不安に駆られて
「う……ん……」
手に何か温かい感触を感じる。
「あんっ! マイセン君ってばぁ〜」
その声にバチッと目が覚めると目の前にはスクルドさんが横たわっていて、僕の手がスクルドさんの胸に触れていた。
「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ご、ごごご、ごめんなさい! これは寝ぼけていて……」
「酷いですぅ……昨日はあんなに激しかったのに……」
「コラッ! 目を話した隙に何してるのよ! マイセン君は昨日倒れたばかりなんだからちゃんと寝かせてあげなきゃダメじゃない!」
顔を移すとヴェルさんが食事を持って怒鳴っていた。
「えっと……じゃあ、昨日というのは……?」
「昨日も何もマイセン君が寝てから半日も経ってないわよ」
よかった……いや、スクルドさんが嫌いというわけじゃないんだけど、むしろ可愛いと思う。 だけど僕にはアラスカというお嫁さんがいるんだ!
「……っ! うひゃあ!」
「元気になったみたいで良かったですぅ」
「ちょ! どこ触ってんですか!!」
「スクルドォォ……あなたいい加減にしなさ——————いっ!」
スクルドさんが僕に小さく「てへっ怒られちゃいました」って笑顔を見せながら離れる。
ヴェルさんが僕に食事を手渡してきて、またスクルドさんを叱っているのを眺めながら食事をするという、なんとも味わって食べれるような雰囲気じゃないなか済ませていく。
「そういえばギルガメシュさんたちはまだ戻らないんですか?」
水を飲んで一息ついてから尋ねると、ヴェルさんが叱るのをやめて「まだお昼ぐらいだからね」っと少し焦りを感じられる言い方をしてきた。
「ここを出てどれぐらい経つんですか?」
「きっともう直ぐ戻ってくるわよ」
なんだか誤魔化しているように見える。 なのでもう一度どれぐらい経つのか聞いてみる。
ヴェルさんはしぶしぶといった表情でどれぐらい経っているか教えてくれた。
かれこれ6時間って……ここから冒険者ギルドまで1時間もかからないで行ける場所じゃないか。
往復で2時間として、救助に時間がかかったとしてもとっくに戻ってもおかしくない。
そこでふとギルガメシュさんたちが大統領府からここまで来る間の被害状況を全く聞いていなかった事を思い出した。
「助けに行かなくちゃ……」
ベッドから降りながらそう言うとヴェルさんが止めてくる。
「大丈夫よ、きっと他にも生きている人がいたりしただけで、ちょっと手間取ってるだけよ」
「そ、そうそう、そうですよぉ〜、マイセン君は心配しすぎなんです」
この2人の様子はどう見たって怪しいじゃないか?
とりあえず起きた僕は鎧と刀を身につけて部屋を出て行く。
止められはしなかったけど、気まずそうな顔を見せていた。
孤児院の外に出ると慌ただしく、シスターテレサの指示で外壁の外に現れるゼノモーフを撃退しているようだった。
「シスターテレサ!」
「起きたのかい、兵が出張っていてちょっとばかし忙しくてね。 用があるのなら後にしてくれるかい」
そう言うとあっちだこっちだと多くはなさそうなものの、忙しなくゼノモーフの撃退の指揮をとっていた。
僕も外壁の方へ行こうとしたところでカルラが愛用していたゼノモーフの槍を抱えたディルムッドの姿が見えてそちらに向かう。
ディルムッドはすっかり気迫の抜けきった様子で、ガイモンとプリュンダラーが入れられている檻の前にいた。
「ディルムッド……」
「マイセン、か……」
声をかけたのはいいもののなんて言ったらいいかわからないでいると、ディルムッドの方から僕に話しかけてきた。
「地下世界の仲間と旅をしていた時は死に場所を求めていたというのにな……」
そう言って取り出した仲間のものと思われるドッグタグを取り出して見つめている。
「正直自分自身でも驚きだったよ、まさか俺に人を愛する気持ちなんかが芽生えるなんて思わなかったからな……」
チラッとプリュンダラーに目をやると顔を背けてくる。
「ディルムッド……」
片手を上げて大丈夫だとアピールはしてくるものの、全くと言っていいほど覇気が感じられない。
「……なぁマイセン、俺はこれからどうしたらいいんだろうな。 何もする気が起こらない、なら一層の事この命を絶ってしまおうかなんて事まで考えてしまう」
「そんな! ……そんな事をしたってカルラは絶対に喜ばないよ!」
そうだよな、とディルムッドはつぶやきながら槍を見つめている。
その後もかけてあげる言葉も見つからないで、ただディルムッドの話を聞いていると猫ちゃんが近寄ってきた。
「ディルムッドさん……ちょとだけお話ししてもいいにゃりか?」
僕がガイモンとプリュンダラーの見張りについて、ディルムッドと猫ちゃんはその場を離れていった。
檻の中の2人を見るとおとなしくしていて、これといって逃げ出そうとかする素振りは見せていない。
「おい、俺をここから出してくれたら7つ星の騎士団領まで案内してやるぞ?」
「断る。 お前は信用できない」
「そうかいそうかい、じゃあ1ついい事を教えてやるよ。 人種の神々の恩恵を受けられなくなったのは何も神官だけじゃない。 神の力とも言われる騎士魔法だって同じようなことだ。 今頃7つ星の騎士たちは、アラスカは騎士魔法が使えなくてどうなっているだろうな?」
一瞬だけそれを聞いて焦る。
だけど直ぐにプリュンダラーは騎士魔法を使っていた事を思い出して嘘だと思ったのだけど……
「俺が騎士魔法を使えたから信じていないんだな? 確かに俺は騎士魔法が今も使える。 それは【闇の神ラハス】様が力添えをしてくれているからだぞ?」
7つ星の騎士は特に誰という信仰する神はいないはずだ。 そしてここにはプリュンダラー以外7つ星の騎士はいないからその証明もできない。
「もうことは起こっちゃったけど、アラスカは7つ星の騎士団領にこの事を報告に行く予定だったんだ。 今頃こっちに向かっているからお前の嘘なんかすぐにわかるぞ!」
「そうかいそうかい、ならば好きにしたらいいさ、それなら俺はここでノンビリ過ごさせて貰うだけだからな」
プリュンダラーのその妙なまでの落ち着きように不安に駆られていると、猫ちゃんとディルムッドが戻ってきた。
次話更新は明日の予定です。




