神々からの解放
外壁の上にはまたカルラと猫ちゃんが引っ張り出されていて、そのせいで中に入れないでいる。
というのはもちろんギルガメシュさんの演技だ。
そしてこちらではガイモンからまたも衝撃の事実が突きつけられる。
「神々の助力を必要とする神官が神聖魔法を使えないということは、今頃創造神が捕らわれ封じられたということだろう。 となると神界を追われた神々全員は逃げまわって助力どころではないだろうよ」
どうやら今回のゼノモーフの一件で、爆発的に死んだ人種の影響で信仰が減り神々の力が弱まったようで、その隙をついて創造神を囚われの身にしたようだ。
もちろんそれはニークアヴォ……ではなく、【闇の神ラハス】だった。
それは最古の3神と言われる【自然均衡の神スネイヴィルス】【死の神ルクリム】【闇の神ラハス】の3神で、人種の神々の中でも別格に位置する。 その3神のうちの1神が裏切ったようだった。
「今頃力を失った神々は必死に己のテリトリーに籠って怯えていることだろう」
「何てことだい……裏で全ての糸を引いていたのはニークアヴォじゃなく、【闇の神ラハス】だったと言うわけかい。 しかし随分と素直に話してくれるもんだね」
「我ら悲願は達成したからな」
「こんなことをしでかして何の悲願だって言うんだい!」
「知れたこと……神という存在からの解放だ」
チャキっと隠し持っていたダガーを取り出すとゆっくりとシスターテレサに近寄りだす。
「まぁ今のだけで十分聞けたかねぇ。 ディルムッド、やっちまっていいよ」
言うが早いかディルムッドが飛び出してきてガイモンに槍で突いていく。
必殺とも言えるディルムッドの2本の槍の攻撃をガイモンには回避する術もなく貫かれ……
ブレたような動きでガイモンは躱した。
「やはり暗殺者か、どれだけやれるか見せてもらうとするぞ」
「貴様ごときについてこれるものならついてきてみるがいい!」
僕はディルムッドに言われた通り戦いには加わらず、今も潜んだまま2人の戦いを見ている。
2人が激しく戦い始めて、僕にはその2人の姿を目で追うのがやっとだった。 『気』で何をするかはわかるけど、きっと身体がついていけないと思う。
まぁ限界領域を使えば問題ないだろうけど……
おそらくガイモンはあのハサンと同等の実力はあるように見える。 そのガイモンと対等に戦うディルムッドは、やっぱり一流の戦士だと思えた。
そしてディルムッドが2本の槍に加えて2本の剣までをも駆使して戦い出すと、徐々にガイモンが押され出しはじめて勝負ありかと思えた瞬間、割って入ってきた人物がいた。
その人物に僕とディルムッド、それとカルラは見覚えがある。 それは紛れもなくプリュンダラーで、先ほどまで外壁の上でガイモンの隣にいた兵士だ。
「こんな奴相手に何を手こずっている愚か者が!」
「も、申し訳ありませんプリュンダラー様」
そこでハッと外壁の上に目をやると、倒れているカルラと猫ちゃんの姿が見える。
まさか……
「カルラ! 猫ちゃん!」
いてもたってもいられず、潜んでいたのも忘れて飛び出して叫んでしまった。
「貴様も生きていたのか! マイセン!!」
プリュンダラーを無視してカルラと猫ちゃんのところへ行こうとすると、プリュンダラーが立ち塞がり剣が振るわれ咄嗟に避けてその一撃を躱す。
「プリュンダラー! カルラと猫ちゃんに何をした!」
「何って用無しには死んでもらっただけだが?」
「ウオォォォォォォォォ! カルラ! カルラよ! 目を覚ましてくれ!」
雄叫びが聞こえて声の方に目を移すと、ディルムッドがカルラを抱き抱えて叫んでいた。
「プリュンダラー……お前はどこまで堕ちれば気が済むんだ!」
「堕ちる? それは違うな、俺は強く成長したのだ! 貴様を殺し、今度こそアラスカは俺のものにしてやる。 ああそうだ、俺とアラスカが最初に愛し合う場所は貴様の亡骸の前にしてやろう」
そう言って切り落とされたはずの腕を見せてきて、その腕はすっかり治っていた。
「1人は戦意喪失、そんな中2人を相手に勝てるつもりか? おい! あっちが戦意喪失している間にコイツを潰すぞ」
「ハッ、プリュンダラー様」
前後から挟むように2人が僕を囲ってくる。
「ディルムッド! 悪いけどカルラと猫ちゃんの仇は僕が取らせてもらう!
プリュンダラー、ガイモン、お前たちは楽に死ねると思うな!」
「やれるものなら……」
そこまで喋った時には既に僕は限界領域に入っていた。
そしてほぼ動きが止まっている2人の両の足をカルラが愛用していた槍を持ってきて貫く。
そこで一旦、限界領域を解放する。
ブバッと鼻から血が噴き出したけど、短い時間だったためまだまだ意識はしっかりしている。
「やってっ!! なっ! ぐわぁぁぁぁ!」
「あ、足がぁぁぁぁ!」
2人が両足を貫かれた激痛でその場に倒れてもんどり返っている。
そんな2人のうち、カルラと猫ちゃんを殺したプリュンダラーの方へ歩いていくと、必死に這いながら逃げようとしだす。
「許さない……絶対に許さないぞ……」
刀を抜いて振り上げたところでシスターテレサが僕の腕をとって止めてくる。
「なんで止めるんですか!」
「別に私はお前さんがやろうとしていることを止めようとはしていないよ。 ただね、お前さん先に顔でも洗っておいで。 顔がトマトみたいに真っ赤でお前さんの方が悪者みたいだよ」
言われてみて顔を拭ってみると確かに真っ赤な血がべっとりついてくる。
「ゲッコ! ガーゴ!」
僕が呼ぶとすっ飛んで姿を見せてきて、僕の顔を見てたぶん驚いている……んだと思う。
「そこの2人を逃げられないように見張っておいて」
グアグア返事をすると、それぞれ2人の武器を取り上げて見張るのを確認してから言われた通り顔を洗いに向かおうとしたところで僕の意識が遠のいていった…………
次話更新は明日の予定です。 もしかしたら火曜日になるかもしれません。




