迷子
本日はこの1話のみになります。
道に迷った。 道に迷った。 道に迷った。 道に迷った……
思い出しながら必死に来たと思う道を辿るけど、どこを見ても同じようにしか見えなくて全くわからない。
ちょっと戦えると思って調子に乗ったからだった。
あれからゴブリンはもちろん、コボルトや心半ばにして死んだであろうゾンビや肉すらなくなったスケルトンとも戦った。
それでわかったことは、死んでいるのだから当然のことだけど、死んでいる相手の気配は感じられない。そのため最初はゴブリンよりも苦戦した。
そうしながら倒した相手の持ち物も漁っていたら、結構なお金も集まって背負袋も重くなってきている。
時間もわからないや……お腹すいたな……
ここで朝、携帯食を買っておいたことを思い出して背負袋から取り出してゆっくり口にする。 急いで食べきるとお腹が満足しないといけないからだった。
残り半分は念のために取っておこう……
朝早く誰にも言わないで出てきた僕の行方を知っている人はいない。 ヴェルさんあたりはここに来たと思うだろうけど、僕の捜索を要請する義理もない。
僕の意地が招いた結果だった。
なので運良く他の冒険者に出くわすか、自力で戻る以外助かる道はなかった。
それから彷徨い歩くこと……どれぐらい経ったかわからないけど、争う音が聞こえてくる。
人だ! 人がいる!
僕はこれを逃してはいけないと必死に音がする方へ走っていく。
今度は悲鳴が聞こえた。 でも反響して場所が特定できない。 それでも必死に走ると、ついに争っている場所にたどり着く。 でもそこには、忌まわしい記憶が残るオーガがいて、オーガと必死に戦う2人の姿が見えた。
あのぱんぱんに腫れ上がったような顔にある口に運ばれて、食べられそうになった記憶が蘇って身体が震える。
あの人たちはなんで逃げないんだ。 そう思ったら、地面に既に倒れている人の姿が見えた。
「くそっ、くそぉ、ちくしょーーーー!」
声をあげてオーガに向かっていく。 本当は怖かった。 でも、倒れている人を見て自分のあの時の姿が映ったように思えた。
あの人、アラスカ様は助けてくれた。 あの時助けてもらえなかったら僕は食べ殺されていたんだ。
そう思いながらオーガと2人の間に立って、背負袋を地面に投げ捨てて身構える。
「早く仲間を!」
そう叫ぶと1人が倒れている仲間の元に向かった。 もう1人は僕の後ろに控えているみたいだった。
「早く逃げて!」
オーガの持つ巨大な棍棒を躱しながら叫ぶ。
「だって、そんなことしたら君はどうするの?」
「僕が、少しでも長く足止めする! 早く!」
オーガの大ぶりな攻撃のせいで、足元に倒れている仲間のそばに行けないようだった。
「グレイグはダメだ……」
そんな声が聞こえる。 どうやら1人は死んでしまったようだった。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
叫んでオーガの大振りの後に間合いまで入り込んでタックルして、少しだけよろめかせて後退させる。
「今のうちに!」
頷いて駆け寄る姿を見て、僕はオーガに集中しなおす。
一気に間合いまで入り込んでしまい、オーガが僕を掴もうとしてくる。 それを転がって躱して2人から徐々に距離を置くように誘導した。
そんな事を繰り返して多少距離を引き離したところで2人をチラッと目をやると、どうやらもう1人もダメだったようだった。
「逃げて!」
僕はもう一度叫んだ。
だけど2人は逃げようとするそぶりを見せない。 それどころか、1人は武器を手にオーガと戦おうとしてくる。
「なんで!」
「ここで君を見捨てて、自分たちだけ生き延びるような生き恥は晒せない」
もう1人も少し距離を置いたところで頷いている。
本当は2人が逃げたのを確認したあと、僕も逃げるつもりだったんだけど、仕方なく武器を構えて戦う姿勢をとって集中することにした。
オーガは武器の間合いに近寄らせないのと当たればそれで殺せるのがわかっているのか、巨大な棍棒をとにかく大振りを繰り返していて、剣の間合いになかなか入り込めないでいた。
どうしたら……と思っていると、一緒に武器を構えていた冒険者が、大振りでよろめいたところを掻い潜って剣を突き刺そうと懐に入り込んでいった。 でもそれはオーガのフリで、空いた手で冒険者の胴をあっさり掴んでしまう。
有名な魔法の籠手にガントレットオブオーガパワーと呼ばれるものがある通り、オーガの力は物凄い。
「ぐわぁぁぁぁ!」
オーガの馬鹿力で掴まれて悲鳴をあげる。 急いで助けようとしたら、オーガは冒険者を掴んだ腕を大きく振り上げて——————
———————思いきり地面に叩きつけた……
グシャッ……
聞きたくない何かが潰れるて破裂したような音が聞こえて、地面に叩きつけられた冒険者はおびただしい血を流しながらピクリとも動かなくなっていた。
「ああっ……ああぁぁぁぁぁぁぁあ!」
残った1人が悲鳴とも恐怖ともわからない声をあげる。
オーガは動かなくなったのを確認すると、今度は僕ではなく、悲鳴をあげた残った1人の方へ向かっていった。




