隠れ家
トールさんに連れられて俺たちは洞窟に入った。
子供にはトラジャの持っていた酒よりも飲みやすい、甘い蜂蜜酒を飲まされて今は眠っている。
「なんじゃとぉぉぉぉ!! セ! セセセ! セーラム女帝陛下様ぁぁぁぁぁ!?」
うんうんと頷きながらセーラムが自分を指差している。
どういう事かとトールさんに問い詰められて、本来の目的であるゼノモーフの女王討伐の話をした。
そうなると当然ここに来ている理由も聞かれ、女王の元に行くのに必要な物を取りに来た事を説明する。
「何ともまぁ……よりにもよってあそことはのぉ……」
「でもその前に……」
トラジャと子供を見る。
「時間を引き延ばすだけで、儂は助からんのじゃろう?」
「治療する手段があれば助けられるんだ!」
そう、神聖魔法があれば助ける事が可能なんだ。
「それならお姉ちゃん……【愛と美の神レイチェル】がいるじゃない」
そうだった! だけどそうだとしても霊峰の町までもつのだろうか……それでも行くしかない!
「今すぐ霊峰の町に戻ろう! 間に合うかもしれない」
正直自信は無い。 だけどもし霊峰の町まで2人がもってくれれば……
「それならお姉ちゃんをここに呼べばいいだけじゃないの?」
「へ?」
呼ぶって……【愛と美の神レイチェル】様を!?
「じゃあ、ちょっと呼んでくるから待ってて。 っと、その前に……」
セーラムが石の様なものを手に取って魔法を使いだし、発動詠唱が終わると石にルーン文字の様なものが浮かび上がった。
「それじゃあちょっと行ってくるから、この場所は空けておいてね?」
そういうとセーラムは転移していった。
「な、なんか想像していた伝説の英雄セーラム女帝陛下と随分違うんじゃのぉ」
よくわかります。 俺もそう思いましたから。
トールの他にもトールと一緒にいる仲間らしい人たちも同様にセーラムのギャップの差に呆気に取られていた。
「それよりも迷宮の町……というか、小島は一体どうなっているのだ?」
「うむ、説明をしたいところなんじゃがな、その前にちょいとばかりそのぉ……なんじゃな、そのお酒をちぃとばかし分けて欲しいのじゃが……」
トールの目が先ほどからチラチラ移っているのは、トラジャのもつお酒だ。
「おう、まだまだ中身はあるわい! ちぃとばかしなんぞ言わんでコップでもジョッキでも持ってくりゃあ分けてやるわい!」
とまぁそんなわけで洞窟内は猛烈なアルコールの匂いで充満し、最初に猫ちゃんが匂いで酔っ払って倒れて、それに続く様に次々と匂いだけで酔っ払っていく。
「ゴメン……俺ももう無理……」
猛烈すぎるアルコール臭の前に俺も意識が朦朧となって眠りについてしまった。
「お酒臭っ! ちょっとそこのあなたたち、楽しくお酒を飲むのはいいけれど周りも人の事も考えなくちゃダメよ、ん?」
そんな声が聞こえて目を覚ますと、そこには両手を腰に当ててプンスカ怒りながら説教をしている【愛と美の神レイチェル】様の姿があった。
「【愛と美の神レイチェル】様……本当に来てくれたんですね」
まだ意識がハッキリしないながらもなんとか身体を起こしてお礼を言う。
「可愛い妹と兄の魂を持つ子に頼まれたら断れないわよ」
そう言って無邪気そうに笑顔を見せてくる。
トラジャとトール、それとセドリックはお酒を飲むのをやめて【愛と美の神レイチェル】様にペコペコ謝り通しだ。
そんな中でセーラムは鼻をつまみながら、小魔法の風を起こす魔法で洞窟内の酒気を排出していた。
「つまり? 私は2人の胸からチェストバスターっていうのが飛び出して、マイセンが仕留めたら治療すればいいのね、ん?」
「そうです。 ただ、治療だけではなくて、安定させる神聖魔法も必要で……」
「あー、ごめんね。 私の場合、神聖魔法とはちょっと違うからそういうのよくわからないのよ」
はい? 神聖魔法と違うってどういうことだろう。
とりあえず今は2人の中にいるチェストバスターが動き出すまでただ待つしかなかった。
どれだけ待っただろう? 洞窟の入り口には明かりが漏れない様に垂れ幕がかけられて中は魔法の明かりで明るくなっていて、食事が用意されていった。
「臭いとかでバレないんですか?」
「ああ、儂らは小島の奪還の為にここでずっと暮らしているが、奴らは匂いには反応しないようじゃ」
「匂いには反応しない……そうか、それで姿を消せば見つからないのか。 他に何かわかったことはありますか?」
そうじゃのぉとトールが思い出そうとしていると、ガラナが口を開いた。
「あいつら、宿していると、襲われない」
つまり今のトラジャや子供にはゼノモーフは襲いかからないらしい。
そこからわかるのは仲間は攻撃対象ではないということなのだろう。
「そういうところは人種より立派ね」
「人種は人種同士でも殺しあいするにゃりからな」
「お主らはどうなのだ?」
スカサハがゲッコとガーゴに聞くと、ゲッコとガーゴはグアグアと何かを言いだす。
「部族同士での争いはある、と言っている」
「そう考えると奴らは奴ら同士争わない点で言えば、儂らよりも優れているということじゃのぉ」
みんなから苦笑いが漏れる。
そんな中笑顔を見せないのはもちろんトラジャで、先ほどから不安そうな顔をしている。
「大丈夫だよトラジャ、絶対に助かるから」
「違うんじゃ、儂じゃない。 儂が心配しているのは餓鬼の方じゃ」
助かるためには最低でも胸を突き破る激痛に耐えなければならない。
ショック死されれば助けようがないからだ。
「う……うう、痛い、お腹が痛いよ……」
心配した矢先に子供が胸を押さえて苦しみ始めた。
次回更新は明日の予定です。
起きていたら0時頃に更新するかもしれません。




