負けず嫌い?
ムッサ様と特大級の討伐が決まったまではよかったけど、ここからが色々と問題があった。
まず討伐というが、俺とムッサ様しかいないこと。 それと特大級の居場所がわかっていないこと。 そして、俺はこのウィンストン公国男爵領の地形が全くわからないことだ。
唯一の救いはムッサ様が猪突猛進な人ではなく、冷静で凄くしっかりとしている事だった。
「貴方の問題点はわかりました。 まず1つ目の討伐ですが、特大級は私が殺るので問題ありません。 貴方は自分の身だけ心配していてください。 2つ目は飛ばして、3つ目の地形に関して……これも私がいるので問題ありません。 なので問題なのは2つ目です」
ムッサ様はあっさりと答えてきたけど、特大級は必ず大量のゼノモーフたちに守られている。
いくらムッサ様が強いとしてもあの猛攻を掻い潜って特大級を仕留めるのは容易いものではないはずだ。
だと言うのに……
「その特大級のいそうな場所とかはあるんですか?」
などと簡単に聞いてきた。
「たった2人では無理です。 仲間を集めた方が……」
「それは私の質問に対する答えではないですよね?」
よほど腕に自信があるのか人の警告を聞こうとはしない。 なので仕方がなく俺は特大級のいそうな場所を言おうとしたところでふと思いだす……
宿場町の時も霊峰の町の時も特大級との遭遇は偶然だったじゃないか?
なので正直にその事を話すと、さすがにムッサ様も困った顔を見せたけど俺にもう一度詳しく宿場町の時と霊峰の町の時の事を聞いてきたため、僅かでも思いだせる限りの情報を口にしていった。
「つまり、連中は数を増やすために生贄となる生物を求めている、という事じゃないかしら?」
そういってムッサ様が俺から聞いた情報から考えを言ってくる。
宿場町では身を隠すような場所はなく生存者もいたため数を増やす行動を取って、霊峰の町の方では生贄を求めて俺たちのいる場所に向かってきたところだったのではないかと。
「もしそうだとしても、それだけじゃ居場所まではわかりませんよね?」
「それはどうかしら? そろそろここも霊峰の町と同じ事が起こる頃合いじゃないのかしら?」
一体何を根拠にそんな事を……
ムッサ様が耳をピクピクさせながら俺の後方を見つめている。
そこで今更ムッサ様が猫ちゃん同様、猫獣人だった事を思いだした。
「ほら、来たわ」
振り返ると大量のゼノモーフたちが向かってくる姿が遠くに見える。
ただしあの中に特大級がいるとは限らない。
「この辺一帯はもう生贄になるような生物は残っていないから、貴方の言うように動き出した可能性は充分にあるはずよ。 それに……私の耳は誤魔化せません」
自信ありげにムッサ様が耳をピコピコさせている。
俺の気配を感じ取るのではそこまではわからないが、まずはあのゼノモーフの大群をどうにかするしかないだろう。
「貴方は危ないからどこかに隠れているといいですよ」
「俺だって戦えます! 初撃は俺に任せてください!」
これだけ開けた場所なら思い切り衝撃波を放てる。 ムッサ様に俺の力量を見せてやる!
「…………それではお願いしてみる事にしてみましょう。 そのあとの事は任せてもらって構いません」
「はい」
向かってくるゼノモーフの大群に向けて真正面に立った俺は刀を抜いて上段に構え、充分に引きつけたところで俺自身が出せる最大の衝撃波を放った。
「はぁっ!」
見た目にはただ土煙が舞う程度にしか見えない『気』が波状に広がりながら前方に進んでいき、ゼノモーフの群れに到達すると衝撃波の波がゼノモーフたちを次々と切り刻んでいく。
今の一撃だけでゼノモーフの大群の最前列の粗方を倒しきり、まだわずかに後方になる場所に特大級の姿が見て取れた。
……やっぱり数が多すぎると特定の相手を選んで『気』を読むのは難しいか。
ムッサ様は今の衝撃波を目の当たりにして驚いたのか動く気配がない。
声をかけるべきか迷ったけど、特大級が見えているチャンスを逃すのも惜しい。
そう思って特大級を仕留めようと走り出そうとした時、俺の側にいたムッサ様がぐらっとなった直後、一瞬ぶれた様に見えたと思ったらゼノモーフの大群の方に向かっていた。
ネズミ獣人の時に見ていたからそれが何かすぐに気がつく。 ムッサ様は暗殺者だ。
一直線に特大級に向かうのかと思ったけど、ムッサ様は大きく左右にジグザグに切り進んでいき特大級の元まで向かった様だ。
様だ、というのも俺の目でムッサ様の姿は追えなかったためで、ゼノモーフの強酸の血しぶきが上がっていったことでジグザグに切り進んでいったのがわかり、なんとなく衝撃波を彷彿とさせる。
もっとも俺の場合は『気』を放射状に飛ばして切り刻むのだけど、ムッサ様のは自らが大きく左右に前進しながら敵中に突っ込んで攻撃しているだけだが……
まさかムッサ様……俺の衝撃波に張り合ってる?
そんなことを考えている僅かな間に特大級が倒されたようで、ゼノモーフの崩壊が始まりだした。
ゼノモーフが四散したあとムッサ様が俺の事を覗き見てくる。
どう? とでも言いたげな得意げな表情を見せているけど、そもそもゴッドハンドとか言われる人種をたぶん超越した存在なんだから凄いのは当たり前なんじゃないかな。
「さ、さすがですね」
「ふふっ。 でも貴方の放ったあの一刀も凄かったですよ」
やっぱり張り合っていたんですね……
一度四散してしまえばここウィンストン男爵領もひとまず安泰だろう。
俺はムッサ様に連れられて【闘争の神レフィクル】様のいる場所に連れて行かれていく。
そう、ムッサ様に腕を組まれ胸を押し当てられながら……
次回更新は明後日19日の予定です。




