ケジメ
この章の最終話です。
ユニーク15000人突破しました。 ありがとうございます!
俺たちは今霊峰の町の孤児院に戻っている。 ミシェイルとのケリがついて翌日の夕方のことだった。
どういうことかというと単純なことで、【愛と美の神レイチェル】様を連れてきた時と同じことをしただけだった。
少し時間がかかったのはこれだけの人数の受け入れで、なんとか霊峰の町の方の拡張が間に合ったのと、キャス様を呼び出すのに丁度運悪くキャビン魔道王国にいなかったため少し手間取ったためだった。
「いやぁ……これはさすがにネオたちも驚いていることでしょうな」
セドリックはやっぱり船が出来ても渡った先に用意されているであろう罠やらを警戒していただけに気が抜けた様子だ。
「そうだね、それにしてもまさか2人が無事だとは思わなかった。 生きていてくれて本当に嬉しいよ」
俺が言った2人とはディルムッドとリセスドの事で2人ともなんと生きていた。
「さすがにあれは死を覚悟したさ」
「ああ、そうだな……」
群がってきたゼノモーフたちと戦い続けていたけれど、ゼノモーフのあまりの数の多さにキリはなく体力が消耗していく一方だったらしい。
そこで2人はゼノモーフの女王のような奴がずっと率先して戦いには参加してこない事に気がついて、先に倒す事に決めたんだそうだ。
標的をゼノモーフの女王のような奴に変えた事で、ゼノモーフたちの攻撃が急に激しさが増して2人もあちこちに怪我が増えていく熾烈な戦いにはなったけれど、なんとかゼノモーフの女王のような奴を倒す事に成功した。
するとゼノモーフたちが攻撃するのをやめたと思ったら、今度は混乱しだしたかの様にメチャクチャに暴れ始めたのだそうだ。
そしてそのまま散りじりになっていなくなったらしい。
「さすがに俺たちもちょっと手傷を負ってな……お前たちを追いかける余裕がなくて一度ここに戻ろうということになったのさ」
ちょっと……とディルムッドはさらっと流すように言ったけど、後で聞かされた話だと相当な深手を負っていたそうだ。
2人は今ちょうど【愛と美の神レイチェル】様がいるここに一度戻って傷を癒してもらう事にしたのだという。
そして傷を癒してもらい次第、準備を整えてすぐに追いかけようとした矢先に俺たちが戻ってきたということだ。
正確にはセーラムが戻って知ったという事になるけど。
そのセーラムが戻るまでなぜ俺たちに教えなかったかというと……
「無事ですぐに会えるのなら言う必要はないでしょ?」
さらっと答えてきた。
そして俺たちは鍵は無事に手に入れられた事とトラジャが亡くなったことを報告をする。
「トラジャの方は僕に任せて。 彼はマルボロ王国に戻されるのが1番喜ぶはずだよ」
それを聞いて思いだす。
トラジャが最後に言った言葉だ……
「トラジャが最後にこう言ってました。 ララノアが迎えに来たと」
「そっか……なら彼は今頃幸せだと思うよ……」
普段おちゃらけているキャス様とは違って悲しんでいる様だった。
「トラジャは生前、ララノアとよくお酒の相手をしていたものね……」
【愛と美の神レイチェル】様が懐かしむ様にトラジャの亡骸の髭を撫でていた。
俺は孤児院に戻って報告が済んだ後、今度はすぐにアラスカのいる場所に向かった。
今アラスカは孤児院よりも遥かに広くて設備もあるし、何より個室をあてがう余裕のあるアイボリーハウスの一室にいる。
もはや秘密でもなんでもなくなった通路を抜けてアラスカのいる部屋のドアを開けた。
「マイセン!」
アラスカが俺を見るなり飛びついてくる。
「うわっ、アラスカ?」
「会いたかった……」
「ええっと……俺もだよ」
「……どうした?」
「いやぁ……アラスカからこんな風に抱きついてくるなんて思ってもみなかったからさ」
ハッと顔を紅くさせて離れようとするのに気がついて、すかさず腰を捕まえて逃さないようにする。
「こんな貴重な経験、そう簡単には手放さないよ」
「……『気』を読むなんてズルいぞ」
「せっかくのチャンスだからね、だから今ならこんな事だって」
不意をついてキスをする。
驚きこそしたもののアラスカも俺の首に腕を回してきた。
キスを堪能した後は、お腹に手を当ててそっと撫でると、アラスカが恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに俺を見てくる。
「まだ離れて数日だ。 そんなに変わりがあるわけないだろう?」
「いいの。 ここに2人いるのは俺には『気』でだけど見えてるんだからね」
「……あなただけ見えるというのはズルいな」
クスッと笑いながらアラスカが言ってくる。
“くわぁぁぁぁ! その刀がある以上私もこの場にいるんだからあんまり見せつけてくれないでよね!”
キャロが我慢ならないとばかりに姿を見せて怒りだしてきた。
それを見て俺とアラスカが慌てて揃ってキャロに頭を下げて謝るんだけど……
憎まれ口を叩かれて消えてしまった。
「怒られてしまったな」
「キャロには悪いと思うけど仕方がないよ」
そこでふとアラスカが真顔に戻って鍵は手に入れたのか聞いてきた。
なので頷いて腰に吊るした袋に手を当ててみせながら、籠手である事や迷宮の町での事を話して、なんだか禍々しいものだから袋にしまってある事を説明した。
「そうか……という事は今度は」
「うん、ディアさん……ゼノモーフの女王のところだ」
アラスカに余計な心配させないように、ディアさんがゼノモーフの神である可能性がある事は伏せておく事にした。
アラスカのいる部屋から出て1人きりになる。
鍵となる籠手を手に入れた以上、今度こそディアさんの元に行く事になる。
“言わないで良かったの?”
キャロが姿を見せて聞いてきた。
「うん、今のアラスカに心配させたくないからね。 それにこれは俺の……僕のケジメだと思うんだ」
“別にあれはマイセンのせいじゃないと思うけどな”
「……でも、俺はあの時ディアさんの声を聞いたんだ。 『殺して』ってね。 でも俺はわかっていながらキャロにやったことと同じ事をしたんだ」
キャロもその部分になると返事をしてこなかった。
そりゃ当然だ。 一時的にとはいえ助かったとしても、ゼノモーフとの融合体になってしまい、身体も化け物のように変わってしまうのだから。
“ねぇ”
「うん?」
“マイセンさ……”
キャロの言葉を待っていると、急に何でもないって言ってくる。
「言いかけてやめると気になるんだけどなぁ?」
“……じゃあ、こうとだけ答えてあげる。 私は最後までマイセンと付き合うよ”
「な、何言ってんの? まるで俺が死にに行くみたいじゃん」
“やっぱりそういうつもりなんだ”
キャロには全てお見通しみたいだ。 だけどそれを声に出したらダメだと思う。
だから……
「そんな気さらさらあるわけないじゃん、だって……これから子供が生まれてくるんだよ?」
“……そっか、そうだよね”
そう言ってキャロは消えていく。 ただ小さな声で呟くようにそういう事にしておいてあげると全て見透かされているような事を言っていた。
次回更新は明日の6/1で新章に入ります。




