霊峰の町へ
新章に入ります。
ウィンストン男爵領に戻った俺がまず驚いたのはディルムッドがいたことだ。
そしてことの成り行きなんかを聞かされる。
魔導門が開かなかった理由、それたぶん俺のせいだぁぁぁぁぁ!
そして【闘争の神レフィクル】様に終わったのかを尋ねられ、倒したけど消えていなくなっていたことを話す。
その際にレディマトゥルとキャロの父親の事なんかも説明したんだけど、2人とも【闘争の神レフィクル】様の前ですっかり萎縮していた。
ルベズリーブ様が言うにはそれが正常なのらしい……じゃあ俺は?
それでナーサイヴェルについてなんだけど、シスターテレサの仇はちゃんとは討てていないそうだ。
「彼奴の魂は未だ死極にある。 如何様にして抜け出したかはわからぬが、またすぐに戻ってくるであろう」
「やっぱりナーサイヴェルは死んでいないんですね……」
まぁ倒せないのなら仇は取れていないけど、シスターテレサの遺体だけは持って帰れたのだからよかったと取るべきなのかな。
「それと鍵とやらを見せよ」
ディルムッドから聞いたようで、【闘争の神レフィクル】様が鍵を見せるように言ってくる。
俺が袋ごと渡そうとすると、【闘争の神レフィクル】様がなぜか渋い顔をして見せるだけでいいと言われる。
袋から籠手を取り出すとまるで予感が的中した時のような顔をしてくる。
「……やはり『魂抜きの籠手』であったか」
「『魂抜きの籠手』?」
「それは鍵でもなんでもない。 その昔【鍛冶の神スミス&トニー】が創造神の命により作らされたものよ」
まず鍵でもなんでもないことに驚く。
だとしたらなんのために必死になってまでデスやニークアヴォが欲しがったのか? それとなんで鍵と言われていたのか。
「その籠手は神が作り、神をも超えた力を持つものよ。 ただし身につけたものには破滅が訪れよう、ぞ?」
その意味は俺にはわからなかったけど、【闘争の神レフィクル】様からは憎しみすら感じられる目で『魂抜きの籠手』を見ていた。
身の破滅に関しては迷宮の町でミシェイルを見たからなんとなくわかる気がする。
「……だが、その籠手を使っていれば、ナーサイヴェルを殺せたやもしれぬな」
「え!? それはどういうことですか?」
【闘争の神レフィクル】様でもそこまで詳しくはわからないらしいけど、何か知っていることも隠しているようにみえる。
「知る者は余しかおらぬというわけか……いや、世界の守護者もおそらくは知っているだろうが、今は行くへ知れずか」
【闘争の神レフィクル】様はやっぱり『魂抜きの籠手』の事を知っていることは間違いない。
そしてサハラ様が行くへ知れずなのであれば、今ここで聞いておくべきだろう。
「【闘争の神レフィクル】様、お願いします。 俺に『魂抜きの籠手』の事を教えてください」
「知ってどうする?」
「必要であれば……使います!」
結論から言うと、『魂抜きの籠手』の事を教えてもらえ、そして意外なことに使うなとも言われなかった。
キャス様に言われた通りにルベズリーブ様にお願いして俺たちは魔導門を抜けて霊峰の町外れに出る。
そこは孤児院から少し離れた場所で、目視でも孤児院の外壁が見える場所だ。
孤児院のそばまで来ると、外壁の上には誰も見えない。
ディルムッドのほうに振り返ると、ディルムッドが後を追う時は変わっていなかったらしい。
「誰かいないのか!」
門は開け放たれたままになっていて、中を覗いてみたけど荒れた様子はまったくない。
人の気配も……いや、こちらに向かってくる集団の気配がある。
「ディルムッド!」
頷いてきて身構えた直後だ。
「兄ちゃーーん!」
「お帰り〜」
「あ! シスターテレサもいるよぉ〜」
ぞろぞろ走って出てきたのは孤児院の兄弟たち、それとその後から【愛と美の神レイチェル】様とアラスカも出てきた。
兄弟たちに囲まれてキャーキャーワーワー騒がれる中、遅れて【愛と美の神レイチェル】様とアラスカが到着する。
「無事仇は取れたのね、ん?」
「えっと、どうなんでしょうね……」
曖昧な返事で返すしかできない。
「お帰りなさい、あなた」
「ただいまアラスカ、それとみんなは?」
「町の復興をはじめている」
ゼノモーフの危機が去って、生き延びた人たちは町へと戻ったそうだ。
セドリックやリセスドたちは大統領府の方にいるらしい。
「それで、その隣にいる2人は誰だ?」
「うん、えっとギルガメシュさんの妹のレディマトゥルと、キャロのお父さんだよ」
「キャロンの父親は良いとして、レディマトゥル? そんなに真っ赤な目をしちゃってるところをみると貴女ヴァンパイアよね、ん?」
横で聞いていた【愛と美の神レイチェル】様がさも言い当てたかのように胸を張ってくる。
それを癇に障ったようで、
「ヴァンパイアですが何か?」
「ちょ、レディマトゥル! この方は……」
慌てて【愛と美の神レイチェル】様の紹介をすると、レディマトゥルがに慌てて謝っていた。
「うーん、マルスの時もそうだったけど、貴族って離れ離れになった家族に知らせる為にヴァンパイアになる趣味でも持ってるのかなぁ、ん?」
「それはひどい言われようだと思いますわお姉様」
突然の声に驚いてそちらに顔を向けると、そこにも黒いローブ姿の女性がいた。
と言うより、お、お姉様?
「あらリリスちゃん来てたのね、ん?」
「あ、貴女は!」
えっと、どうやら【愛と美の神レイチェル】様をお姉様と呼んで、レディマトゥルが貴女はっていうことは……
「彼女はリリス、英雄王マルスの妹君でおそらくはレディマトゥルをヴァンパイアにしたといったところだろう」
アラスカが見知った間柄なのか俺に教えてくれるんだけど、俺だってなんとなく雰囲気でわかったよーだ。
それよりもだ。 レディマトゥルを早くギルガメシュさんのところに連れて行こうと思ったんだけど、リリス様? との会話が弾み出してる。
そんな状況の中、半ば放置されていたキャロのお父さんが俺に声をかけてくる。
「そういえば確かこちらにデスのガイモンとプリュンダラーの2人が捕まっていると報せを聞いていたが……2人は今どこに?」
「たぶん大統領府の方じゃないですか? これから大統領府の方に行くからわかると思いますけど、どうしてです?」
「いや、もうナーサイヴェルはいなくなってデスも壊滅したといえば、彼らも考えが変わるだろうと思ってね」
そこでナーサイヴェルの名前が出て思い出してアラスカに7つ星の剣の事を聞いてみると、やっぱり7つ星の剣が消えてしまったそうだ。
なのでナーサイヴェルと戦った時のことを話すとアラスカが頷いてきた。
「7つ星の剣が私はもう世界を救うことはもう無いと知り、袂を分けたのだろうな。 そしてあなたも断ったから去ったのだろう」
少し残念そうにも聞こえたけど、すぐにお腹を撫でる姿を見せて笑顔を俺に向けてきた。
いつまでも終わりそうにない会話を終わらせようと意を決して声をかけることにする。
「あのぉそろそろギルガメシュさんのところに行きませんか?」
アッとすっかり話に花が咲いてギルガメシュさんの事を忘れていた様子のレディマトゥルが真っ白い顔をわずかに赤く染める。
ディルムッドは兄弟の面倒を見る為に残って、なぜかリリス様も一緒に大統領府に向かう事になった。
「死んでいるようには見えないのだな」
「うん、今も背負ってて柔らかいままなんだよ」
そうか、とアラスカがシスターテレサの顔を覗き込んでくる。
「たぶん【死の神ルクリム】も忙しくて輪廻に還すのに時間がかかっているのかもしれないのかも?」
指をピンと立てて【愛と美の神レイチェル】様が理由を教えてくれる。
「そういうものなんですか?」
「さぁ?」
ウヲイ!
こういうところを見ると【愛と美の神レイチェル】様大丈夫なのかと思ってしまう。
そうこうしているうちに大統領府にたどり着いてしまった。




