大統領からの依頼
戻ってきたディルムッドの目には薄っすら涙が浮かんでいるけれど、先ほどまでの覇気のなさと比べれば幾分かマシになっているように見える。
猫ちゃんがディルムッドに一体何を言ったのか気になるけど詮索するのはやめておいた。
「済まなかった……俺たちがいない間にチェシャにカルラから聞いていた言葉があって聞かされた……もう、大丈夫だ。 それはそうとギルガメシュたちの帰りが遅すぎないか?」
「そうだった! なんかみんな誤魔化すような態度なんだけど……」
そこでチラッと猫ちゃんを見ると、ギクゥっとした態度を見せてくる。
「そ、それじゃあ猫は行くにゃりよ」
「猫ちゃん、もし何か知っているのなら教えてよ……スカサハさんだって向かったんでしょ?」
「………………はぁ〜、猫は口が固いから絶対に言わないにゃりよ! だからこれから言うのは猫の独り言にゃり」
猫が口が固いのかはわからないけど、猫ちゃんは自分が言ったんじゃないからねとアピールしてから話してくれる。
町へ向かった人たちは冒険者ギルドにたどり着くかどうかのところで、ゼノモーフの群れと遭遇してしまったらしい。
そこで応戦せざるをえなくなったギルガメシュさんは、次元扉が使えるスカサハさんに命じて孤児院に報告に単身向かわせたのだそうだ。
数があまりに多いため孤児院にゼノモーフまで連れて引き返すわけにはいかないため、どこか避難できる場所でなんとか凌いでみせると。
その報告後スカサハさんは留まらないですぐに戻ってしまったらしい。
という事は今頃ギルガメシュさんたちは……
「ギルガメシュを信じろ。 もしもお前まで飛び出したら一体誰がここを守るんだ?」
そんな……そんな事って……
でもディルムッドの言う通り、今ここには大統領が来た時に一緒に来た兵士が30人ほどと僕らだけしかいない。 もしゼノモーフが来たらこの人数でで守らなくてはならない。
いや……それよりもおかしいじゃないか?
ディアさん……ゼノモーフの女王は増えすぎないようにゼノモーフを管理しているはずじゃなかったのか?
「プリュンダラー、女王はゼノモーフが生命を全滅させないように管理してると言ったあれは嘘だったのか?」
檻の中で僕らには全く興味なく横になっていたプリュンダラーに尋ねる。
「ん、ああ嘘じゃないさ、お前らに話した情報は全部本当だ」
「だったら! なんでまた町に群れが現れるんだ!?」
「たまたま残りが集まっていただけだろうよ!」
確かにその可能性も無いとは言い切れないけど、何故か妙な胸騒ぎがしていた。
孤児院にまばらに近づいていたゼノモーフを殲滅し終えたのか、シスターテレサが僕を呼びだしていると兵士が伝えに来て向かう。
ディルムッドは呼ばれずにそのまま檻の見張りで残った。
兵士の後をついていくと大統領とシスターテレサの2人が待っていて、僕が連れられてくると兵士は下がって3人だけになる。
「あの……何か用でしょうか?」
するとシスターテレサではなく、大統領自らが僕に話しかけてくる。
「実は折り入って君に頼みたいことがあるんだ……」
その頼みの内容とは僕単騎による町に向かったギルガメシュさんたちの安否調査で、僕なら7つ星の騎士のように気配でゼノモーフを感知できるからという理由かららしい。
もちろん危険だから受けるか受けないかは僕の判断に任せるって言ってきた。
これを断る理由なんてないじゃないか。 ギルガメシュさんたちもそうだけど、オーデンさんたちだって心配だ。
「もちろんお引き受けいたします!」
僕の答えに大統領はありがとうと言ってくれて、シスターテレサは諦めに似たため息をついている。
「シスターテレサは反対だったんですか?」
「誰が好き好んで大事な我が子を死地に行かせたいと思うんだい」
「「ごめんなさい」」
何故かここで僕と大統領が同時にシスターテレサに謝る。
不思議に思って大統領を見ると、大統領ももともと孤児でシスターテレサに育てられた1人だったんだそうだ。
そういうことか、どうりで……
「まぁ現実的に考えたらここにいる兵士たちだけじゃいつまで守れるかわからないからね。 だけどマイセン、絶対に無理をするんじゃないよ! お前さんはまだ16歳なんだからね」
「わかりました。 最悪はぶっ倒れる覚悟で逃げてきます」
そういうとシスターテレサが顔をしかめながら、僕にあの時何をしたのか聞いてくる。
なので限界領域の事を詳しく話すことにした。
「そりゃあ身体も心も悲鳴をあげるわけだよ」
常軌を逸した速度は僕の心や脳、身体の限界を超えているから使うとぶっ倒れるのも当たり前なのらしい。
そして限界領域を長時間使ったら間違いなく僕は死ぬだろうとまで言われる。
「あまり無理して奥さんを泣かせるようなことだけはするんじゃないよ」
「……わかってます。 それより町へはいつ向かいますか?」
「もうすぐ日が暮れるから明日、と言いたいところなんだがそう悠長なことを言っている場合じゃないと思う。 済まないが今すぐにでも頼みたい」
「わかりました、それでは今から向かいます。 ゲッコとガーゴはシスターテレサのいうことを聞くように言っておくので宜しくお願いします」
そう言って頭を下げて部屋を飛び出して、孤児院を出たところでゲッコとガーゴを呼び出す。 2匹にシスターテレサのいうことを聞くように言って、僕は外壁の門を抜けて町へと向かう。
夕暮れまで時間はまだ十分にある。 平時であれば十分に往復できるはずの時間だった。
遅くなりました。 次話更新はこの後日が変わったら更新する予定です。




