出立
ディルムッドが一緒について行こうとしてくる。
それを……
「ダメだ」
即答でギルガメシュさんが却下してきた。
「マイセンに言われるならまだしも、お前に言われる道理はないはずだ」
「守りが手薄になって仮にここが陥落でもしてみろ、貴様の妻の墓が荒らされてもいいのか? それと俺様とここまで関わった奴は失いたくはない」
死ぬつもりなんだろう? とギルガメシュさんが付け加えてくる。
図星だったのかディルムッドが答えないでいると、ギルガメシュさんが僕を見てくる。
ギルガメシュさんは僕に行くなと言わせたいんだろう。
「ディルムッド……悪いけど残って欲しい。 残ってカルラのお墓と……カルラが可愛がってくれた兄弟たちを守って欲しいんだ」
ディルムッドは唸りながら決めかねている。
「それと……僕が帰ってくる場所も」
はぁぁぁっと長い溜息をついてから諦めたように了承してくれた。
「なら約束してもらうぞ? 俺は何が何でもここを死守してみせる。 だから、必ず帰ってくると」
頷いて返す。
「わかっているのか? 相手は元とはいえ神なのだろう? その力を併せ持ったバケモノ女王となると、あのバケモノの神と戦うようなものだ」
「でしょうね。 でもその原因を作ったのは知らなかったとはいえ僕なんです。 それに……アンデッドじゃなければ、『気』さえ読めれば、僕の居合斬りは神様の『気』だって絶ってみせる!」
「それてばどっかで聞いた事あるようなセリフにゃりな」
そ、そうなの!?
「お主が独り身でないのが本当に残念だ」
「俺ならフリーだぞ?」
僕は気がついていたけど、ネズミ獣人が急に現れてスカサハさんにアピールしだした。
「お主のポークビッツに用は無い!」
「ポ、ポークビッツ! うふぁぁぁぁ! い、いいっ!」
「喜ぶな! 気持ちの悪い声を上げるな!」
あれはあれでお似合いなのかな?
「それじゃあ行きますね」
「ちょっと待て小僧」
スカサハさんと戯れていると思ったネズミ獣人に呼び止められて、僕に向かって手が伸びてくる『気』を感じて思わず身構えると、ネズミ獣人も気づいて両手を上げて傷つけるつもりじゃないアピールしてみせてくる。
「こいつを持ってけ」
僕が警戒した事でネズミ獣人は手に持ったものを僕に投げてくる。
放り投げてきた物を受け取って見てみると小さな小袋だった。
「危なくなったらそいつを叩き潰せ。 匂いが出ているしばらくの間はあいつらが近寄らなくなる……らしい」
「えっ!?」
ネズミ獣人が試してないから保証はしないけどな、と目を細めながら笑ってみせてくる。
「試してもいないものを渡すのかお主は!」
スカサハさんが間髪入れずにネズミ獣人にツッコミを入れていて、ネズミ獣人も使いどころかなかったんだと言い訳をしている。
「誰に貰ったもなのだコレは」
「一応デスの幹部様からだ」
さすがにそうなると怪しさも増す。 もしかしたら口封じのための自決用かもしれない。
だいたいいくらなんでもデスの幹部が部下にこんな物を渡すんだろうか?
「ちょと貸してみるにゃり」
猫ちゃんが僕から盗むように取ると、小袋を開いて中を覗き込みはじめて匂いを嗅ぎ出した直後だ。
「くっさ! すっごくくっさいにゃり! こんなの叩き潰したらきっとしばらく匂いが取れないにゃりよ!」
慌てて袋の口を閉じて投げ返してきた。
どれどれ……
僕も袋の口を開けて匂いを嗅いだけどよくわからなかった。
「まぁ使う機会がない事を祈ってるぜ」
それじゃあと1人づつ握手をしてから大統領府に戻る。
大統領府に戻るとどこから話を聞いたのか、ヴェルさん、ウルドさん、スクルドさんが待ち構えていた。
「マイセン君……」
ヴェルさんが代表して包みを顔を赤くしながら渡してくる。
「前に役に立ったみたいだから……その、また……ね?」
「それを持って絶対に生きて帰ってこい少年!」
「今回はぁ、成功報酬としてそれは返さなくてもいいですよぉ?」
「あ、あはは……ありがとうございます」
感謝しながら前回同様シャツの中にしまいこんだ。
「それじゃあ行ってきますね」
3女神と呼ばれたギルド職員であって、僕にとって姉のような存在に頭を下げてからキャビン魔道王国の使者が待つ場所に向かっていくと、ヴェルさんがホールで待ってると教えられる。
「準備は済んだかね?」
「はい。 それでどうやってキャビン魔道王国に行くんですか?」
「少し待ってくれまえ」
使者の人はなにやら魔法を使って会話をしはじめだす。
「はい、はい、パイプがないんですか? ならどこに行けば……はい、なっ!? 冒険者ギルド前ですか! ……わかりました。 なんとか向かいます」
なんかあったのかな? 冒険者ギルド前に何かある?
「……大統領、申し訳ありませんが少しばかり手を貸していただきたい事がありまして」
どうやら僕をキャビン魔道王国に連れて行くためには冒険者ギルド前までいかなくちゃいけないらしい。 そこで冒険者ギルド前までの護衛を大統領に頼んでいるようだった。
「えっと、護衛は別に必要ないと思いますけど……」
「なにを言っているんだ君は! あのバケモノがうようよしているんだぞ? わかってるのか!」
「まぁなんとかなると思います」
口を半開きにさせて使者の人が僕を見てくる。
「それでいつ向かいますか?」
「う、あ、ああ……できれば今すぐにでも」
「わかりました。 じゃあ行きましょうか?」
大統領とシスターテレサに別れを告げて、僕はゲッコとガーゴ、それと使者の人とで大統領府を出る。
あれから町へは物資調達部隊や要救助者がいないか捜索もされていて、現在町にはあまりゼノモーフの姿は見かけないと聞いてあった。
次話更新は明日を予定しています。




