キャロン
冒険者ギルドが忙しくなりだす時間になってやっと解放された僕は、背負袋は後回しにして早い夕食を食べに行くため、もう一度冒険者ギルドでヴェルさんの元を訪ねた。
「あの……ヴェルさん、夕食代をいただきたいのですが……」
「じゃあもう2度と1人で行かないって約束できるかな?」
それが無理なんです……どう答えたらいいんだろう。
「もう絶対に無理はしません」
一瞬ムッとした顔を見せたけど、食事代は手渡された。
「続きは後で話しましょうね?」
「……はい」
どうやら今晩また続きがあるみたいだった。
ちなみに本人が拒否しても、この孤児院の特権は30日は強制されていて、その後も職先と本人が合意すれば、最大1年間まで保障されることになってる。
心配してくれるのは嬉しいんだけど、少し過保護じゃないかなぁ……
そんな事を考えながら〔ヒヨコ亭〕に向かって歩いていく。
「よぉし、過保護すぎるって今晩言おう!」
「いろいろと大変みたいね」
「そうなんですよ」
「でも安心した。 みんなが君の事を言ってるのが間違いだったってわかったから」
「みんな? って、ええぇぇえっ! キャロンさん!? いつの間に居たんですか」
「いつの間にって、お説教が終わるまでずっと冒険者ギルドで待っていたのだけど?」
「そうじゃなくてですね……」
気がつくといつの間にかキャロンさんが隣にいて、僕と話をしていた。
「それで僕に何か用ですか?」
「うん、でもとりあえず、そちらの人は放っておいてもいいの?」
そちらの人? って……
「ソティスさん!」
「マイセン君、だぁれその隣にいる女の人」
うひゃおぅ! もの凄い殺気なんですけどぉぉ!
「……えっと、キャロンさんです」
「はじめましてキャロンです。 危ないところをこの人に助けて貰いました」
キャロンさんが具体的に言ってくれたおかげで、ソティスさんも納得したようだった。
「それでなんで2人でいるの?」
「それは、ええと……」
「私がお礼をと待っていたら誤解を生んでしまったようで、今までギルドの職員に説教されてまして、ようやく話しかけられたのですが上の空でした」
なんかキャロンさんのおかげで、ソティスさんを納得させてくれてくれて助かってるような。
「じゃあ、とりあえずマイセンと食事、でいいのかな?」
「この人のお邪魔でなければ。 まだちゃんとお礼を言っていないので」
「じゃあテーブル席用意するからついてきて」
なんだか僕の知らないところでどんどん話が進んでいってる気がする。 でもキャロンさんのおかげでソティスさんに怒られたりしないで済んだのかな?
初めて〔ヒヨコ亭〕のテーブル席に座って、しかもその正面には女の人がいる。
「えっと、キャロンさんのおかげで変な勘違いとかされないで済みました。 ありがとうございます!」
「ああいう時は、淡々と必用なことだけを言うと誤解されにくくなるものよ」
「なるほど……」
食事が運ばれてお腹が空きすぎてた僕は脇目も振らず、一心不乱になってお腹に詰め込んでいく。 ふと視線を感じて顔を上げるとキャロンさんがその様子を驚いた顔で見ていた。
「凄い食欲なのね」
そこで僕のお腹事情を話すと納得したように頷いてきた。
食事が済んでやっと一息がついた僕は思い出したようにほったらかしてしまったキャロンさんに声をかける。
「えっと、お礼なら別に僕はお礼してもらいたくて助けたわけじゃないから、気にしないでもいいですよ?」
「君ならそう言うと思ってた。 なのでお願いも聞いてもらおうと思って」
「お願い?」
「うん、私の身受けをしてほしいの」
身受け!?
「な、なにそれ?」
キャロンさんが、昨日集まってできたばかりのクランに入ったはいいけど、いきなり壊滅しちゃってあてもなくなったって話してくる。
「だから助けてくれたお礼を兼ねて仲間に入れてもらおうと思って。 とはいっても私、魔法しか使えないし、体力もあまり無いから荷物もそんなに持てないし、接近戦はからっきしだから戦力にはあまりならないけど」
そ、そこまでデメリット喋っちゃうんだ……
「でも私が加われば1人じゃなくなるんだけどな?」
ヴェルさんに言われた事を言ってくる。 なんだかうまく乗せられた気もするけど、初めて仲間になってくれるって言ってくれる人がいて僕はすごく嬉しかった。
「よ、よろしくお願いします!」
キャロンさんが手を伸ばしてくる。
「それじゃあ改めまして、キャロンよ。 よろしくね」
「マイセンです。 こちらこそよろしくお願いします」
初めてできた仲間と握手をした。
「それじゃあ、さっきから凄い殺気が私に向けられてるみたいだから帰るね。 明日、冒険者ギルドで待ってるから」
キャロンさんが敬礼っぽいポーズをするとお店を出て行く。 残された僕の元へ、ソティスさんが笑顔で向かってきていた。
次話更新は本日のお昼頃を予定しています。




