突撃!
「直ちに引き返せ! さもないと火矢を放って顎の餌になってもらうぞ!」
ネオが呼びかけてきた。
待機する武装したものたちの手には弓やクロスボウがあって、いつでも火矢を放てるように足元には火が焚いてある。
「どう、しますかなリーダー?」
「儂ゃ儂をこんな目に合わせたあいつらを許す気はないぞ! ドゥエルガルを怒らせた償いをしてやるわ! お前らが来ないなら儂1人でも叩き潰しに行ってやるわ!」
トラジャはフェイスハガーをけしかけたネオが許せないようで、引く気は微塵もなさそうだ。 俺もゼノモーフを信仰するようなあんな連中をこのまま野放しにするわけにはいかないと思う。
「正直なところ、最初は鍵だけ入手したら帰るつもりだった。 けど今はあいつらを放っておくことはできない。 ただ今まで色々と準備してきたトールさんたちのことを考えると……」
「じゃあ決まりじゃな。 儂ら全員あのカルト野郎たちから小島を解放出来れば特にやり方なぞ気にしとらんわい」
「わかりました。 それではこのまま島に向かいます! 全員戦闘準備を忘れずに全力で島へ! ただし誰1人殺さずに捕らえてください!」
オオッと声が上がり、小島に向けてまっすぐに漕ぎ進む。
岸辺で待ち構えているネオも俺たちの意図を悟ったのか、即座に命令を出して火矢を放ってきた。
「みんな! 振り落とされないようにしっかりつかまって!」
言うなり衝撃波を放つ。 もちろんネオたちに向けてではなく船の後方に向けてだ。
地上にいるときと違って船の推進力となって加速する。 ネオたちが放った火矢は頭上を越えていき、俺たちの乗った船は岸に激突する勢いで乗り上げて船首が砕ける音が聞こえた。
一斉に船から降りて武器を手にする者たちを無力化するために動き出した。
「な、ん、だと……」
ネオが今のを見て驚いた顔をみせたけど、即座に命令を出していたのが俺だと知り矢を放ってきた。
当然『気』でネオがとる行動が分かっていた俺は僅かに身体を動かして避ける。
「面白い! 冒険者風情の小僧がぁぁぁ!」
武器を手に俺に向かってきた。
「やめなさい!!」
ネオの動きが止まり、俺も声の主の方へ顔を向けるとミシェイルが立っていた。
「何をしているのですかネオ」
「こいつらは侵略者です。 侵略者から守るのが俺の役割……そうじゃなかったですかね?」
ミシェイルが現れた事で争いが一度止まり、ミシェイルとネオの会話に耳を傾けている。
「侵略者? 違うでしょう。 私も見ていましたよ、彼らは神の信徒に追われて逃げていたのです。 救いの手を差し伸べたとしても、戦う理由はありません!」
そうでしょうと俺に確認してくる。
「確かに俺たちは侵略しに来たわけではありません!」
ほら見なさいとでも言うようにミシェイルはネオを見る。
「……くっ、し、失礼をしたお客人たち」
「これで許してあげてはもらえませんか? そちらも誤解を生むような尋ね方をしたのですからね」
わからない。 この男、ミシェイル何を考えているのかさっぱりわからない。
「いいや、儂は許せんぞ! そいつは儂にフェイスハガーをけしかけおった。 そして実際死にかけたわ! じゃから、儂にはそいつを殺す権利があるのじゃ!」
トラジャが吠えた。
その瞬間ネオからも殺気を感じ取れた。
「確かに……それでは仕方がありませんね。 ネオ、確かにあなたはあの時勝手な行動をとりました。 だから……一騎打ちで決闘して決めるのです」
それを聞いたネオから確かに不敵な笑みが見えた。
「トラジャ! 受けたらダメだ! 俺たちにはやらなきゃいけないことがある!」
「安心せい! あんな小僧に殺られるような儂じゃないわい!」
トラジャも身を引く気はないようだった。
俺じゃダメだとセーラムとセドリックにも目を配ったけど、2人とも首を振ってくる。
「リーダーは知らないと思いますがな、ドゥエルガルのプライドの高さはエルフ以上……おおっとこれは失礼しましたな」
「うううん、私は幼い頃からずっとサハラたちと一緒だったからそういうのないから全然平気」
「それは良かった。 というわけでしてな、止めたら止めたで許してもらえないと思いますな」
おそらく仲間としては見なくなるだろうと言われてしまう。
「話はつきましたか? それでは両者の遺恨を無くすため決闘を受けますか?」
「もちろん、喜んでお受けしますよ」
「儂もじゃ」
ミシェイルが俺たちの方にも顔を向けてくる。 そしてこれは決闘だからどちらが生き延びたとしても恨みっこは無しですと念を押してきた。
「それでは私が合図を出したら開始です」
ネオとトラジャが向かい合い、ネオは片手にクロスボウ、もう一方に剣を持っている。
対するトラジャはゼノモーフに使っていたクラブではなく、戦闘槌を手にしていた。
「ヒュ〜、ミスリルの戦闘槌とは大層なものをお持ちですなぁ」
聞いたことがある。 ミスリルとは唯一ドワーフやドゥエルガルが加工できると言われている最高硬度にして魔法の武器に匹敵する金属だ。
「あれがミスリル……」
驚いている俺にセーラムがちょいちょいと俺を突いてきて、耳元に口を寄せてくるとマイセンの刀と鎧はミスリルよりも凄い神鉄アダマンティンだからね? なんて言ってきた。
「え? 何それ」
「んー、知らないならいいや」
確かに【鍛冶の神スミス】様に作ってもらった物だけど、神鉄アダマンティン? 神の鉄っていうぐらいだから相当な物だとは思ってたけど……
そうこうしているとミシェイルが2人の決闘に対して祈りを捧げ始めた。
「神よ、漆黒の女神よ、どうかこれからはじまる2人の決闘を見守りください。 そして、勝者には女神の祝福を、敗者には女神の元へお導きくださるよう……さぁ、はじめなさい!」
ミシェイルが神に祈りを捧げる時その手に握った物、それは籠手で奇妙な事に指の可動部は6本もあるものだった。
次回更新は明日25日の予定です。




