史上最強の魂
マイセンが助けに来てくれた、そう思ったけど刀は今ナーサイヴェルの手にあってマイセンは当然武器なんか持っていない。
なんとか刀を奪いとってマイセンに渡せればと思うけど、私に触れることはできな……い?
あ、もしかしてゴーストタッチのない今は物体にも触れられるのかも。
掴まれていない方の手で刀を奪おうとしたけど、私の手を掴むのと同様で岩に掴まれているんじゃないかと思うほどしっかりと握られていて取れなかった。
“ぐぅぅぅ……”
「そういう事したらダメですよ。 あとでお仕置きしますからね」
刀を奪って渡すのなんて無理そう。 ——だったら、
“マイセン! 私はいいから、早く逃げて!”
最悪、私はまた霊体に戻ればナーサイヴェルには2度と触れることはできない。
でもそれは同時にマイセンとの別れになる事も覚悟しないといけなかった。
……だと言うのに。
マイセンは逃げようとしないどころか、どこかボーッとした様子で自身の身体の見回している。
「なるほど……」
マイセンがブツブツ言いながら手を開いたり握ったりしていて、まるで私やナーサイヴェルに気がついていないよう。
「……待たせた」
顔をこちらに向けてきた。
「なんだかよくわかりませんが、またお仕置きされたいんですか?」
「お仕置き?」
フッとマイセンが笑った。
さっきからなんだか別人を見ているみたい。
「この危ないオモチャは私が預かっていますよ」
「その心配なら必要ない——来い! 7つ星の剣、今一度だけ私に力を貸してくれ!」
マイセンが片手を上げてそう叫んだ。
その手にまるで星が降り注ぐように輝きが集まってきたかと思うと、アラスカが持っている7つ星の剣そっくりな剣が現れる。
その光景は見惚れるほどとても美しく、けれどかと言って神々しいわけでもない。
「それは7つ星の剣!なぜだ!」
“まさか……セ、セッター”
「何を言ってるんですか貴女は、貴女にはアレがセッターだとでもいうのですか!」
ナーサイヴェルはマイセンの前世が史上最強と言われたセッターの生まれ変わりだとは知らない。
「ナーサイヴェル、また貴様を討つ事になるとはな」
明らかにナーサイヴェルが動揺しはじめる。 その証拠に私を掴んでいる手が緩んで、隙をついてその手から私は離れられたのだから。
「あり得ません、あり得ませんよ!」
言うなりナーサイヴェルが詠唱も無くいきなり魔法を、火球をマイセンに放った。 ……それを、
「聖剣」
7つ星の剣を持ったマイセンも騎士魔法を使って青白く刀身が輝いたと思ったらナーサイヴェルの魔法を斬って反射させた。
魔法を斬って反射させた事自体はアラスカもやっていたからそこなで驚きはしなかったものの、それをマイセンがやった事に私は驚く。
今のマイセンは本当にセッターが支配してるみたい。 でもじゃあマイセンはどうなっちゃうの?
私の心配を他所に、反射させた火球がナーサイヴェルに当たって爆発して煙が上がって見えなくなった。
“やった!”
そう思ったのもつかの間、煙が晴れた場所にはナーサイヴェルの姿は無くて、代わりに下半身が蛇で上半身がナーサイヴェルのままだけど、鱗が覆った姿の……まるで伝説上の魔物と言われていたナーガ族の姿をしていた。
「どうやら本当に本物のようですねぇ。 ですが今度は前回のように行くとは思わないでもらいましょう!」
いつの間にかマイセンが私のそばに来ていて、私を庇うように立っている。
やっぱり今目の前にいるのはマイセンで間違いない。 でもそれと同時に史上最強の英雄と言われたセッターでもあるの?
“マイセンなの? それとも……”
戦いの最中にもかかわらずつい声をかけてしまった。
「安心したまえ、今は私がたまたま出てきているだけで彼では無い。 彼が目覚めればまた元の彼に戻る」
その一言で安心したのもつかの間、今のを聞き逃さなかったナーサイヴェルが笑いだした。
「なるほど、つまり気を失っている者を起こせばお前は消えていなくなるわけですね!」
私のくだらない質問のせいで! 私のバカ。
後悔してももう遅い。 今はマイセンが目覚めるよりも早くナーサイヴェルをセッターが倒すのを祈るしか私にはなかった。
「安心しろ、そうならないよう一刀で決めてやる。 —— seven star blade ultimate attack !」
「ふはははは、そうはさせませんよ! 安定化」
「ぬっ!? ぐぅ、き、貴様!」
確か安定化は危篤状態なんかを安定させる神聖魔法……あ、気を失っているマイセンを目覚めさせるつもりなのね!
予想通り、セッターが頭を振っている。
そして……
「あれ、俺は……ここは? これ、え!? 何で俺が7つ星の剣を持って……って、うわ! 何だコイツ!」
目を覚ましてしまったせいでセッターが消えてしまったみたい。
“マイセン!”
こうなってしまった以上、私たちで何とかナーサイヴェルを倒すしかない。
マイセンに刀を手渡すと、マイセンは刀と7つ星の剣を見比べている。
“ゴメンなさい。 私のせいで倒せる相手も倒せなくしちゃったかも……”
強いとは思っていたけどナーサイヴェルがナーガ族だったとなると、さすがに私たちに勝ち目はなさそう。
しかも『気』を絶てるマイセンであっても、アンデッドに近い状態のナーサイヴェルともなれば勝ち目は薄かった。




