決闘、マイセン離婚の危機?
集まっていた魔導学院の生徒たちが信じられない事を聞いたかのような顔を見せてくる。
「う、嘘だ! なんでお前なんかとアラスカ様が夫婦なんだ!」
お前なんかって……まぁそうだよね、もう慣れちゃったけど、僕だって元々は憧れだった人と結婚したんだもんね。
「ありえねぇ! 証拠を見せてみろ!」
困ったな……とりあえずじゃあ……
「これでいいかな?」
「んんっ!?」
アラスカを抱き寄せてキスして見せる。 正直人前でなんて恥ずかしかったけど、いい加減食事もしたかったし部屋に戻ったその後の事もある。
男子学院生徒からは唖然、呆然、愕然の声が、女子学院生からはきゃーと黄色い声が上がった。
「マ、マイセン! 何もこんな人前でキスをしなくたって指輪を見せればいいだろう!?」
「あ、そっか」
でもさすがにキスして見せれば信じるだろう……そんな風に思っていた僕が馬鹿だった。
男子学院生徒たちが恨めしい表情で僕のことを見てきている。
「決闘だ! 決闘を申し込む! 俺が勝ったら別れろ!」
はいぃぃ?
「いいだろう。 なんなら私の夫に勝てたら君の妻になってやってもかまわないぞ?」
ちょ、アラスカまで!
アラスカは僕にウインクして見せてくる。 きっと何か考えでもあるんだろうけど……
「ただし決闘というのはさすがに物々しすぎる。 それに夫は剣士で君はウィザードだろう?」
「ここは魔導学院だから当然魔法での勝負では?」
それは……ズルいんでない?
ルールを勝手に決めた男子学院生徒はニヤニヤと既に勝ち誇った顔を見せている。
「君はコレが逆の立場だったらどうするつもりだ?」
呆れかえっているのはアラスカだけじゃなく、周りで見ている女子学院生たちもヒソヒソと、でも聞こえるように非難の声をあげている。
「じょ、冗談に決まっているだろ!」
さすがにぶが悪いと思ったのか必死になって誤魔化そうとするけど、一度吐いた言葉が覆る雰囲気じゃなかった。
「そうだな……校庭に大小様々な木を投影して倒す。 挑戦は3回までで、より大きい木を一撃で倒した方が勝ちというのはどうだ?」
「コイツはその腰にある剣で、俺は魔法でいいのなら」
アラスカが僕を見てくる。 もちろんうなずいて答えた。
「決まりだ! っへ、そんな剣で倒せる木なんてたかが知れてるさ!」
すっかり勝ち誇っている男子学院生徒。 確かに普通の人なら魔法相手にかなわないのかもしれない。
とりあえずさっさと終わらせてご飯も食べたいし、アラスカともイチャイチャしたい僕は1発で決めることにして校庭へと移動する。
校庭にはこの決闘を見ようとかなりの人数が見学しに来ていて、ものすごい人だかりが出来ていた。
「あれ? アラスカ、木なんてないよ?」
「そうか、あなたは知らないか。 ここは自由に戦場を作れる魔法のグランドで……この通り色々と出来る」
校庭が姿を変えていって何本もの木が立ち並びだした。
「凄いな……で、僕からやってもいいのかな?」
決闘を申し込んできた男子学院生徒に聞くと、余裕の表情でどうぞお先になんて言ってきた。
1番大きな木の前まで進み出ると、後ろから無理すんなよって声が聞こえてくる。
そんな声を無視して鯉口を切って刀を抜く。
チンッ……
注目されて静まり返った校庭に刀を抜いた音が鳴り響く……
「……あ、そうだ。 これって別に1本じゃなくてもいいんだよね?」
振り返ってアラスカに確認する。
「一振りであればな」
「なら……ここからでいいや」
さらに移動して、最初に狙った大木と縦に1番並んでいる場所に位置を決める。
僕自身どれだけ倒せるのかわからないけど、全力で放ってみるつもりだ。
「衝撃波!」
僕が出せう最大の『気』の衝撃波を放出すると、一振りで放射状にある木全てを切り刻んだ。
切り刻んだ…………
「あ……あれ?」
切り刻みはしたけど見事なまでに1本も倒れていない。
「一瞬だけだけど驚いたよ、だけど今ので1本も倒せないようじゃあ、特Aクラスの俺に勝ち目はないな?」
これあとでアラスカから聞いたことだけど、特Aクラスとは素質のあるものだけが入れるクラスで、言うなればエリートクラスの事だ。 つまり最初からこの男子学院生徒はキャロと同じぐらいで第3位クラスまでの魔法を使いこなせるということになる。
今度は俺だとでも言わんばかりに僕の前に出て魔法の詠唱に入る。
どうやら狙いは幹周りにして1メートルはあるかなり大きな木のようだ。
「我が眼前の敵を爆せよ! 火球!」
ヒュルルルルと火の玉が飛んでいき、木に当たると爆発を起こして吹き飛ばす。 倒すのではなく吹き飛ばしてしまった。
「まぁ俺はこれで十分だ。 せいぜい頑張ってこれ以上の木を倒して見せてくれよ?」
これはたぶん嘘だと思う。 第3位クラスの魔法までは習得するウィザードは多いけど、そこから先はかなり大変になってくるってキャロに聞いたことがある。
だから失敗しないで確実に倒せるできるだけの大きな木を選んだはずだ。
……よし。
刀を構えて男子学院生徒が吹き飛ばした木よりも大きな木を探しだして、その木の前で構えた。
「剣圧!」
全力で放った剣圧が木を叩き潰そうと『気』の圧力をかける。
「なっ……なんで!?」
かなりひしゃげはしたものの木は倒されることはなかった……
「アラスカ様、さっきの話は嘘じゃないんですよね? 俺と結婚してくれるんですよね?」
勝ち誇った表情を見せながらアラスカに確認しだす。
そのアラスカはというと次がラストチャンスだというのにも関わらず冷静なまま「約束は守ろう」と答えていた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……衝撃波と剣圧を使っても木を倒すことはできなかった。
「マイセン、君の二つ名の由来を思い出すんだ」
僕の二つ名……『気斬りのマイセン』……そうか、気斬りだ!
気斬りは刀の刀身で斬るのではなく、『気』を放つ事で数歩離れた位置から相手を斬る。 その際例え相手が硬い防具をつけていようが『気』の前では無意味だ。
そんなことも忘れているなんて僕は馬鹿だなぁ……
また1番大きな木の前に立つ。 その幹周りの太さは優に3メートルはあるんじゃないかと思える。
———————そして僕はその大木を一刀で切り倒した。
見に来ていた学院生徒たちはあまりの驚きで声も出ず、僕に挑んだ男子学院生徒も口をパクパクさせたまま声も出ないようだ。
「きまりだな、食事に行こうあなた」
「そうだね、アラスカ」
そんな学院生徒たちを尻目に何事もなかったように僕たちは食堂に戻っていくのだった。
次話更新は明後日の金曜日を予定しています。




