前世の力?
新章、ダンジョンパートに入ります。
その日はいつもよりも朝早く起きると、まだ薄暗い町に出て道具やらを扱うお店へと向かった。
そこで残ったお金で携帯食を買って、今度は武器屋へ回って予備の武器となるダガーも購入しておいた。
……これでよし。
その足で麓まで向かい、まだほとんど誰もいない霊峰の中へ1人入っていく。
いきなりダンジョンに行くのはさすがに避けて、入り口からそう離れない場所を適当にうろつく。
町で聞いた噂では、この霊峰竜角山は魔物が生態系をある程度無視して生存しているらしい。
その為、真新しい発見はなくても捜索すれば、わざわざ危険なダンジョンに行かなくても多少は旨味があるって聞いている。
1人きりなのと、地形なんかがわからない僕は無理しない程度に移動して慣れていくことにした。
だいぶ奥の方まで来たと思う頃、僕のいる先の方から気配を感じる。 そっと覗くとゴブリンが2体いるのが確認できる。
ゴブリン2体なら僕でもなんとかなるかな?
剣をそっと抜いて、ゴブリンに向かって駆け出した。
僕に気がついたゴブリンも、1人と見ると粗末な武器を構えて襲いかかってくる。
1体に剣を大きく振って牽制して、もう1体のゴブリンの攻撃してくるイメージ……気配を感じて躱した。
自分の思った通りに身体が動いてくれて、攻撃してきたゴブリンに剣を突き立てると、悲鳴をあげて呆気なく倒してしまう。 もう1体に向き直ると、仲間が殺されたのを見て一目散に逃げだしはじめた。
このまま逃して仲間でも呼ばれたらマズイと思い、僕は急いでゴブリンの後を追いかけることに。
思った以上に足が早くて驚いたけど、追いつくと思ったその瞬間、突然現れた巨大蜘蛛の8本の長い脚に捕らえられて、ゴブリンは牙を突き立てられると、悲鳴をあげてすぐに息絶えたのか動かなくなった。
完全にゴブリンの動きが止まると、ゴブリンを放置して今度は僕に向きを変えてくる。
人ほどの大きさがある蜘蛛が、巣を持たずに獲物を求めて移動しながら狩りをする。 それは数種類いる巨大蜘蛛の中でも特に攻撃的と言われている、異様に脚が長いハンティングスパイダーと言われている種類だ。
すぐに剣を構えて攻撃に備える。 ハンティングスパイダーの動きは非常に早くて手強い。 ……もっともこれは冒険者ギルドの資料室で魔物について書かれた本に全部載っていたことだけど。
8本の長い脚に捕まるか、巨大な牙に噛みつかれたら僕は死ぬ。
ゴブリンよりも遥かに手強い相手だ。
意識を集中して蜘蛛の気配を感じとる。 蜘蛛が僕に飛びかかってくる気配を感じとって、素早く身をかわして剣を振るうけど躱されてしまう。
もっと集中してバグベアと戦った時を思い出しながら、走り寄ってくるハンティングスパイダーに弧を描くように思いきり剣を振った。
「ハッ!」
剣は僅かに蜘蛛には届かなかったように見える。 にもかかわらず、蜘蛛の足が数本切断された。
今のは……オーガとの戦いの時にも同じようなことが……
数本足を失ってもハンティングスパイダーは怯むことなく身構えて、また飛びかかろうとしている。
ひとまず今は倒すことだけに集中しなきゃ……
「ハァッ!」
思いきり剣に気合を乗せて飛びかかってきた蜘蛛に剣を振ると、また先ほどのように剣が僅かに届いていないにもかかわらず、蜘蛛を綺麗に真っ二つに斬り裂いた。
真っ二つになった後もピクピク動いていた蜘蛛が完全に動かなくなったのを確認してやっと一息つけて、改めて自身の剣を見てみたけど、最初に仕留めたゴブリンの血糊がついているだけで、蜘蛛の体液は一切ついていなかった。
さすがについ数日前から剣を握るようになった素人の僕でも、これがおかしいことぐらいわかる。
これ全てがもしかしたら前世の僕だった人の能力なのかな?
ただ僕自身まだよくわからないし、そもそもこんな剣が当たらなくても斬るなんて剣技は見たことも聞いたこともない。 わかったのは相手の気配で、直前にどう動いてくるのかがわかる事ぐらいだった。
僕の知りうる限りでは、そんな芸当ができるのは7つ星の騎士団が扱える騎士魔法ぐらいだけど、そんなの使った覚えもないしそもそも習ってもいないのに使えるはずがない。
いくら考えても答えは出てくることもないから、あとでアレスさんに聞いてみることにして、とりあえず蜘蛛の死体を見るけど、漁って得られそうなものは無さそうだし、気持ち悪いから放っておくことにした。
よくわからないけど、この力があれば、もっと理解できれば僕はもっと強くなれる。
そう思うと嬉しくなってきた。
それからしばらくの間、僕は嬉しさで戦い続けて気がついた時は全く場所がわからないところまで来ていた……いわゆる迷子だった。
ど、どうしよう……
次話更新は明日です。 時間は朝か夜になると思います。




