解放とシスターテレサの死
この章の最終話です。
手で合図をした後、刀を抜いて特大級に向かって走りだす。
特大級の周りにいるゼノモーフが気がつくと一斉に俺たちに向かってきはじめた。
ディルムッドとリセスドの言っていた通り、ゼノモーフたちは特大級に近づかせまいとでも言わんばかりに襲いかかってきて、他の仲間の方に向かっていたゼノモーフたちまで俺たちの方に向かって来だした。
「こいつわ想定外でしたな、よっと!」
セドリックの言うように、まさかここまで特大級を守ろうと行動するとは思いもしなかった。
「マズイな、逃げる気だ」
鞭を振るいながら特大級が移動するのを確認したリセスドが追いかけようとするけど、死をも厭わないで襲いかかってくるゼノモーフが邪魔で進めないようだった。
「大の大人の男が泣き言言ってるんじゃないよ! 少しは2匹を見習ったらどうだい」
シスターテレサがいう2匹とはもちろんゲッコとガーゴのことで、2匹はゼノモーフの酸を恐れずにゼノモーフの尻尾で作った槍で戦っていた。
そしてシスターテレサもそこに加わってまるで舞を舞うようにハルバードを振り回しながら圧倒的な強さを見せている。
「ハルバード使いの女神官戦士……やっと思い出しましたな、『金竜の舞姫テレサ』」
「っは! その呼び名を知っているお前さんこそ何者だい? それともう姫なんていう歳じゃないけどねぇ」
見た目は30代ぐらいで美人なのに、ひっひっひなんて老婆のようにシスターテレサは笑いながら悠々とゼノモーフの群れを相手にしている。
それよりもセドリックが言った『金竜の舞姫テレサ』って何!?
っと、それどころじゃなかった。
早く特大級を倒さないといけないんだった。
逃げる特大級に、それを逃がさせようと襲いかかってくるゼノモーフのせいでなかなか近づけないで苦戦していた。
そんな時分散して誘導をしてもらっていたパーティのどこかから悲鳴が連続して上がった。
「あっちで何か起こっているようだねぇ」
シスターテレサが攻撃の手を緩めて気にしだす。
「シスターテレサ、お願いします」
「悪いねぇ、すぐに戻ってくるからそれまでいい子にしているんだよ」
俺の頭を撫でてからシスターテレサは悲鳴が上がった方へ単身向かっていった。
その瞬間、妙な不安を覚え俺は急いで特大級を仕留めに急ぐ。
「リーダーどうしたんですかな?」
「うん、なんだか胸騒ぎがする。 急いで仕留めよう!」
「ふっ、簡単に言ってくれる」
2人とゲッコとガーゴに一度下がってもらって衝撃波でゼノモーフを蹴散らし、道が出来たところを1人で斬り伏せながら限界領域を駆使して避けながら特大級に俺は迫っていく。
「取った!」
特大級に迫り『気』を捕らえた。 だけどゼノモーフたちがいて居合斬りに持っていけない……
「雑魚は任せろ」
「できるだけ手短にお願いしたいとことですがな」
リセスドとセドリック、それにゲッコとガーゴが俺に居合斬りに持ち込む時間を与えてくれる。
だから……そんな仲間を信じて俺は刀を鞘に一度納め……
「はっ!」
鯉口を切って一閃してからチンッと音をさせて鞘に納めた。
特大級の動きが止まったと思うと、ドサッと倒れて動かなくなる。
ギョギョギョ……キシャーキシャーキシャーキシャー……
一斉にゼノモーフたちが騒ぎ出したと思ったら、誰彼構わず襲いかかったりにげだし始めたりしはじめだした。
「崩壊が始まったようだ」
リセスドが言ったように特大級が死んだらゼノモーフたちが狂いだしはじめた。
通行先に邪魔するものがあれば攻撃する、といった感じで蜘蛛の子を散らすように散りじりになっていく。
「やりましたなぁ」
「シスターテレサは!?」
散りじりになるゼノモーフたちを見ながら探して……
見つかった。
俺と目が合った。
その目はまるで謝っているかのように見えた。
その直後……
シスターテレサの首が地面に落ちた……
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁあ!」
ゼノモーフをかき分けるようにシスターテレサの元に駆け出していくと、剣を手に持った男がいてシスターテレサの首を抱えると口づけをしていた。
「きっさまぁぁぁぁぁ! よくもシスターテレサを、母さんを!」
俺が近づくより先にその男はシスターテレサの首と身体を掴むと姿が消えていく。
限界領域を使ったけれど、わずかに及ばず逃げられてしまった。
住居区と特大級との戦いでの疲労に加えて限界領域を使ったが、シスターテレサを救うこともできなければ、その亡骸さえも失ってしまう。
地面に残った金属板に気がついて握りしめたところで俺は意識を失った。
特大級が倒されたことでゼノモーフたちも散り散りになり、一時の間かもしれないけどこれで霊峰の町からゼノモーフたちは一旦姿を消すことになった。
◇
テレサは悲鳴が上がった方へ向かい、たどり着いた時にはすでに1パーティ6人が全員殺されていた。
「これは実に美しい方がいらしてくれましたね」
「お前さん何者だい」
「名乗ったところでもう知る者はいないとは思いますが……」
もちろんテレサにはこの名前に聞き覚えはない。
「今の世にわかりやすい言い方をすれば……デスの頭領という奴ですかね」
「はんっ! デスの頭領がなんでこんなところで邪魔をしてくれてるんだい」
「ええ、もう知っているかと思いますが、ある物を受け取りに来たのですが待ち合わせ場所にいませんでしてね。 それで仕方がなく、せめて出向いた手土産だけでも持ち帰ろうとしたのですが中々見つからなかったのですが……見つかりましたよ、貴女は実に美しい」
「おあいにく様だけどね、私はこう見えて婆さんなんだよ」
目を細めてデスの頭領がテレサを見つめ、次第に口元が歪んで喜びはじめた。
「ハーフでしたか、ハーフで人間を選択したのは初めて見る。 貴女、実に良いですよ。 持ち帰って私が大事に可愛がってあげましょう!」
「お前さんのものになる気なんて、これっぽっちもないよ!」
「問題ありませんよ。 貴女が死んでからで十分ですからねぇ」
テレサは冗談と受け取って「うえっ」と声を上げてみせるとハルバードを身構える。
対するデスの頭領は腰に下げた剣を手にも持たないで余裕の顔を見せているままだ。
テレサがハルバードで仕掛けるとデスの頭領は軽く避けてみせたのと同時にテレサの胸を触ってくる。
「なっ!」
思いもしない行動にテレサは驚きの声と同時に胸を押さえてしまう。
「歳だという割に張りがあって実にいい感じですねぇ」
「この、気安く触るんじゃないよ!」
「しかも反応がまたいいじゃないですか!」
イラッとしたテレサが加減をしないでハルバードで攻撃するけれど、その攻撃も軽々と躱しながらまるでテレサをチェックするようにあちこちに触れてきた。
一度距離をとったテレサはデスの頭領が気安くあちこち触れてきたことに嫌悪と憎悪する。
そしてデスの頭領はデスの頭領で今触れたことで何かを感じたのか、ブツブツと呟き、そして答えが出たらしくテレサに尋ねた。
「……貴女、初物ですね?」
まさか触れられただけで言い当てられたテレサは顔を赤くしたものの、今相手をしているデスの頭領が並みの強さじゃないことは感じていた。
「感謝しますよ、ではせっかくの初物は出来るだけ傷をつけないようにしなくてはいけませんね」
直後だった。 テレサが反応できないほどの速さでデスの頭領は動いて、一瞬にして手足を打たれハルバードは手から離れて、土下座のような姿勢にされてしまう。
手足がしびれてその姿勢から崩せないことにテレサは驚いた。
「なっ……」
ここまで桁違いの強さを見せつけられたのは1人を除いてテレサは初めてだった。 もっともその1人という表現は間違っている相手かもしれないが……
ふと視線を感じて顔を向けると、自分のことを母親と慕ってくれたマイセンと視線が合う。
あの子は成人して孤児院を出た後も孤児院のことを気にかけてくれて、英雄の道を歩みつつあるというにもかかわらず将来孤児院で孤児たちの面倒を見ながら暮らしていくとずっと口にしていた。
しかも驚いた事にとんでもない女性を妻にしてなおその考えは変わっていないっていうんだから……
本当にどうしようもないけど出来た子だよ。
……ゴメンよ、マイセン。 そしてさようならだ私の可愛い息子。
その直後、テレサの意識は途切れた……
次回更新は10日の夜の予定です。
書き溜めが間に合えば、明日か明後日更新するかもしれません。
デスの頭領が誰か気がついた人はいるでしょうか?




