キャロンの過去
あとがきに重要なお知らせがあります。
微かに朝日が昇り始めた頃にレディマトゥルの屋敷が見えてくる。
朝日の影響で少し苦しそうな顔を見せるレディマトゥルを見て、警戒なんかしている余裕もなく屋敷に駆け込んだ。
「ここからは俺の戦いなのでレディマトゥルはどこかで休んでいてください」
「わかりましたわ、ご武運を」
レディマトゥルと別れた俺は『気』を感じる場所を探して屋敷の中を移動していき、遂に『気』を感じる場所を見つける。
さすがに1人きりでいるわけはないよな。
『気』が感じられる部屋の中には5人いるのがわかる。
覚悟を決めて扉を開けた。
部屋の中にいる6人の顔が一斉に俺の事を見てくる。
……6人?
「なんだね君は、人の家に勝手に入ったらいけないって教わらなかったのですか?」
その一言にワハハと笑いが起こる。
「奪い取った奴に言われたくない!」
「なるほど、あのヴァンパイアの娘は自力ではどうにもならないとみて、よりにもよって君のような子供に頼んだとでも言うのですか?」
今話している相手こそ忘れもしないナーサイヴェルだ。
そのナーサイヴェルが俺の事を全く覚えていなかったことに怒りを覚える。
「お前は……俺の事を覚えていないのか!」
ん〜と思い出す素振りを見せてくる。
「悪いけれど、私は男には興味がなくてね、さっぱり覚えていないよ」
ここでもまた笑いが起きて、全く相手にする気配が感じられなかった。
だけど次の俺の一言で空気が変わることになるはずだ。
「霊峰の町で連れ去ったシスターテレサを返せ!」
これで思い出しただろう!
「あぁ、混血で人間として生きる道を選んだあの女性かい? いやぁ彼女は実に素晴らしかったよ。 何しろ私のために処女をとっておいてくれたのだからね」
思い出させるつもりが、逆にシスターテレサがどうなったかなんて聞きたくない事を聞く羽目になるとは思わなかった。
「きさまぁぁぁぁぁ! よくもシスターテレサを、母さんを!」
「おお!? その叫び声は聞き覚えがありますよ。 という事はここへ来たのは仇討ちということですか?」
「そうだ! 俺がお前を殺してやる!」
「おお怖い怖い。 怖い目に遭ったから君のお母さんに慰めてもらわなくては、ハッハッハ……それでは諸君らは実行に移ってください」
ナーサイヴェルが奥の扉から部屋を出て行こうとする。
当然俺が追いかけようとすると残った5人が武器を手に立ちふさがってきた。
「仇討ちなど馬鹿な考えは諦めて今すぐここを出て行くというのなら、生きて返してやるぞ?」
兜までかぶった全身鎧姿の男が俺に言ってくる。
残る4人が何言ってるんだと言わんばかりに全身鎧姿の男を見ている。
「断る!」
「即答か……ならば、仕方あるまいな」
それが合図となった。
柄を掴んだままだった俺は、1番近くに迫っていた奴に向けて居合斬りを放つ。
当然居合斬りを知らない連中は小馬鹿にした顔を見せたが、少しして居合斬りで絶った1人が崩れるように倒れて動かなくなると明らかに警戒しだす。
「クソッ! 場所が狭すぎる! 魔法の矢よ敵を打て! 魔法矢!」
残る4人のうち1人がウィザードらしく、魔法を使ってきた。
魔法矢は目標を追撃するため限界領域を使っても回避は不可能だ。 被弾覚悟で魔法を使ってきた奴に居合斬りを放つ。
魔法を使ってきた男の手から6本もの魔法矢が現れて俺に向けて放つのと居合斬りはほぼ同時だった。
経験を積んだウィザードが放つ魔法矢は、1度に出現する矢の数は増えるが威力は変わらないと以前キャロに聞いたことがある。
だからと言って対象を俺1人に絞れば威力が増しているのは間違いない。
迫る魔法矢に耐えようと防御姿勢をとった時だ。
「我を守りし不可視の盾! 魔法盾」
そんな声が聞こえてきた。
魔法矢は見えない何かによって全て防がれる。
「キャロ!」
“今は戦いに集中して!”
迫ってきていた2人が突然現れたゴーストのキャロに驚いて意識がいったところを刀で『気』を放って袈裟斬りに切断する。
ゴーストの出現に飛び離れようとしたところに、刀で着ていた鎧ごと胴を真っ二つにした。
「7つ星の騎士にゴーストだと!? 貴様らいったい……4人をあっさりと倒した7つ星の騎士と、まさか仇討ちを望む執念でゴーストになった者まで居てはさすがに勝ち目はなさそうだな」
そう言って両手を上げてくる。
キャロがゴーストになったの理由は本当は違うけど……
「行け、ナーサイヴェルはこの先にある地下室にいる。 仇をとってくるがいいだろう」
信じていいのか? 妙な感じと迷いが生じ、理由だけでも訪ねることにした。
「なぜだ!」
「俺にもな、娘が居たのだ。 生きていればちょうどその子ぐらいで名前も似ている」
「え!」
“もしかして……お父さん!?”
「なに!?」
「彼女の名前はキャロン、キャロは愛称です」
まだ本当かどうかはわからない。 だけど明らかに動揺しているようだ。
上げていた手を兜に持っていきゆっくりと脱いで顔を見せてるとなんとなくキャロに似ているようにも見えなくもない。
男は確認するようにキャロに故郷なんかを聞きはじめて、キャロも覚えている限りの事を話していた。
「本当に、本当にキャロン、お前なのか? 母親の名は何と言う?」
キャロが母親の名前を言うと男の人は膝を折ってボロボロ涙を流しだし、触れることのできないキャロを抱きしめているような姿勢をとった。
「俺が、父さんが奴のコマになる代わりに母さんとお前には手を出さない約束だったんだ! だというのにあいつは嘘をつきやがったんだな!」
盛大な勘違いをされているようでどうしたらいいか困っていると、キャロ自身が誤解を解いている。
そこで俺は初めてキャロの家族のことを耳にした。
キャロのお父さんとお母さんは元々冒険者でそこそこ名前も有名だったらしいけど、妊娠を機に引退して暮らしていたんだそうだ。
だけどキャロが3歳ぐらいの頃にナーサイヴェルが現れて2人を引き込みに来たそうだけど、引退した身のため当然断ったんだそうだ。
するとナーサイヴェルが実力行使に出てきたため、家族を守るために応戦するも全く歯が立たなかった。
そこでキャロのお父さんがナーサイヴェルの軍門に下る代わりに、キャロとキャロのお母さんは諦めてもらうようにたのんだのだそうだ。
「ならお母さんはどうしている? お前もなんでゴーストなんかに……」
“お母さんは亡くなったわ。 私が14歳になる時に……病にかかったの”
聞いているのも辛い重い話がされて、キャロがゴーストになった経緯まで説明していく。 少し話が変えられていたところもあったけど、それは俺のせいにならないようにするためだろう。
「マイセン君と言ったね。 力及ばずながら私も力を貸そう」
「申し出は嬉しいですが、これは俺の仇討ちをなんです。 それに死ぬかもしれない……そうだ、なら1つお願いがあります……」
俺は俺がもし死ぬことがあったら、刀とキャロをお願いした。
「わかった、君は男だな。 私も君のような息子が欲しかったよ」
キャロのお父さんにお辞儀をして俺はナーサイヴェルの向かった先へと進む。
内心ずっと心配していた刀とキャロの心配がなくなって安心していた。
毎回読みに来てくれて感謝しています。
今現在ほぼ毎日更新していますが、更新日や時間が固定されていません。
そのため、更新されたか確認しに来る方も多いと思います。
そこで、次回更新から曜日と時間を決めて更新しようと思います。
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