集まった勇者たち
【魔法の神エラウェラリエル】様の話が止まってみんな思い思いに考えているようだけど、誰1人として神様と戦う事に不満を言うような人はいない事に驚かされる。
「みんな仮にもこれから神様と戦うっていうのに平気なんだね?」
「どちらにせよやらねば我らの世界は終わるからだろう」
そういうものなのかな? それよりも……
「そういえばさ、【魔法の神エラウェラリエル】様は言わなかったけど、女王の元に行くには必要な物があるらしいんだけど……」
「ん、どうしてそんな事をあなたが知っているんだ?」
そういえば言ってなかったっけ……
というわけでアラスカにプリュンダラーとガイモンから聞き出した情報の事を話す。
「それが本当であれば……」
アラスカが立ち上がって【魔法の神エラウェラリエル】様の方へ行こうとした直後、転ぶ気配に気がついて素早く支える。
「僕のせいだね、ごめん」
照れながら首を横に振ったアラスカを支えながら【魔法の神エラウェラリエル】様の側まで行くと、心配そうな顔を見せてくる。
「アラスカさん、どこか怪我でも?」
「……その、彼が……だな」
それだけで察したのか、【魔法の神エラウェラリエル】様は耳まで真っ赤にさせて、すぐ側にいたキャビン女王は羨ましげに、キャス様はケラケラ笑いだす。
「え、えっと、それで……」
慌てふためきながら【魔法の神エラウェラリエル】様が聞いてくる。
アラスカが僕が言った事を話すと急に冷静になって、どこか納得するような顔を見せながら「そういう事でしたか、これで合点がいきました」なんて言いだす。
【魔法の神エラウェラリエル】様もいくらニークアヴォが創造神様を捕えるのが狙いだったとしても、人種の滅亡までは望んでいるはずはない、にも関わらずゼノモーフの女王を放置しているのはおかしいと思っていたのだそうだ。
「皆さんにお話があります」
そう言って【魔法の神エラウェラリエル】様が付け加えで、当初では現地に到着してからゼノモーフの女王の居場所を探し出してもらうつもりだった事を説明してから、僕の言った事を付け加えてくる。
その結果、まずは最優先で霊峰の町へ向かい、その足で迷宮の町で必要と言われるものの回収をすることになり、それが済んでから改めてという事になった。
「それでは私はこれで」
「感謝いたしますわ【魔法の神エラウェラリエル】様。 この後は私にお任せください」
伝えるべき事成すべき事を言い終えて【魔法の神エラウェラリエル】様の姿は消えていった。
「それでは集まった皆さんには、それぞれ自己紹介をして頂こうかしら?」
という事でキャビン女王様の近くから順に立ち上がって挨拶が始まる。
「じゃあ最初はリセスドからね」
キャス様に言われて最初に自己紹介をしたのはリセスドさんだ。
「俺はリセスド、リセスド=パーラメントだ。 パーラメント一族の末裔といえば知っているものはいると思う」
言うまでもなく霊峰のダンジョンで出会った凄い鞭の使い手の人だ。
大柄で身なりをあまり気にしていないのか、ぼさついたままの長髪に軽装備しかしていない。 助けてくれた事もあるとこから正義感も強そうに見える。
「次は……」
「はーい、私の番ね」
続いてとても澄んだ可愛らしい声で立ち上がったのはエルフの女性で、思わずその可愛らしさに見惚れているとアラスカの蹴りが飛んでくる。
意外にアラスカはヤキモチのようだ。
武装は一切していなくて、服装もいたって普通の若草色のチュニックを着ているだけ、という見るからにウィザードなんだろうと思ったのだけど……
「えっと、私はセーラムよろしくね」
……え?
セーラムって……まさか。
たぶん驚いた顔のまま、指を指してアラスカを見ると頷いてくる。
「セーラム女帝国のセーラムだ」
言葉が出てこなくて口をパクパクさせてしまう。
それも当然で、キャス様同様今なお生きる伝説の英雄の中でも唯一、代行者や神ではなく僕たちと同じ人種の存在なのだから。
「まぁ言いたい事とかあるだろうけど、とりあえず自己紹介を済ましちゃうね? 次はトラジャだよ」
言われて立ち上がったのはドワーフ……じゃなくて瞳にドラウと同じく虹彩がないからドゥエルガルだ。
「儂ぁトラジャじゃ、もうジジィだがせっかくララノア姫が作り上げた平和を台無しにした輩は許さんわい」
ふさふさに蓄えた髭は銀髪で、頭はツルツルだ。
トラジャさんがどれぐらい高齢なのか……さすがにドワーフとドゥエルガルは見た目じゃまったくわからなかった。
というよりララノア姫って言ってたけど……
聞きたい衝動に駆られたけど、まだ自己紹介の途中のため後で聞こうと思った。
「次はセドリック、どうぞ!」
セドリックと呼ばれた人は優しげな笑顔を浮かべたおじさんで、パッと見では勇者として招集されるような人には見えない。
「今紹介されたようにセドリック言います。 いやぁ凄い人たちばかりで自分なんかじゃ場違いに感じちゃいますなぁ、はっはっは」
見た目通りに朗らかな感じで、頭をペシペシ叩いている。
「セドリックは盗賊だからロメオ・イ・フリエタで助けになってくれるはずだよ。 んじゃあ続いてアラスカね」
アラスカの番になって立ち上がって自己紹介をするのだけど……
「7つ星の騎士団のアラスカだ。 だが今は騎士魔法が使えず足を引っ張るかもしれない。 足手まといにだけはならないよう努力するのでよろしく頼む」
普段どんな時でも弱気なんか見せもしない、ましてや口にするなんて絶対しないアラスカがそう言った後頭を深く下げて……そのままの姿勢を取り続けていた。
「ア、アラスカ……」
かけてあげれる言葉が見つからず、アラスカの肩に手を添えて座るように促す。
椅子に腰を下ろしたアラスカはとても悔しそうな表情を見せていて、僕も僕自身のことのような気持ちになる。
顔を上げると、キャビン女王様とキャス様とセーラム様が哀れむような表情で見つめて、リセスドさんとトラジャさん、セドリックさんは驚いた顔で見ている。
「もしもアラスカの至らない部分があるようなら、夫である僕がその分補ってみせる! 僕はここにいる誰より強い! 僕にはそれだけの力があるんだ!」
アラスカのそんな姿に見るに耐えられず思わず怒鳴るように言い放ってしまった……
次話更新は明後日25日の予定です。




