謎の女性
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魔道門をくぐり抜けた先には大量ではないもののゼノモーフたちがいた。
刀に手を添えて背後を確認しようと振り返るのと同時に魔道門が消えていく。
俺と入れ替わりでゼノモーフが入り込んだりしたんだろうか?
でなきゃ本来一緒に来るはずだったディルムッドやセドリック、リセスドたちが来る前に魔道門を消したりするはずがない。
ここで待っていればすぐに来るかな?
そう思いつつ周りを見回してみて、ゼノモーフたちが俺を取り囲み今にも飛びかかろうとしている状況じゃ悠長に待ってはいられなさそうだ。
「そんな猶予はくれないか!」
それが合図の様にゼノモーフたちが飛びかかってくる。
最初の一体を居合斬りで絶って、後から来る仲間のためにその場から離れた。
走っていく俺にゼノモーフたちが追いかけてくる。 『気』で気配を感じ取れるかぎりだけで20数体、走って移動したことで更に加わってきていて、その数はどんどん膨れ上がってきている。
この場で来るのを待ってる余裕も無さそうだな。
そう判断した俺は単独で行動することにした。
◇
マイセンが魔道門を抜けて俺が後を続こうとした矢先のことだ。
「なっ!」
グイッと押し返される感覚に一旦後ろへ離れるとキシャーという鳴き声と共にゼノモーフが現れた。
ヒィという大統領と【愛と美の神】の情けない声が聞こえたが、一手遅れをとったといえそれでもここには強者が揃っている。
一斉に身構えるのと、ゼノモーフが状況を理解したのはほぼ同時だろう。
ゼノモーフはバカではないらしく、俺たちの数に気がつくと部屋から逃げ出そうと扉に向かって猛烈な突進をする。
「逃がさん……」
そう声が聞こえるのと同時にリセスドの鞭がゼノモーフを捕まえてその逃走を食い止める。
直後、俺の槍とセドリックのダガー、そしてアラスカの7つ星の剣がゼノモーフを貫き、強酸の体液を噴き出させながら息絶えた。
前々から気になっていたがこのセドリックという男、どんな状況でも顔色一つ変えたところを見たことがない……一体何者だ?
「マイセン! キャス殿、早く、早く魔道門を出してくれ!」
アラスカの悲痛な声に魔法の神の代行者が詠唱に入ったのはいいが……
フッ、初めて会った頃と違って今じゃすっかり女になったもんじゃないか。
「……開か、ない」
魔法の神の代行者がそう呟いた。
どうやら魔道門の場所に阻害するものがあって出せないらしい。
何度か試みた様だが魔道門を作り出せないところから、生物などの様な動くものによる阻害では無いらしい。
「ならあいつはどうなるんだ?」
「こうなっちゃうとなんとか頑張ってもらうしかないとしか……あ、でも隣の町になる子爵の所か、ウィンストン首都になら出せるよ」
おいおい、それじゃあ間に合わないし出会えるかだって怪しいものだろうよ……
「彼は強い。 信じて俺たちは待とう」
リセスドがそんな事を言ってくる。 確かにマイセンは強い。 だが付き合いが長い俺は気がついていたが、あいつにはどうも生に対する固執が感じられない……
「マイセンと仲が良かった貴様が何を笑っているんだ!」
気がつけば俺は顔をニヤつかせていた様だ。
「いや、ただ死に場所を求めて放浪していた俺が、カルラを失って今もなぜ生き続けている理由がわかっただけさ」
そうだ、死を求めていた俺がカルラと出会い、そして失ってなお生き続ける理由、それは……俺は生に対して固執のないあいつを放っておけなかった。
マイセンのかみさんであるアラスカはわけがわからんとでも言いたげで、訝しげに首をかしげて見せていた。
「マイセンはそう簡単には死なない。 だが俺が子爵領から探しにいく」
ちょうど準備も整っている、俺の足の速さを知っているこいつらもおとなしく頼むしかなかろうよ。
「ディルムッド……マイセンを頼む」
「ああ任せておけ、俺の命にかけてお前の元に連れ戻してやる。 もっとも出会うまでに死んでいなければだがな」
俺は【魔法の神】の代行者が魔導門を作りだすと勢いよく飛び込んでいった。
◇
だいぶ魔導門を出した位置から離れちゃったな、ひとまず男爵領にいるという【闘争の神レフィクル】様を探すことにしたまではいいんだけど……
本当にここ男爵領にいるのかなぁ?
そもそも俺、【闘争の神レフィクル】様を見たことなかったし、俺なんかが会いに行ってナーサイヴェルの居場所を教えてもらえるか……
いや、悩んでいてもしょうがない、とりあえず探してみるしかないよな。 よしっ!
「なんだか壮大な独り言が聞こえてきたので来て見たのですが、貴方頭は大丈夫ですか?」
「うわぁ!」
急に声がかかって驚いて振り返ってみると、ドラウのスカサハとはまた違った、肌の露出が多いサラシのようなもので胸を覆って、胸までしかないチョッキ姿に腰までスリットの入った布を巻いただけのようなスカート姿の服装の女性が立っていた。
頭部には猫の耳があってお尻から尻尾が生えている所から猫獣人だとわかる。 ただ猫ちゃんと違って背がアラスカぐらいある長身だった。 と言っても俺より低いけど。
そして何よりも驚かされたのは、俺がこの猫獣人の女性の接近に全く気がつかなかったことだった。
改めて『気』を感じ取ろうと思えば今なら感じ取れる。
「誰だ!」
「困りましたね、伺いたいのはむしろこちらのほうなんですけど?」
この女性、どこかで会った記憶がある、それも敵としてだった。 ただしその記憶も俺には覚えが全くないところから、英雄セッターのものなのだろう。
「無口になったと思ったら、今度は随分と殺気を放っているようですが、とりあえず質問させていただきます。 貴方はどちらさまでしょう? それと先ほどの壮大な独り言の中に気になるワードが含まれていましたが、【闘争の神レフィクル】様とナーサイヴェルにいったい何の用ですか?」
こいつはナーサイヴェルを知っている……やはり敵なのか?
手は刀を握っていて『気』も既に捉えてある。
「俺の名前はマイセン、ナーサイヴェルの居場所を【闘争の神レフィクル】様に教えてもらいにきた」
一戦交える覚悟を決めて俺はそう答えた。
次回更新は明日15日の予定です。




