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圧倒的な力

 コマンドワードであるらしいソウルスティールと叫ぶと、籠手が自らの意思を持つかのように俺の意に反して何かを掴む。

 そしてまるで引っこ抜くかのような動きをする。



「ぐふぁっ! 貴様……何を」


 何かを掴んで引っこ抜いたものを見るとキャロのお父さんで、ナーサイヴェルの方は元の姿に戻っていて今のでセドリックも抜け出せたようだ。

 気になる掴んでいる場所はキャロのお父さんの身体の中にめり込んで掴んでいるけど出血なんかは一切していない。



「う……ぐぐっ!」


 だけど明らかに苦しげな顔を浮かべているところから見て、籠手の影響による痛みなのが見て取れる。



「魂抜きの籠手! そっちじゃない!」


 必死に引っ張ろうにもビクともしなかった籠手が、俺がそう言うとアッサリと手放して、じゃあアレかとでも言わんばかりにナーサイヴェルの方に籠手が動きだす。



「なんですか! その薄気味の悪い籠手は!」

「コレがお前たちが必死に探していた鍵だ!」

「こっちへ来るな! ええい! 我が眼前の敵を爆せよ! 火球(ファイヤーボール)!」


 驚異的な何かを感じたのか、ナーサイヴェルが魔法を使ってくる。

 『(オーラ)』は相変わらず読み取る事が出来ないため、限界領域(リミットリージョン)でその場を離れようと思ったけど、魂抜きの籠手が俺を逃がそうとしてくれない。



 死ぬな……そう思った時だ。


 バシッと火球(ファイヤーボール)を掴んだかと思うと握りしめて、火球(ファイヤーボール)はまるでボールが破裂したみたいに握りつぶした。



「一体なんなんですかそれは!」


 それはコッチが聞きたいよ!



「ならばこれで諸共生き絶えなさい! 雹よ降り注げ! 雪よ(みぞれ)よ嵐となれ! 氷嵐(アイスストーム)!」


 言うなり辺りが急激に温度が下がってくる。


 このままじゃみんなが!


 そう思った瞬間、またしても魂抜きの籠手が動きだして、大きく左右に腕を振ったと思うと冷気が一気に振り払ってしまった。



「凄い……」


 おそらくこれが本来の魂抜きの籠手の力で、今まではコマンドワードを言わなかったからなのか?


 魂抜きの籠手がナーサイヴェルに触れようと近づこうとするのを、ナーサイヴェルも4本の腕に持った剣で必死に贖ってくる。

 俺はまるで身体を乗っ取られたかのように引き摺られ、なされるがままだ。




 そしてついにナーサイヴェルの身体に籠手が触れる……



「は?」

「え?」


 ナーサイヴェルと俺が同時に声を発する。


 ナーサイヴェルを掴んだ魂抜きの籠手が、掴んだまま持ち上げたからだった。

 その直後、地面に向かってナーサイヴェルを叩きつけようとする……その叩きつけようとしている地面に目をやるととんでもない光景が目に入ってきた。




 いつの間にか地面にポッカリと空いた穴ができている。

 その穴の中には人の姿をしたものたちもいるけど、どちらかというと異形の姿をした生き物が手を伸ばして待ち構えている。



 こ、これが【闘争の神レフィクル】様が言っていた死極なのか……


 直感的に気がつく。 そして……



「ヒィ!」


 それを目にしたナーサイヴェルも小さく悲鳴をあげる。



「ま、待て! 待ってくれ! 私を助ければあの女……そうです、お母さんを助けてあげますよ!」

「なにっ!?」


 迷いが生じたけれど……今そこに投げ入れようとしているのは俺の意思じゃなく、話を聞きたくても止めようにも勝手に動いてしまい、ナーサイヴェルをそこに向かって投げ込んでしまった。




 ポッカリと空いた穴が閉じる直前、ナーサイヴェルが異形の姿をしたものたち掴まれてブチブチと引き千切られ、それをガリゴリと喰われる姿が目に映る……


 そして、何もなかったように穴は塞がって元の地面に戻った。



 我に返った俺が誰かにその状況を聞きたくて見回すと、誰もがみんな今の恐ろしい光景に目を奪われている。

 プリュンダラーとガイモンも戦いを忘れていたほどだ。




 俺の左手に身につけた籠手を一度見たあとプリュンダラーに向き直る。



「ひっ! く、来るなバケモノが!」


 ……バケモノか。


 魂抜きの籠手は身の破滅を招く……このあと俺はどうなるかわからない。 ならばせめて自由が利くうちにプリュンダラーとガイモンも倒さないと。



 『(オーラ)』が読めないナーサイヴェルさえ居なくなれば、あとは(キャロン)でも十分に倒せる。


 プリュンダラーは居合斬りの恐ろしさを知っている。 それを悟ったのかアラスカとガーゴを放って一気に逃げ出し始めた。

 逃すまいと(キャロン)を一閃して居合斬りを放ったけど、防壁(バリア)で防いで更に跳躍(ジャンプ)で遠ざかっていってしまう。



「待て! 卑怯者!」

「グアグーグア!」


 追いかけようとした俺の前にガイモンが斬りかかってきて、喉元を狙ってきていた凶刄をゲッコが俺を突き飛ばして位置が入れ替わり、代わりにゲッコが喉を掻き切られてしまった。



「ゲッコ!」

「チッ! トカゲが邪魔をしくさって」

「貴様ァァァァあ!」


 ゴボゴボと首から血が噴き出して倒れるゲッコの姿を見てカッとなった俺は、つい『(オーラ)』も読まずにガイモンに斬りかかってしまい空を切ってしまう。



「ゴメンなさい!」


 矢のように駆けつけてきたセーラムが俺に謝りながらガイモンを槍で貫いて倒す。



「ゴメン、ゴメンね。 私のせいだ、ゴメンなさい!」


 セーラムが地面に倒れて動かなくなったゲッコに、俺に、駆け寄ったガーゴに泣きながら謝っている。

 あの伝説の英雄とまで言われ、セーラム女帝国の女帝でもあるセーラムがだ。



 グアグアグアグアゲッコゲグアグアグアッガ


 ガーゴが兄であるゲッコを見下ろしながら泣きじゃくるセーラムに何かを伝えている。

 コレは俺にも何となく何を言ったのかが分かった。

 おそらく……



 ——兄は立派に戦った。


 辺りだろう……


 【愛と美の神レイチェル】様がゲッコに触れて声をかけたけど、俺とガーゴを見て首を振ってくる。



「ゴメン……人種じゃないから私でも無理みたい」


 神様にも制約のようなものがあるようだった。






 プリュンダラーは逃したものの、ナーサイヴェルとガイモンを倒したところで落ち着きを取り戻した俺は、辺りがシンと静まり返っていることに気がつく。



 そして……



「バ、バケモノ……」


 そんな声が俺の耳に入ってきた。




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