母さんの仇
目が覚めたと思ったら外にいた。
しかも手にはアラスカが所有しているはずの7つ星の剣を持っていて、目の前にはナーサイヴェルの姿こそしているけど、下半身が蛇という魔物がいた。
“マイセン”
キャロが俺に刀を手渡してくる。 これで俺の手には刀と7つ星の剣が握られている事になる。
“ゴメンなさい。 私のせいで倒せる相手も倒せなくしちゃったかも……”
キャロがすごく申し訳なさそうな顔で俺に謝ってきた。
その意味がよくわからなかったけど、今はナーサイヴェルらしい奴が先だ。
「話は終わりでいいんですか? どうやらあなたは私の宿敵の転生者だったようですねぇ」
「宿敵?」
「そうです、生前に私を殺したセッターですよ!」
つまりどうやら俺が意識を失っている間に前世であるセッター様が代わりに戦ってくれていたようだ。 だけど俺が目覚めたせいで消えてしまった?
——いいや、私は消えてはいない。 君は君のまま……私の娘と、アラスカと共に生きてくれて構わない。 ただ忘れないでほしい、君は君でもあると同時に私でもあるという事を。
そんな声が聞こえた気がした。
俺であると同時にセッター様でもある……
「何をブツブツ言っているんですか? まぁどちらにせよ、ここに存在しない私を倒す事は絶対に不可能なんですけどねぇ!」
俺が俺で……つまり俺にも7つ星の剣が扱えるということなのか?
“マイセン!!”
気がついたときにはナーサイヴェルが魔法と同時にいつの間にか手に持っていた弓で矢を放ってきていた。
考えるより試してみるしかない。
「7つ星の剣……セッター様じゃないけど俺に力を貸してくれ!」
俺は刀ではなく、7つ星の剣を試してみることにする。
ok my master —— auto barrier
そんな声が7つ星の剣から聞こえたと思うと俺の手から離れ、ナーサイヴェルの放った魔法と矢を全て迎撃していってくれた。
「まったくもって忌々しい剣ですね! だからこそ何としても手に入れたいんですがね!」
そんな声は俺の耳には入ってきていない。 今の俺にはナーサイヴェルが言った事が倒すための何かのヒントになっているんじゃないかと必死に考えているところだ。
ナーサイヴェルは言った、ここに存在しないと……
7つ星の剣が魔法や矢を防いでくれるおかげで有効打にならないとわかると、ナーサイヴェルは4本ある腕にそれぞれ剣と盾を持って攻撃を仕掛けてくる。
「くそっ」
考える猶予すら与えてくれないか。
『気』が読めない以上自力で応戦するほかない。
強者を2人同時に相手をしているようなその猛攻を、『気』が読めない俺が刀と回避に限界領域を使ってなんとか受けながら戦うにも限度がある。
いっその事、限界領域で仕留めようかなんてことも考えたけど、倒せなかった場合、俺は殺されキャロはとらわれの身になってしまいかねないから、最後の最後までは使わない様にした。
7つ星の剣も浮遊しながら俺を守ってくれているけど、浮遊しているだけに弾かれるたびに大きく弾き飛ばされてしまっている。
セッター様なら今のナーサイヴェルすらも倒せたのか?
違う、いくらセッター様が史上最強でも存在しない相手を倒せるわけがない。
——7つ星の剣でなら倒せるのか?
「7つ星の剣!」
刀を納めて7つ星の剣に手を差し伸べると俺の手に収まってくる。
7つ星の剣の扱い方を知らない俺は、曲刀ではない直刀の7つ星の剣で剣圧を放ってみることにした。
「はぁっ!」
『気』の塊がナーサイヴェルを襲い押しつぶそうとするけど、その威力はやはり刀のように『気』を通しやすくないため劣っていた。
だけど1つだけ気がついたところがある。 ——それは7つ星の剣で使った剣圧は僅かながらナーサイヴェルに手傷を負わせていた。
「7つ星の剣が曲刀だったら……」
yes master
「え?」
7つ星の剣が姿を変えて直刀形状から曲刀形状に変形した。
「そんなに死に急ぎたいのなら望み通り殺してあげましょう!」
怒りに満ちたナーサイヴェルが先ほどよりも攻撃の手が早くなる。
今まで手加減をされていたようで、迫る2本の剣の切っ先がまったく見えない。
やられる! そう思った時、まるで7つ星の剣が俺の身体を操るかのようにその攻撃を防いでいく。
「忌々しい! 忌々しい! 恋するほどに忌々しい!」
ナーサイヴェルが叫びながら2本の剣で凪いでくるのを受け流し、盾で殴りつけてくるのも7つ星の剣が全て勝手に受け止めてくれる。
眠っていても殺されることは無さそうだけど、このままじゃラチが明かないな。
先ほど7つ星の剣で剣圧を放った時に威力こそ弱かったけど、7つ星の剣であればナーサイヴェルを傷つけることができた。
曲刀形状になった今なら十分な威力を放てるはずだ。
なんとか剣圧か衝撃波を放つだけのスキは出来ないものかと思うと、7つ星の剣が俺の考えを理解するかのようにスキを作ってくれた。
——今だ!
「剣圧!」
衝撃波が広い範囲攻撃に対して剣圧は単体とまで言わないけど間近の相手に対して威力を発揮する。
最大で放った『気』の塊がナーサイヴェルに襲いかかり押しつぶす。
「——い、うぎゃあああああああああ!」
ナーサイヴェルの叫ぶ声が聞こえて、潰れたヒキガエルのように地面に押しつぶされている。
master ! ultimate attack ! now !
見事なまでにナーサイヴェルを押しつぶして喜ぶ俺に、7つ星の剣が追撃しろと言わんばかりに声をかけてくる。
相当な圧力に押しつぶされたはずなのに、ナーサイヴェルは血を噴き出させながらも起き上がろうとしていた。
「わかったよ7つ星の剣! ——ナーサイヴェル、母さんの仇だっ!」
振り向いたナーサイヴェルが笑みを浮かべてくる。
それは7つ星の剣をもってしても殺すことはできないぞとでも言いたそうに見えた。
そして俺はというと、7つ星の剣のあまりの軽さに驚きながらナーサイヴェルに斬りかかる。
一振りして胴を横薙ぎに斬りつけると、残像にようなものがナーサイヴェルの身体を更に深くえぐっていき、胴が切断されて臓物が溢れ出てくる。
——あと6振りだ。
なぜかそうわかった。
残り6振りで俺はナーサイヴェルの腕を4本と蛇になった脚の部分を切断する。
最後の一振り、それはもちろん……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ナーサイヴェルの首めがけて振った。
ゴロンと首が転がり、バラバラになったナーサイヴェルの身体が残る。
ハ——! 、ハ——! 、ハ——!
「倒し、……た、のか?」
そう口にしながら内心では動くなと祈っている。
キャロも俺の横に来てナーサイヴェルの様子を伺い、同じ気持ちで見つめているようだ。
“倒した……のかも?”
どれだけ見ていたのかわからないけど、いつまで経っても動き出そうとしないナーサイヴェルにホッとしたように俺に言ってきた。
「やった! やったぞ! シスターテレサの仇を取った、取ったんだ!」
“うん、うん”
つい隣にいたキャロに抱きついて喜んだ。
「あ、あれ? キャロが触れる?」
“あ……”
思い出したようにキャロが倒れているお父さんの姿を見てなんとなく理由がわかった。
“お父さんね、マイセンを見捨てて刀を持って逃げようとしたの……だから私が生気を吸って……”
「そっか……」
“そっかって、怒らないの?”
「怒らないよ」
だって逆の立場だったら俺だってそうしていたかもしれないんだから。
それだけナーサイヴェルは手強かった。 もし7つ星の剣がなかったら倒すことなんてできなかっただろう。
そこでふと気がつく……
俺の手元には未だ7つ星の剣があるままだ。
“私はもう要らないのかな?”
キャロも気がついて俺に聞いてくる。
「俺には刀の方が大事だよ。 だって、こんなに可愛い女の子までついてくるんだからね」
“うーん、喜んでいいんだか悪いんだか……でもじゃあ7つ星の剣はどうするの?”
「本来の持ち主のアラスカに返すよ」
you are my master
7つ星の剣が俺をmasterだと言ってくる。
let's fight for world peace !
「ごめん7つ星の剣、俺はセッター様じゃないし、世界の平和のために戦うなんてことはしないよ」
“マ、マイセン、7つ星の剣の言葉がわかるの!?”
「うん、なんかわかる……」
そう7つ星の剣はなんだか無機質な感じでだけど話しかけてくる。
goodbye
さようなら、そんな声が聞こえると7つ星の剣が空に向かって7つの星になって舞い上がっていく。
「力を貸してくれてありがとう7つ星の剣!」
消えてなくなる前にそう声をかけた。 7つ星の剣が無ければ今頃俺は間違いなく死んでいただろう。
“無くなっちゃったね”
「うん、でも俺には刀があるから……そんなことよりも早くシスターテレサの遺体を持って戻らないと!」
“うん、そうだね”
「あ、その前にキャロのお父さん……」
“……後でいいよ”
キャロがチラッと父親の方に侮蔑したような顔を向けたあと俺にくっついてくる。
口を出すのは無粋だと感じて、キャロの手を引いて俺は屋敷に戻っていった。




