出立準備
キャビン魔道王国の使者が僕の名前を言った。
「『気斬りのマイセン』殿の所在などわかりましたらお教え願いたい」
大統領とシスターテレサが互いに顔を見合わせて微妙な表情を浮かべてくる。
それを見たキャビン魔道王国の使者は、何か勘違いしたようだった。
「もしや……亡くなられ……」
そこまで口にしたところで、大統領とシスターテレサ2人揃って指をさしてくる。
キャビン魔道王国の使者の人がその指をさした方を見ると、当然僕がいる。
「えっと……僕がマイセンです」
「なっ!? いや、我らが探しているのは『気斬りのマイセン』で……」
「その『気斬りのマイセン』がその子だよ」
キャビン魔道王国の使者の人は口を半開きにさせながら、苦笑いを浮かべる僕を見つめてくる。
「こ、こんな年端もいかない子供が『気斬りのマイセン』だとは……」
未だ使者の人は自分の目を疑うように僕のことを見ながらちょっと失礼だと思うようなことをつぶやく。
……一応成人しているし結婚だってしているんだけどなぁ。
少しの間固まってしまった使者が我に返って、もし僕が本当に『気斬りのマイセン』ならば一緒にキャビン魔道王国まで来てほしいと頭を下げてきた。
最南西に位置するホープ合衆国からほぼ最北東部に位置するキャビン魔道王国まで馬に乗ってどれだけかかるかわかったものじゃない。 加えて今のこの状況であればそれ以上に日数はかさむはずだし、場合によってはゼノモーフの集団に囲まれかねない。
それと僕にはハイと言えない理由があって、1つはここの防衛から抜けてもいいのかというのと、2つめにゲッコとガーゴを置いてはいけないこと。 そして最後に戻ると約束したアラスカの帰りを待っている。
「申し訳ないんですが、僕はここを離れるわけにはいかないんです」
「何故だ!? 納得するだけの理由を聞かせてもらわなければ私も使者として使命を負っている以上簡単には引き下がるわけにはいかない!」
というわけで僕は3つの理由を説明すると、1つ目は大統領がなんとか守りきってみせると、そしてシスターテレサが世界を救って憧れだった英雄になってくるように言ってくる。
そして2つ目のゲッコとガーゴについては、キャビン魔道王国の使者が主従関係であれば、使い魔扱いで許容できると言われた。
最後に3つ目、アラスカの帰りを待つことについて……
「アラスカ殿はすでにキャビン魔道王国に来ていただいている」
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!?」
なんで? どうして? 僕は後回し? アラスカってば酷いよ。
キャビン魔道王国に行けばアラスカと再会できるけど腑に落ちないでいる間に、キャビン魔道王国の使者と大統領が話をどんどん進めていて、シスターテレサが僕の両肩に手を乗せてきた。
「きっと、アラスカ殿はお前さんと手っ取り早く会える方法を選んだんだよ」
そういってウインクして見せてくる。
でもそこでふと思い出したことがあって、キャビン魔道王国の使者にアラスカが、7つ星の騎士たちは騎士魔法が使えなくなってはいないかを確認してみると、プリュンダラーが言った通り神聖魔法同様使えなくなっているという。
ならなぜ騎士魔法が使えないアラスカが呼ばれたのか? それは7つ星の剣の所有者だからだそうだ。
7つ星の剣の所有者は神の助力が得られなくてもそれを凌駕する能力を7つ星の剣が発揮するのだそうだ。 加えて騎士魔法を使わなくてもアラスカは英雄といっていいクラスの戦士でもあったかららしい。
そこで疑問に思ったのは、神の力と言われる騎士魔法を凌駕する力を持つ7つ星の剣とは一体なんなんだろうかだった。
まさか神が神を超える武器なんか作るんだろうか? それとも……
「では来てもらえるということでいいのかな?」
キャビン魔道王国の使者に声をかけられて我に返ったはいいものの、じゃあ行きますで簡単に行ける距離じゃない。
あと……このキャビン魔道王国の使者は僕の事を子供としか見てないように見えた。
「それじゃあ急いで準備してきます」
「そうしてくれたまえ。 ことは急を要するのでな」
大統領とシスターテレサに会釈してから部屋を出て、ゲッコとガーゴがいる孤児院の方に秘密の通路を抜けて行く。
孤児院の方に出てゲッコとガーゴを探すと、兄弟たちの相手をしている2匹を目にする。
ゲッコとガーゴが孤児院の方にいることが多いのは、なぜか兄弟たちが2匹を気に入っていたからだった。
僕の姿をみると2匹は兄弟たちの相手をやめて僕の元に来る。
「ゲッコ、ガーゴ、これから僕は遠い場所に行かないとならないんだ……君たちはここに残って兄弟たちを守ってくれないかな?」
兄弟たちと一緒になって戯れるゲッコとガーゴの姿を見て、僕は連れて行くつもりだったけど考えが変わった。
2匹はもう十分なぐらいここに馴染んでいて、みんなからも信頼されているようだったからだ。
現に今、兄弟たちといるのはゲッコとガーゴだけで、他に見ている人たちはいない。
ゲッコとガーゴは互いに顔を見合わせたあと首を横に振ってくる。
「大丈夫、できるだけすぐにアラスカと一緒に帰ってくるから、ね?」
それでも首を横に振ってついてくるつもりのようだった。
「なにやら随分と深妙な話をしているように思えるな?」
スカサハさんが猫ちゃんと姿を見せる。
どうやら猫ちゃんが今の会話を聞き取ってスカサハさんを連れてきたみたいだ。
なのでキャビン魔道王国から使者が来て、言われた事を話していると……
「っは! 貴様は呼ばれ、俺様は呼ばれなかったか! どうやら俺様も低く見られたものだ!」
「ギ、ギルガメシュさん! たぶんこれから呼ばれるんじゃ……」
「安心しろ冗談だ。 それよりその話が本当なら、俺様の故郷であるメビウス連邦共和国は壊滅的打撃を受けたわけだな?」
「そうみたいです……」
「ふむ……」
そこで一度考え込むそぶりを見せてから、僕にここは任せて行ってこいって言われる。
「ゲッコとガーゴはお主について行くそうだ」
魔法を使って確認したスカサハさんに言われて、もう一度だけ今度は死ぬかもしれないと告げて、それでも来るのかを確認すると2匹は迷う事なく頷いてきた。
「俺も一緒に行かせてもらうぞ、マイセン」
次話更新は明日の予定です。




