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身から出た錆

 うーむ、とミシェイルが目を覚まして辺りを見回す。


 その場には俺とセドリック、セーラム、スカサハに猫ちゃん、ゲッコとガーゴ、それにトールさんが残っていて、それ以外のホークさんたちには小島にいる人たちの状況説明なんかを頼んである。


 自身の服が脱がされているのに気がついて慌てて佇まいを直しながら、すぐ側に転がるフェイスハガーの死骸を見て全てを思い出したようだ。



「そうですか……私の、中にいるのですね?」


 もちろん俺たちにも気がついていて、諦めた様子で確認してきた。



「刺青は確認させてもらった。 お主……デスのメンバーだな?」

「ええ、いかにも私はデスのメンバーです。 もっともあなた方が望むような幹部ではありませんけどね」

「幹部かどうかはどうでもいいんですな。 そんなことよりも説明をしていただけますかな?」


 ミシェイルは素直に全てを話しだす。

 当初は上からの命令で猫ちゃんが盗んだ物を隠している場所を探し出すために追跡を続けていたのだそうだ。 ところがその猫ちゃんが俺たちと町を出て行ったため、場所は見つからないままゼノモーフの襲撃が起こってしまったのだそうだ。

 小島にいたミシェイルは当然迷宮から湧き出てきたゼノモーフに恐れをなして逃げようとしたけれど、橋は既にゼノモーフだらけで逃げるには泳ぐしかなかった。

 だけどこの湖には顎が群生しているためそれも叶わず、隠れる場所を必死に探したんだそうだ。



「そうしたらそんな時に限って呆気なく見つかるじゃないですか」


 猫ちゃんが盗んだ宝の場所に転がり込んだまでは良かったけれど、当然ゼノモーフに見つかってしまう。

 必死になってそこにあるものを投げつけようと手に触れたものを振り上げた時、ゼノモーフの動きが止まってその場を離れていったのだそうだ。



「それがあの不気味な籠手ですな」


 ミシェイルがセドリックに頷いてみせる。


 そして襲われないのをいい事にそれを利用して小島を脱出し、町まで戻れたミシェイルはそこで生き残っている人たちに紛れることにしたそうだ。

 その際、自分の生存率を上げるために籠手を使って生き残っている人たちを救ったらしい。


 トールたちにより迷宮の封鎖と橋の破壊によって安全が確保されたのを確認すると、ようやく余裕ができて改めて自分を救った籠手を眺めた。

 不気味ではあるが、これがあればゼノモーフは襲ってこない。

 さらには救った人たちから感謝され、戦うことなく撃退したミシェイルを讃えてきたのだそうだ。



「まるで救世主にでもなった気分でしたよ」


 調子にのったミシェイルはゼノモーフは新時代の幕開けで、自分はその神官であると名乗りだした。

 もちろんそれを快く思わない人たちもいて争いになりかけたところ、籠手を掲げて祈るような仕草を見せたらおとなしくなったのだそうだ。



「儂らはその異常さにここを一旦離れることにしたのじゃ」


 ネオたちが来たのはそれからすぐで、ミシェイルに探し物は見つかったのか聞いてきけど、渡す気が無くなったミシェイルは籠手の魔力でかネオたちを黙らせられたという。

 しかも黙らせた者たちはミシェイルの言うことをある程度素直に聞いたのだそうだ。



「それでこんなカルト集団が生まれたわけですな? しかしなんでまたあんな事をしでかす様にしたのですかな?」


 セドリックの言うあんな事とはもちろんフェイスハガーに張り付かせることだ。



「神官らしいでしょう? 罪を犯せば罰せねばならない。 ならば一層の事化け物にしてしまい、それを神の信徒として生まれ変わったとすればよりそれらしく見えるじゃないですか!?」

「お主……完全に狂ってるな。 とはいえこれでお主もお主の神とやらの御許へ行けるのだから本望であろう?」


 するとミシェイルが取り乱し始めて死にたくないとわめきはじめる。



「生まれ変われるんじゃなかたにゃりか?」

「そんなわけないに決まっているでしょう! そうだ! あなたたちは治し方を知っているんですよね? 私も治してください! あんな死に方は嫌だ!」


 全くもって自分勝手な奴だ。 治す気もないけどそもそも【愛と美の神レイチェル】様がいなければ治せない。



「無理だ」

「ドゥエルガルの事だったら私は無関係です! フェイスハガーをけしかけたのは本当にネオが勝手にやったことですし、命を落としたのだって決闘だったのですからね!」


 【愛と美の神レイチェル】様がいないから無理だという意味だったのだけど、必死なミシェイルは勝手にペラペラ教えてくれたおかげで、トラジャの仇は完全にネオだけということがわかった。



「ツケが回ってきたんじゃ諦めるんじゃな」


 トールさんが吐き捨てる様に言うと、ミシェイルがなおも必死になって食ってかかろうとした時だった。



「う、うぐ……い、痛い! あ、あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 ミシェイルが苦しみ始める。 トラジャや男の子の時とは違い、お酒を飲ませていないため普段通りの速さで孵化が始まったのだろう。


 助ける気は無いものの【愛と美の神レイチェル】様がいない以上助けたくても助けようがない。 でも助からないのに苦しみながら死ぬのを見ているのは耐えられなかった。

 なのでせめて選ばせることにする。



「どうする! そいつに腹を食い破られて死ぬか、それとも今すぐ俺の手で死ぬか選ぶんだ!」


 胸を押さえながら苦しむミシェイルに聞こえる様に大きな声で叫んだ。



「こ……ころひて……ころひて楽にひてくだひゃい」


 ミシェイルは解放されることを選んだ。

 即座に俺は(キャロン)を一閃する……ミシェイルの『(オーラ)』を絶って動きが止まって動かなくなった。 (キャロン)を収めて更にもう一度一閃して、今もなお胸から飛び出そうともがいているチェストバスターの『(オーラ)』も絶つとミシェイルの身体は完全に沈黙した。



「哀れな奴じゃ、最後は自分がしでかしてきた行いが降りかかってきたのじゃからな」


 トールさんがボソッと口にしてから俺たちに改めてお礼を言ってくる。

 そして出来うる限り早く船を完成させるとも約束してくれた。



 俺たちも船ができる前になんとかならないか話し合ったけど、この小島を抜けるためには空を飛べない俺たちには船がどうしても必要で、出来上がるまで待つ以外なかった。


 しかしこの3日はネオたちに十分な時間を与えることにもなってしまう。

 セドリックは賞金稼(バウンティハンター)ぎは一度狙った獲物に対しての執念は相当なため、渡った先には相応の準備もしているだろうと言ってくる。


 当然セーラムがいるのもわかっているから、直接挑んでくる様な愚かなことはしないにしてもなんらかの手段を講じてくるだろうと……




次回更新は明日の予定です。


ブックマークと評価ありがとうございます。

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