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一難去ってまた一難

 男の子が胸を押さえ込み出して、暴れ出し始める。



「ゲッコ! ガーゴ! 押さえつけて!」


 俺の指示でゲッコとガーゴが手と足を押さえつける。



「頑張れ! 頑張るんだ!」

「うあ、あがぁぁぁぁ! 痛い痛いよぉぉぉぉ!」


 そろそろだ……

 (キャロン)に手をかけていつでも居合斬りが使える準備をする。



「うわぁぁぁぁぁ、わぁぁぁぁぁぁ!」


 メキメキと胸の骨を砕ける音が聞こえ、突き破ろうとしているのが嫌でもわかった。


 【愛と美の神レイチェル】様もハラハラしながら俺と男の子を交互に見てくる。


 突如男の子がガックンガックンと痙攣しはじめて口から泡を吹きはじめた。



 ……やっぱりこんなに小さな子には無理がありすぎたか。



「ダメだよ! しっかりして! パパとママが待ってるんだから頑張らないとダメなんだから!」


 覆いかぶさるように男の子に【愛と美の神レイチェル】様が呼びかけはじめる。



「ママぁ……パパぁ……」


 すると魔法を使ったわけでもないのに男の子の痙攣が収まり言葉まで発した。

 その直後、胸からチェストバスターが顔を出して勢いよく逃げだそうとする。



「ハァッ!」


 チェストバスターの気配を掴んであった俺は、鯉口を切って(キャロン)を抜いてチンと納めるとチェストバスターは男の子から少し離れた場所で動かなくなった。



「こんなのすぐに治るから、もうすぐパパとママに逢えるから、大丈夫だよ」


 【愛と美の神レイチェル】様が呼びかけていて、神聖魔法を使う気配はない。

 だけど不思議なことに男の子の呼吸は落ち着きだして、気がつけば【愛と美の神レイチェル】様が触れていただけで胸に開いた傷がふさがっていた。



「ねぇ! ねぇ? これってもう大丈夫なのかな!?」


 心配そうに俺に聞いてくるんだけど……治した本人に聞かれても俺にはわからないんだけど……



「男の子の『(オーラ)』はしっかり感じるのでもう大丈夫です。 【愛と美の神レイチェル】様が治療してくれたおかげです」


 とりあえず俺にわかることを【愛と美の神レイチェル】様に伝える。


 そっかぁっと【愛と美の神レイチェル】様はホッとした顔を見せながら、男の子の頭を撫でた。



「よく頑張ったね、ん。 偉い偉い、男の子だもんねぇ」


 その姿は紛れもなく愛と美を司る女神様らしく、またどこか懐かしくも思える。 俺の記憶のどこかにある母親の面影を垣間見たのかもしれない。




 男の子が寝息を立てて寝静まったのはいいけど、未だトラジャの方にはその素振りが見えないままだった。



「いい加減居るなら出てこんかい! 儂だってさっさとスッキリさせたいわい!」


 そんなトラジャの姿を見てみんなが苦笑いを浮かべていると、洞窟の外の方から騒がしくなった。



「トール、大変だ! 顎が数匹こっちに向かって来てやがる!」

「なんじゃと!? どういう事じゃ」

「それがどうも俺たちが通った後を追ってきたみたいなんだ」


 慌ててトールさんが俺たちを見てきて、顎を引き寄せるような物を持っていないか聞いてきた。


 それを聞いた俺はピーンときた。



「たぶん、フェロモンだ……俺とセドリックが荷物を引き取りに行っている間に、男の子かトラジャ、または2人にフェロモンをつけたんだと思う」

「なるほど、どうりで岸にあげた後ソソクサと戻っていったのもそれなら納得がいきますな。 しかしよくそこに気がつきましたなリーダーは」

「それがわかったとしてじゃ、逃げても追ってくるという事になるんじゃろ?」


 逃げると言っても顎はもう洞窟の入り口付近まで来ていて奥へ進む以外ない。

 そして残念ながらこの洞窟はここからもう少し進んだところで人が通れないほどの穴が続いているだけだという。



「なら戦うしかないじゃろ!」


 未だチェストバスターが出てきていないトラジャが苛立ちから戦う気満々でいるけど、それもトールさんが下手に音を立てると音が響きやすい夜の分、ゼノモーフに気づかれかねないと言われてしまう。



「逃げてもダメ、戦ってもダメ、それならどうしたらいいにゃりよ」

「そこで『(オーラ)斬りのマイセン』に頼みたいと思うわけじゃが……」

「フングロゲガァァァァァァァァ!!!」


 トラジャが胸を押さえて、たぶん苦しんでいるんだと思う……



「よりによってどうして今にゃりよ!」


 こうなるとチェストバスターを傷つけずに殺せるのは俺しかいないため、トラジャの側にいなければならなくなってしまった。


 トールの仲間たちも俺たちが居る位置まで後退してきた。



「もう洞窟の中まで入ってきやがった!」

「どうするトール!」


 仲間の問いかけにトールさんも迷っている。



「セーラム、なんとかできない?」

「顎ってアレでしょ? 大きなトカゲ……私、ちょっと大きな爬虫類には嫌な思い出があってさ、そのぉ……苦手なんだ、えへっ」


 なんと英雄セーラム女帝は爬虫類が弱点だったぁぁぁぁぁ! じゃない! じゃあどうしたらいい。



「こう狭い洞窟だと回避もしにくいから、なお戦いにくいですなぁ……」



 そうこうしているうちに魔法の光が届くギリギリ先に顎の姿が照らしだされた。




次回更新は明日22日火曜日を予定しています。

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