カルト野郎
「窃盗だ—————!!」
突然そんな声が上がった。
「またか……」
その声を聞いたホークさんがまたかとつぶやく。
「行ってみるといい、俺の、俺たちの言った意味がわかってもらえるはずだ」
ホークさんはもう見たくないとその場に残り、俺だけが声のした方……古城の正面に向かう。
そこには捕らえられた20代後半ぐらいの男女がいて、その正面にミシェイルさんが立っている。
「やれやれ困りましたね……コミュニティの調和を乱す行為は禁じてありましたし、見つかればどうなるかぐらいわかっているでしょうに……」
男の人が女の人を庇うようにいるところから夫婦なのかもしれない。
「わ、悪いのは俺だ、俺だけで許してくれ!」
懇願する姿を見てミシェイルさんは考え込むそぶりを見せると、隣に立つ男がミシェイルさんに何か耳打ちをする。
「なるほど、あなた達にはお子さんがいらっしゃるそうですね」
「こ、子供に罪はない! 俺を罰してくれ!」
「どうか、どうか子供だけはお願いします」
「ちなみに、お子さんはいくつなんですか?」
子供の年齢を聞くとミシェイルはため息をついた後、子供を連れてくるように側にいる男に命じた。
程なくして連れてこられた子供は男の子で、まだ5歳かそこらといったところで状況を把握していないせいか、遊んでもらえるとでも思っているのか喜んでいる。
「非常に残念ですが、コミュニティの秩序のためにもあなた方家族には罰を受けてもらわなければいけません」
アレをと指示を出すと大きな包みが運ばれてきて、それを見た夫婦が恐怖に顔を引きつらせている。
あの大きな包み、どこかで見た記憶があると思ったら、調達に出ていた5人が背負っていたものだと思いだした。
夫婦が押さえつけられて身動きを取れなくされると……
「さぁ坊や、この中を覗き込むんだよ」
「や、やめろ! やめてくれぇぇぇ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
わずかに開けられた袋の中身を疑うこともせずに子供が覗き込んだ————
次の瞬間、子供の顔にフェイスハガーが飛び出してきて張り付いてきた。
そのあまりにも驚くような出来事に、俺も身動きどころか呼吸すら忘れてしまいそうなほどだった。
「これであなた方夫婦の犯した罪は、子供が神の信徒になる事で許される事でしょう」
事が終わるとミシェイルは集まった全員に聞こえるように言った。
解放された夫婦がフェイスハガーに張り付かれた我が子を抱きしめて泣いている。
いや、そうじゃない。 そこじゃないだろう。
『———あのバケモノたちを崇拝してやがるカルト野郎なんだよ』
ホークさんが言っていたのはこの事だったのか!
こんなの許されるはずない。
相手がまだ子供だからとかじゃなく、今こそ助け合わなきゃいけない時にまさかゼノモーフを増やすような事をするなんて!
いてもたってもいられず、ミシェイルさんに詰め寄ろうとした時だった。
「ミシェイル様、不審者を見つけたので捕まえました」
捕まって連れてこられたのはトラジャだった。
「不審者とはなんじゃゴルァ! 儂はただ古城の周りを見回していただけじゃぞ!」
「あなたは……先ほどこのコミュニティに来たばかりの方ではないですか? 一体なぜ古城を見回っていたのですか?」
トラジャはここには初めて来たから古城に興味があったというような事を怒鳴り散らしながら、捕まえている男を振りほどこうとしている。
ドゥエルガル族は短気で怒りやすい。 さすがのミシェイルさんもトラジャのブチ切れに苦笑いを見せてわかりましたと、捕まえている男に離すように命令する。
「さてさて、他の2人はどちらにいるのかも教えてもらわないといけませんね」
「知らん!」
「知らんとはどういう事でしょうか?」
そう言っている間に側近ぽい男が何処かへ急ぎ足で歩きだす。
「別に一緒にいなきゃいけないわけじゃなかろう、ここをさっさと出て行くか見極めておっただけじゃ!」
重たそうにしながらミシェイルさんの側近ぽい男がまた袋を持ってきた。
……まさか!
「それではこの中を見て真実か見極めてもらおう!」
「あん!? 何が入っとるか知らんが、儂は嘘はついとらんわい!」
ミシェイルさんの側近ぽい男がトラジャを挑発して袋を覗かせようとし、トラジャは中身が気になるのかチラッと見ようとする。
「トラジャ! その中を見たらダメだ!」
「んあ、マイセンか?」
間に合った、そう思った直後、ミシェイルさんの側近ぽい男が袋をトラジャに向けてきた。
俺の方を向いたトラジャがそれに気がついた時はすでにフェイスハガーが飛びかかってきた所で、避ける間もなくトラジャはフェイスハガーに張り付かれてしまった。
「きっさまぁぁぁぁぁ! よくも仲間を!」
俺が刀に手をかけるとミシェイルさんが間に入って止めてきた。
「2人共待ちなさい! あなた、何を勝手な事をしているんですか! それとあなたもそれを抜いたら即刻出て行ってもらう事になりますよ!」
まだセドリックの姿が見えない。 という事は目的の場所がまだ見つかっていないという事なんだろうか?
でもだからと言ってトラジャをこのままにしていたら、確実にチェストバスターが胸を突き破って出てきて死んでしまう。
「俺はミシェイル様の身を案じて……」
「随分と勝手な事をしてくれましたねぇ……彼らはまだ今日来たばかりでルールをよく知らなかっただけでしょう」
「すんません、以後気をつけますんで……」
側近ぽい男はヘラヘラと笑いながら頭を下げる。
「こう言っているので許しては貰えませんか?」
「ふざけるな! トラジャが、仲間が死ぬというのに謝っただけで……」
「いえ、死にはしませんよ?」
さも不思議そうにミシェイルさんがおかしな事を口にする。
「彼はこの世界の新たな神の信徒へと生まれ変わるだけですから」
ミシェイルさんは迷う事なくそう言った。
一瞬何を言っているのかわからなかったけど、すぐにおかしいと言おうとしたら、いつの間にかホークさんが来ていて俺の肩を掴んで首を振ってくる。
「ミシェイル様、彼には俺がここの暮らしの説明しておきますので……」
「ほほぉ……それではお願いしますね」
ハメられたのか? そう思ったのも束の間、俺を引っ張って連れて行こうとする。
「ここでの暮らしやその仲間がどうなるかを教えてやると言っているんだ。 おとなしくついてきた方がいいぞ」
ホークさんが掴む手に強弱をつけてくる。 何か知らせようとしているんだろうか?
何か理由があるのかとホークさんの顔を見ても表情は変わらない。
ホークさんとミシェイルさん、どちらかを信用しろと言われればホークさんしかない。
引かれる手に従うように歩きだした。
次回更新は明日18日です。




