バウンティハンターのネオ
ホークさんに連れて行かれた場所はさっきも連れて行かれた場所だった。
「気がついてくれてよかったよ」
天秤にかけただけで本当は何も気がつかなかったけど、ここは黙って頷いておく。
「それで一体どういう事です」
「あのままだったら君も危なかった……」
ミシェイルさんの側にいた男が非常に隙のない男で、僅かな合図なんかも見逃さないらしい。
ホークさんがあの時表情も変えないでいたのは悟られないためだったそうだ。 そのため握った手の強弱で俺が気がつかなかったら仕方がないと思っていたそうだ。
「ならばミシェイルさんを捕らえればいいじゃないですか?」
「それが出来れば既にしているさ。 あのミシェイルの側にいた男が相当な手練れなんだ」
ミシェイルさん……ミシェイルの側近の名前はネオと言って、こんな世界になるまでは冒険者だった者が犯罪を犯して賞金がついた相手を捕まえるか、殺した場合は証拠となる死体か証拠品を持ち帰る事で報酬を得ている賞金稼ぎだったのだそうだ。
「そんなに強いんですか?」
「強い、こと対人に関してはズバ抜けている」
賞金稼ぎは俺も聞いたことがある。 暗殺者の様に法を無視した殺害はしないで、該当する法律に従っているため正式に認められている職業だ。
冒険者ではない為、クラスとして扱われることはないけどレンジャーに近いといわれている。
「あとは君の仲間だが……トールなら助ける方法を知っているはずだ」
そりゃあ……まあねぇ。
……ピュ。
口笛の様な音が聞こえたところでホークさんは話をやめる。
「あ、セドリック!」
「仲間、か?」
「ええ、仲間のセドリックです」
セドリックはことが終わった後でトラジャを発見して、すぐに俺を探しに来たらしい。
「えーと、そちらさんは誰なんですかなリーダー」
まずはホークさんの事を確認してくる。 なのでホークさんの事を説明して安心させるとトラジャの事を聞いてきた。
「それでリーダーはどうするんですかな?」
「トラジャを連れてここを今すぐに出る。 もしかしたら助けられるかもしれない」
「それなら急いだ方がいいぞ、間もなく子供と一緒に船で島から出されるからな」
どういうことか聞くと、フェイスハガーが剥がれると間もなく胸を突き破ってチェストバスターが出てくるから、その前に島から追い出しておくのだそうだ。
もっともミシェイルは神の信徒に生まれ変わるからと言っているらしいけど。
まぁここでゼノモーフが誕生したら危険だから当然だろう。
「いろいろお世話になりました」
「間に合えばトールに連絡しておくよ」
「ありがとうございます。 そうだ、俺はマイセンっていいます」
「マイセン!? 君があの『気斬りのマイセン』か! そうか、ははっ……まさかこんなに若いとは聞いていなかったな」
やっぱりというか、トールさんから俺のことは聞かされていた様だった。
「という事は俺はとんだ英雄を救ったわけだな」
「英雄だなんて……」
「おーい、リーダー急ぐんじゃなかったのかな?」
「そうだった! それじゃあ」
重ね重ねお礼を言って俺はセドリックとトラジャの元へ急いで向かう。
「見つかった?」
「これが恥ずかしながら……盗賊のクラスが泣いてしまいますなぁ」
「そうか、仕方がない。 とりあえず今はトラジャを優先しよう」
トラジャが倒れた場所まで行くとちょうど運び出そうとしているところで、その指揮をとっているのはネオその人だった。
「待ってください!」
「ん? 小僧か。 コイツはこれからすぐに島から出さないといけないんだ、邪魔をするな」
「俺たちも一緒にここを出て行きます」
ギロッと俺とセドリックを見てくる。
「ならば急げ、あと半刻で出る」
セドリックが急いで武器を預けた場所に向かい装備を身につけていき、俺はトラジャの荷物を受け取ったら小舟の場所に戻る。
「遅い!」
まだ半刻経ってないよ!
文句は言いたかったけど、グッとこらえておとなしく謝罪して船に乗り込んだ。
船が漕ぎ出されて岸に着く頃には陽が落ち始めている。
「早く避難しないと、奴らの餌食になっちまうぞ! じゃあな」
ネオたちはトラジャと子供を地面にほおるとサッサと島に戻って行ってしまった。
トラジャと子供を運んで島から見えない森の中に連れ込んでからセーラムの名前を呼んでみると、すぐに姿を見せてきてトラジャと子供を見て愕然としている。
「一体何があったの?」
「ミシェイルと言う大層頭が沸いた奴がいましてな……」
俺の代わりにセドリックがセーラムたちに説明している。
俺はその間にトラジャの持ち物から酒らしいものを探していた。
それらしいものを見つけて蓋を開けてみると猛烈な酒の匂いが漂う。
「あった!」
これでトラジャは何とかなる……問題は子供の方だ……
暗くなる頃、トラジャと子供の顔からフェイスハガーが抜け殻の様になって落ちた。
「ム……グゥ。 儂は……そうか、化け物にやられたんじゃったか」
トラジャが目を覚ました。
「トラジャ、すぐにお酒を飲むんだ!」
不思議そうな顔をしながら、どちらにしても飲まなきゃやってられんと飲みだした。
「う、ん……」
「あ、起きたにゃりよ」
少ししてから子供の方も目を覚ました。
「ママ?」
「ゴメンにゃり、猫はまだ子供を産んだことないにゃりよ」
どう考えたって母親を呼んだだけでしょ!
なんて内心でツッコミ入れてる場合じゃなかった。 俺はトラジャから酒を奪い取ってすぐに子供にの口に注ぎ込もうとする。
「何これ臭ぁい!」
「嫌かもしれないけど飲んで!」
「嫌だぁぁ」
「オイ小僧が嫌がってるのに何もこの貴重な酒を呑ませなくてもいいじゃろう!」
「ダメなんだ! 嫌でも飲まなきゃ助かるものも助からない!」
「どういう事じゃ?」
俺が助かる方法を説明しようとしたとこで近づく気配を感じて顔をそちらに向ける。
「チェストバスターは酒を飲む事で酔っ払わせる事が出来るんじゃよ。 しばらくぶりじゃなマイセン」
「トールさん!」
そこにはトールさんとガラナさん、それと数名の姿があった。
次回更新は20日の日曜日の夜の予定です。




