「え? あれ? と、取れない!? なんで?」
アラスカが俺の側まで来て左手の籠手に触れてくると辺りが一瞬だけザワッとなったけどアラスカは気にもしない。
そしてグッと力を入れて抜き取ろうとしてみる……
「い! 痛いよ! アラスカ痛い!」
「ふむ……」
俺が痛がるとすぐにやめてくれたけど、こんなことになるなんて【闘争の神レフィクル】様も言ってなかったぞ。
しかも確かこの籠手のことを知っているのは【闘争の神レフィクル】様かサハラ様だけだって言っていたはず。
「ねぇレイチェル、アレってさやっぱりアレじゃない?」
「私もちょっとしか聞いてないからよくわからないけど多分そうよね」
キャス様と【愛と美の神レイチェル】様、何か知ってるのなら教えてください……
そんな事思っていても仕方がないから俺が聞いてみるけど、2人も聞いただけで詳しくは知らないみたいだ。
ただこの籠手が【闘争の神レフィクル】様がまだ神になる以前に、倒すために神々が使った事は間違いないらしい。
「何はともあれ、色々な意味で場所を変えたほうが良さそうだ」
「確かに。 常人があれを見たら怯えても仕方がないですからな、それと……少しそっとしておいてあげるべきですな」
リセスドが周りを見回しながら、セドリックはガーゴを見つめてから俺に言ってきた。
あとでゲッコの亡骸は丁重に弔ってあげよう。
怯える兵士たちと違って大統領は俺たちに場所を変えるからついてくるように言ってくる。
大統領を先頭に俺とアラスカ、リセスド、セドリック、セーラムをなだめながら歩く【愛と美の神レイチェル】様とリリス様、キャス様にギルガメシュさんとレディマトゥル、キャロのお父さんが続く。
俺たちがゲッコの亡骸の前に立つガーゴをそっとしておこうと思ったら、ガーゴはすぐに俺たちの後をついてきた。
「ゲッコのそばにいてあげなくて良いの?」
ガーゴがグアグア何か訴えてくるけど当然何を言ってるのかわからない。
セーラムはグズる女の子のようになっちゃってて通訳は無理そうだし、スカサハも居ないからどうにもならないか……
「ゲッコは戦士として主君を立派に守って死んだ。 あれはもうゲッコじゃないんだだってさ」
キャス様が苦笑いを浮かべながら通訳をしてくれる。
「そんな!」
「種族としての在り方の違いなのだろうな」
「アラスカまで!」
じゃあもしシスターテレサがリザードマンだったら亡骸を奪い返しにはいかないっていう事?
最初に集まった部屋に戻り、もう一度キャス様にお願いして先ほどの疑問をガーゴに聞いてみる。
すると帰ってきた答えは、仲間の復讐はするけどもはや空っぽになった肉体は放置するのだという。
ただ俺らと行動を共にしてきたガーゴは、人種の埋葬というのもなるほどと納得がいくようにもなってきているそうだ。
「ならゲッコもちゃんと埋葬してあげよう? 経緯はどうあれゲッコは俺の仲間だったんだから!」
ガーゴが片膝をついて人種のようにかしこまった態度を見せてくる。
「主君の心遣いに感謝とゲッコの分も精一杯努力するってさ」
そうは言われたけどこの後俺が向かう先はゼノモーフの女王でありもしかしたら神かもしれない。
そんな死ぬかもしれない場所に連れてなんか行けないよなぁ。
「これから行く場所にはガーゴは連れて行けないんだ。 だからここでアラスカを守ってはくれないかな?」
それを首を振ってガーゴは拒絶してくる。
……まいったなぁ。
一旦そこでガーゴの事は後回しにされてしまい、まずは当然ながら魂抜きの籠手の話になる。
その頃にはセーラムも持ち直していた。
「そういえばさっき【愛と美の神レイチェル】様とキャス様が知ってるような事を口にしていたみたいですけど……」
「うーん、どうしよう……怒られたりしないかなぁ?」
「そもそもマイセンは【闘争の神レフィクル】には経緯は聞いてないんだよね?」
「経緯?」
つまり魂抜きの籠手が作られた理由だ。
俺が聞いても【闘争の神レフィクル】様は教えなかったのなら教えられないと【愛と美の神レイチェル】様とキャス様に言われれしまう。
それならとこの籠手の外し方を聞いてみる。
この中ではずば抜けて魔力の高いキャス様が解除の魔法を使ってみたりしたけど、バチッと音がしたと思うと籠手が勝手に動きだして危うくキャス様が魂抜きの籠手に攻撃されるところだった。
「うっはぁ! おっかないや。 悪いけど僕には無理だし、その籠手にはもう関わりたくないよ」
なんか今さらっと酷いこと言ったよね。
とりあえずこれから向かう先に必要な物らしいし、もう盗まれないならそれに越したことはないとまで言われる始末……
そしてここからが問題となって、唯一逃げ出したプリュンダラーの行方の話になっていく。
プリュンダラーは今後俺たちがどうするかをある程度わかっているとした場合、必ずまた霊峰の町に現れるだろうと。
時期によってはアラスカは戦力には完全にならなくなってしまう。
「問題はプリュンダラーが7つ星の騎士っていうところがネックなんだよね。 騎士魔法ってジェダイみたいなものだしさ」
「ジェダイ……ってなんですか?」
「あっそれは気にしないでいいよ。とにかく7つ星の騎士と互角に渡り合えるだけの護衛は必須だよね?」
なぜか俺に聞いてくる。 もちろんアラスカは心配だけどキャス様がそこまで考えてくれていることが不思議に思った。
「じゃないと君、安心して出発してくれないでしょ?」
なるほどそういう事か。
「ディルムッドがいれば大丈夫じゃないですか?」
「それがねぇ……」
苦笑いを浮かべながらキャス様が、妊娠しているアラスカと亡くなってしまったトラジャで戦力不足になってるのは間違いないのだそうで、その穴をディルムッドで埋めたいのだという。
それでも1人足らないし戦力を不安に思っているらしい。
「でもセーラムだっている……」
「うううん、私の本来の得意な戦い方はオープンフィールドでウィザードに近いから狭い場所での戦いはあまり得意じゃないよ?」
確かに見ていてなんとなくそれは俺も気がついていたけど、本人の口からこうもあっさり欠点を告白されるとは思わなかったな。
「というわけで女王討伐には彼も加わってもらおうと思うんだ」
「じゃあアラスカは誰が守るんですか」
ちょうどタイミングを見計らったかのように勝手に扉を開けてメーデイアさんが入ってきた。
「メーデイアさん」
「無理を言って彼女にお願いしたんだ。 と言ってもお願いしたのは大統領だけどね」
「テレサの子の頼みじゃ仕方ないわ。 貴方がいない間は私が彼女を守りましょう」
ゼノモーフの酸もものともしないで戦ったメーデイアさんなら、金竜だし7つ星の騎士でも倒せっこないだろう。
「ありがとうございますメーデイアさん!」
「まったく……テレサもとんだ子を育てたものね」
どういう意味かわからなかったけど、メーデイアさんがいてくれるのなら安心だ。
「一応私もついているんだけどなぁ、ん?」
「あ、あはは、【愛と美の神レイチェル】様もありがとうございます」
どう見たって【愛と美の神レイチェル】様は守られる方のように思うんだけどな。
でもコレで心置きなく行ける!
誰も持ったことのない『気』を読む力を持ち、そして今、魂抜きの籠手を持った俺はバケモノとまで呼ばれるようになってしまっていた。
ならばせめて人の為に戦ってバケモノじゃなかったと証明するしかないだろう。




