英雄キャス
先頭は僕が、その後に使者の人が続いてその後をゲッコとガーゴが後ろを守るように進んでいく。
「しかし……随分と物々しい格好をしたリザードマンだな」
ゲッコとガーゴの姿を改めて言ってくる。 ゲッコとガーゴのフル装備は、猫ちゃんが改良を加えながら作ったゼノモーフの頭部を使って作った兜をかぶっていて、腕や足もゼノモーフの頭部で作った防具をつけていて、手にはゼノモーフの尻尾で作った短槍と予備武器に背中にも同じ槍を背負っている。
「はは……確かに。 ぱっと見ゼノモーフの親玉か何かにしか見えませんね」
ゲッコとガーゴもそれを聞いてキシャーとゼノモーフの鳴き声を真似して見せてくる。
「もうすぐ冒険者ギルドに到着します……と言いたいところだけど、数匹いますね」
「なんで姿が見えないのに君はわかるんだ!?」
「えっと……僕には『気』を感じ取れる相手であれば、7つ星の騎士のように居場所がわかるんです」
「『気斬りのマイセン』の由来というやつか……」
これで少しは見直してくれたかな?
なんて思ったんだけど、使者の人はだから護衛をと言ったんだと怒りだす。
どうやらこのキャビン魔道王国の使者の人は、まだ僕の事を小僧程度にしか思ってないようだから、ここで少し見せることにした。
「数がいるんだろう? 私だって魔法で……」
「この数なら僕だけで大丈夫ですよ。 ゲッコ、ガーゴ、使者の人を『ガード』ね」
使者の人は「おい!」って呼び止めてきたけど追ってまでは来ないで、ゲッコとガーゴに守られながら後からついてきている。
見事なまでに冒険者ギルドの前辺りにゼノモーフが6匹いて、あとは冒険者ギルドの中から1匹の気配が感じられる。
鯉口を切って刀を抜刀しながら走る僕に気がついたゼノモーフが一斉に向かってくる。
「衝撃波!」
真っ直ぐ僕に向かってきたゼノモーフ4匹は放射状に放たれる『気』の斬撃が襲いかかり切り刻まれて気配がなくなる。
残る2匹のうち1匹は僕のサイドから攻撃を仕掛けようとでもしたのか大きく横に離れていたから衝撃波から逃れられて、もう1匹は衝撃波の範囲から僅かに離れていて直撃は受けなかったようだが、全身から酸が流れ出ている。
そしてサイドから飛びかかってきた無傷のゼノモーフを『気』で絶って刀を鞘に納めた。
「まだ1匹残っているのになぜ武器を納めているんだ!」
後からきた使者の人が叫んだことで、手傷を負ったゼノモーフが僕から使者の方に狙いを変えて襲いかかろうと猛スピードで走ってきて、大きく飛び越えて使者の人に向かおうとする。
「はっ!」
……チンっと刀を抜刀して一閃してまた鞘に納める。
飛びかかったゼノモーフが力無く地面に落ちて動かなくなった。
「ど、どういう事だ……君が剣を抜いたと思ったら動かなくなったぞ!?」
「居合斬りです。 相手の『気』を読めさえすれば、その『気』だけを絶ち切ることができます」
そう答えはしたものの、僕はまだ身構えたまま冒険者ギルドの中から感じる『気』に注意する。
「これが……『気斬りのマイセン』なのか……」
「そこを動かないでください。 まだ中に『気』を1つ感じますから」
「そ、そうか……いや、そうですか」
今の返答でやっとキャビン魔道王国の使者の人は僕の事を認めてくれたように思えた。
それにしてもおかしい。 ゼノモーフならこれだけの物音が聞こえれば必ず出てきて襲ってくるというのに、冒険者ギルドの中にある『気』は今もその場から動かないでいた。
「そこにいる奴……誰だ! 隠れてないで出てこい! さもないと……」
怪我人の可能性も考えられたけど、それならすでに出てきているなり身を隠すために動いていたはずで、仮に動けないほどの重傷者であれば『気』がこれほどハッキリとは感じられないはずだ。
「さすがと言ったところだねぇ、って攻撃しないでよ。 僕はキャス、君を迎えに来たんだ」
戦う意思は無いと両手を上げて姿を見せたその人物の姿は小柄なローブ姿で、ニコニコ笑顔を向けてくるその顔立ちは僕よりもずっと若く幼くも見えた。
「キャ、キャス殿!」
「いやぁ焦ったよぉ。 転移して着いたと思ったらいきなりコイツらがいるんだもん」
キャビン魔道王国の使者の人がキャス殿と言ったのなら間違いなくこの人は、英雄セッターと共に戦った【魔法の神エラウェラリエル】様の代行者のキャス様なのだろう。
こんなに若いとは思わなかったな……
「聞いていた以上に凄くて驚いたよ。 セッターの魂を持つ『気斬りのマイセン』」
「僕の事を知っているんですか?」
よく知ってるよと言いながら、僕たちの方にニコニコ笑顔しながら軽やかに歩いてくる。
「でも君とは初めましてだね、僕は【魔法の神エラウェラリエル】の代行者のキャスだよ。 うーん、正確には前の【魔法の神アルトシーム】の代行者なんだけどね」
僕の目の前に伝説とまで言われている英雄がいる。
姿には驚いたけど、その自信に満ちた姿は神々しくも見えて思わず見惚れてしまった。
「さぁ早速だけどあいつらがまた来る前にキャビン魔道王国に行こう」
「え、でもどうやってですか?」
「魔法でに決まってるじゃん」
そう言うとキャス様は魔法の詠唱に入って、しばらくすると何も無い空間に青い揺らぎのようなものが現れた。
「ささっ、入って入って。 ここを抜けたらキャビン魔道王国の王城の中庭に出るから」
驚いているとキャビン魔道王国の使者の人が先に通り抜けて姿が消えてゆく。
「君と後ろのリザードマンも急いでね。 一応時間で消えちゃうからさ」
キャス様に言われるまま僕も中へ入っていった。
次話更新は明日です。




