【闘争の神レフィクル】
俺は今、もしかしたら死の危機に直面している……のかもしれない。
特大級を倒したあのあと【闘争の神レフィクル】様のいる場所まで連れて行かれ、椅子に片肘をついて座っている【闘争の神レフィクル】様とすぐのわかる方と、人間の女性らしい人とローブで顔を隠した人の前に、ムッサ様に腕を組まれたまま立っている。
ムッサ様が【闘争の神レフィクル】様を父と言っていたからてっきり猫獣人だとばかり思っていたけど、【闘争の神レフィクル】様の外見は普通の人間の姿をしていて、全身漆黒の衣服姿で鎧の類は身につけていない。
そして心なしか、こめかみがピクピクしているように見えた。
「お父様ただいま戻りました!」
「お帰りなさいムッサ」
「ムッサ姫ご無事で何より、それでその隣にいる小僧は一体?」
【闘争の神レフィクル】様は何も言わず椅子に座っているだけだけど、その目は俺と俺の腕に絡みつくムッサ様の手を見ているようだ。
「は、初めまして【闘争の神レフィクル】様。 俺……私はマイセンと……」
「己に聞いていない」
「申し訳ありませでした!」
その一言だけで、あ、俺死んだ。 と思うほど、【闘争の神レフィクル】様の殺気が俺を刺し貫いてくる。
どこかで聞いたことがある、娘が恋人を紹介するときの父親の話を……
もちろん誤解なんだけど、今の俺の状況はどう見てもそう取られてもおかしくないかもしれない。
ムッサ様が俺のことを紹介してくれて、ナーサイヴェルの居場所を聞きに来たことなんかを話してくれて、ようやくなんとなく雰囲気が変わった気がした。
「マイセンよ、ナーサイヴェルの居場所を聞いてどうするか?」
「母さんの仇を取る!」
ついナーサイヴェルの名前が出て【闘争の神レフィクル】様の前であることを忘れて答えてしまった。
「貴様がナーサイヴェルを討つというのか? くっくっく、ナーサイヴェルはああ見えて強い、貴様……死ぬぞ?」
「何もしないでただ悔しむぐらいなら、母さんを殺したナーサイヴェルと戦って死ぬ方がマシです! それに、俺は弱くない!」
「ほぉ……」
ゆっくりと【闘争の神レフィクル】様が立ち上がると俺の喉元にに向かって斬りかかってくる気配が感じられる。 ただその速度が俺の目に見えない早さで動いた。
なぜ【闘争の神レフィクル】様が俺に攻撃をしてくるのか理由はわからないけど、今ここで殺されるわけにはいかない。
咄嗟に限界領域を使って回避に行動を移したが、時が止まったかのような状況にもかかわらず【闘争の神レフィクル】様の動きは今まで出会った誰よりも早く動いて近づいてくる。 その速度に焦った俺はムッサ様の腕を振り払って【闘争の神レフィクル】様の手にある漆黒の短剣を刀を抜いて受け止めた。
—————ギャリィィィン!
強烈な攻撃の衝撃をなんとか食い止めると【闘争の神レフィクル】様がほぉという顔を見せてくる。 続けて攻撃してくる気配を感じなかったため、一度限界領域を解くと、少ししてからムッサ様たちから驚きの声が上がった。
「馬鹿な! レフィクル様の初撃を止めたというのか!?」
フードで顔を隠した人が叫ぶ声が聞こえたけど、俺の方は武器を収めた【闘争の神レフィクル】様が間近で俺の目を覗き込んでくる。
それだけで恐怖で全身から冷や汗が流れるのがわかるほどだ。
「なるほど……世界の守護者の奴めが弁護をするだけの者のようだな」
そこでハッと思いだす。
俺が騙されたとはいえ死極行きをサハラ様が弁護してくれた時に、【闘争の神レフィクル】様も賛同してくれたと言っていた。
「あ、あの時は賛同して頂いてありがとうございます」
「よい!」
そういうって【闘争の神レフィクル】様が背中を向けて椅子の方へ戻って行く。
「どうですお父様!」
【闘争の神レフィクル】様が戻って行くと、またすかさずムッサ様が俺の腕に手を絡ませてきた。
さらしが巻かれた胸が腕に押し当てられて、その弾力には改めて驚かされる。
「その男はやめておけムッサ」
「何故ですかお父様! 強さ、若さ、どれも申し分ないじゃないですか? この人となら私も諦めがつきます」
ムッサ様が何を言っているのかよくわからないけど、誰かの代わりみたいな言われようはなんだか嫌だな。
「ムッサよく聞け、そやつはお前を殺したセッターの輪廻転生した者だ」
せっかく言わないでおいたのに【闘争の神レフィクル】様が口にしてしまう。 案の定、ムッサ様の掴んでくる力が弱まった。
「……でも、それは前世です!」
また力がこもって腕を掴んできた。
「ムッサ、勝手に決め付けているけど、相手は納得しているの?」
先ほどから【闘争の神レフィクル】様の横に立っていた女性が声をかけてきた。 雰囲気からすると【闘争の神レフィクル】様の妻辺りで、ムッサ様の母親なんだろうか?
「マイセンは私の事が嫌いですか?」
「はい!?」
ここにきてやっと気がついた。 どうやら俺はムッサ様に気に入られていたようだということに。
正直なところ俺が独身であれば、ムッサ様は美人で胸もたぶん大きくてプロポーションも凄くいいと思う。
だけど俺にはアラスカがいる。
「あの、ムッサ様は凄く綺麗で強くて素敵だと思います。 だけど俺、既婚者でもうすぐ子供も生まれるんです」
え? と驚いた顔を見せて、俺から少し離れてその若さで? みたいな目で俺を見てきた。
「ムッサ、そやつの妻はアラスカ、セッターの娘ぞ?」
【闘争の神レフィクル】様のトドメの言葉にガビーン! とした顔を見せてくる。
直後、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんと叫びながら何処かへ走り去ってしまった。
「相変わらずムッサ姫は男運が悪いですなぁ」
フードの男がそう言っていたけど、それは俺の事とさっき言っていた諦めがつくといった相手の事だろう。
「あのぉ、なんだか済みません……」
「別に貴方が気にすることはありません。 それとも、2人目を娶る気でもありますか? あの子がそれでもいいというのであれば構いませんよ」
なんか凄いこと言ってると思うんだけど……
しかも今の言葉に反応したのか、壁の辺りから僅かに顔を覗かせたムッサ様が耳をピクピクさせながら俺の事を見ている。
【闘争の神レフィクル】様はと言えば、このことの成り行きを愉しむように顔をニヤつかせているじゃないですか!
もちろん俺の出した答えはごめんなさいだ。 俺にはアラスカがいるし、悲しませるようなことはしたくない。
当然聞こえたんであろう、ムッサ様のうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんという声がまた聞こえてきて、少しだけ胸が痛んだ。
「ふむ……惜しいと思える男だが、だからこそムッサも惚れ込んだのだろう。 少なくともアレよりは節操もある」
何はともあれ、ムッサ様の話はここで終わりになってやっと本題となった。
その際【闘争の神レフィクル】様の側にいた女性がラーネッド様と言って、やはり【闘争の神レフィクル】様の奥様で、そしてフードの男が【闘争の神レフィクル】様の腹心と言われていて、キャス様が帰りに頼むといいと言っていたルベズリーブ様だった。
母さんの仇であるナーサイヴェルの居場所を教えてもらった俺は、礼を言ってさっそくその場所を目指し移動しはじめた。
次回更新は明日20日の予定です。




