怒りと悲しみ
「プリュンダラー、お前がもし生き延びたいのなら、僕ではなくディルムッドを説得するんだな」
「俺が死んだら女王の居場所はわからなくなるぞ! それでもいいのか?」
ディアさんをゼノモーフと融合させたのは僕の責任だ。 だから本当はプリュンダラーに居場所を聞いて僕自身でケリをつけたい。
だけどもしカルラがアラスカだったら、果たして僕はディルムッドに止められて抑える事なんてできるだろうか?
そう考えると僕にはディルムッドを止める事なんてできなかった。
僕が何も言わないとわかると、今度はプリュンダラーはディルムッドに慈悲をこいだしはじめる。
「ディルムッド! お、おお、俺が悪かった! 女王の居場所も言う! だから許して、ぐわぁぁぁぁ! 痛い! 痛い! やめてくれぇぇぇ!」
ディルムッドは無表情のままプリュンダラーの片腕をカルラの愛用していたゼノモーフの槍で刺した。
引き抜いてもう一方の腕も貫こうとすると、プリュンダラーは手を突き出して防壁で防ぎながらなぜか僕に助けを求めてくる。
「コイツを止めてくれ! 女王の居場所を知りたくはないのか!」
それでも僕が動こうとしないでいると、プリュンダラーは必死の形相でシスターテレサやスカサハさん、誰彼構わず知りたそうな情報を口にして止めさせようとする。
それでも誰もディルムッドを止めない。 止めるなんてできない、そう思っていた……
「ディルムッドさんもうやめるにゃりよ! そいつをぶ殺してもカルラさんは生き返らないにゃり!」
猫ちゃんがディルムッドの腕を掴んで泣きながら引き止めると、槍を突く動きが止まって猫ちゃんを見つめる。
「ならば俺のこのやり場のない怒りや悲しみはどうしたらいいんだ!」
「猫だからどうしたらいいかわからないけど、きっとししょーがなんとかしてくれるにゃりよ!」
「なっ!?」
僕のそばにいたスカサハさんが猫ちゃんのとばっちりを受けて珍しくあたふたと取り乱して「私にどうしろと言うんだあのバカ弟子は!」って呟いている。
猫ちゃんからスカサハさんに目を移してきて、スカサハさんの焦りようは見てわかるほどピークに達しているようだ。
「なっ! わ、私か!? ……くっ……」
目を白黒させながら、僕の目から見ても返答に行き詰まっていた。
「ディルムッドや。 辛いのはわかるし悲しいのもわかるよ……でもね、ありきたりな言い方だけど、そいつを殺したらカルラは喜ぶのかね?」
「……カルラは関係ない。 愛する者の仇が目の前にいて我慢しろと言う方が酷だと思うが?」
「なら殺せばいいよ。 それでお前さんの気が晴れるんならね」
それを聞いて焦るのはプリュンダラーだ。
シスターテレサが指示を出すと、素早く兵士2人がプリュンダラーの両肩を掴んで固定してくる。
「さぁおやり! ただ今一度周りをよく見て冷静になって考えて、それでも殺すしかないと判断したのなら止やしないよ!」
もはや両腕を抑えられては防壁も使えないプリュンダラーは諦めにも似た表情でディルムッドを見ている。
そんなプリュンダラーに対してディルムッドはその場にいる人たちの顔を1人づつ見て、なお槍を振り上げた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
バキィィィっとプリュンダラーの顔を思い切り殴り飛ばして、ディルムッドは無言のままその場を離れていってしまった。
口から血を吹き出させながらも、プリュンダラーは助かったとばかりにヘラヘラしだしているのだけど……
「喜ぶはまだ早いよ。 さっき命惜しさに口にした事、全部吐いてもらうからね」
シスターテレサが冷たく言い放った。
そんなやりとりをプリュンダラーと一緒に捕まっていたガイモンは、まるで赤の他人を見つめるような目で見ていたようだけど、突然両腕を抑えられる。
「お前さんには今から証人になってもらうからね。 もしもプリュンダラーが嘘を言ったら教えるんだよ。 素直に従えるなら悪いようにはしないさ」
「そう言われて素直に聞くとでも思っているのか?」
「聞く聞かないはお前さんの自由さ。 だけどね、いう事が聞けないのなら残念だけどここから出て行ってもらうしかないねぇ。 おや? 外壁の外からあいつらの声が聞こえるようだ……」
ここまでのやりとりを見ていて、僕はシスターテレサがメチャクチャ怖いと思ったのは言うまでもない。
そしてシスターテレサによる尋問が始まるのだった。
次話更新は明日の予定です。




