逃走劇
開けた場所での戦闘となると囲まれて逃げることもできなくなる。
そのため円陣を組みながらの移動戦闘で、僅かでも大統領府を目指す戦法をとることになった。
「イシスは治療だけをして誰1人死人を出すな!」
「随分と難しい事を簡単に言ってくれるわね」
「槍持ちは全員確実に仕留めていけ!」
ここはほぼ全員が声を揃えて返事を返してくる。
「ディルムッド、貴様は槍持ちの補佐をしろ!」
「任されよう」
「スカサハは魔法はどれだけ使える?」
「すまない……魔法の方はあまり期待しないでほしい」
「なら槍持ちと同じように戦え!」
「心得た」
「マイセン、貴様は己の判断で剣技を使っていけ!」
「わかりました!」
短く全員に命令を出し終えて、大統領府に移動しながら近づくゼノモーフたちをギルガメシュさんが次々と撃ち抜いていく。
「僕ら必要ないんじゃない?」
そう思ったのもつかの間、数匹だったゼノモーフが固まりとなって姿を見せてきた。
「そうでもなさそうだぞ?」
ディルムッドがこんな時だというのに顔をニヤつかせながら僕をからかうように言ってきた。
「いいさ! 塊で来ているなら好都合だ! 喰らえ! 衝撃波!」
ゼノモーフの塊に向かって衝撃波を放つ。
これで大半は倒せるだろう、そう思ったのもつかの間、一斉にゼノモーフたちが分散して回避してきた。
「なんで!?」
「どうやら奴らも成長しているようだな」
明らかにバラけて近づいてくる。
これでは衝撃波も剣圧もあまり役に立たない。
仕方がなく一斉に襲いかかってきたところを狙おうとしたけれど、まばらに間髪入れずに襲いかかってきてそれもできない。
「無理に剣技で倒さなくてもいい、確実に減らせ!」
「はい!」
ギルガメシュさんの指示に従って、『気』で斬ることだけにして、余裕があれば居合斬りで倒していく。
他のみんなも応戦し始めて、ゼノモーフの酸は猫ちゃんが作った盾で受け止めていき、怪我を負ってもイシスさんの神聖魔法で癒されていく。
「見えてきたぞ!」
先頭を進んでいく冒険者から声が聞こえて、全員が助かると希望が見えてきた時だった。
「うわっ!」
「ぐわっ!」
「きゃあ!」
悲鳴が聞こえてくる。
すぐにディルムッドがそのゼノモーフを倒してくれたけど、今ので足が止まってしまう。
「クソッ! コイツら自分の尻尾を切って酸を撒き散らしてきたぞ!」
そんな声が上がる。
向かってくるゼノモーフは更に数を増していて、このままでは全滅しかねない。
2人を急いで治療しようとイシスさんが駆け寄って行くのだけど……
「先に行ってくれ!」
酸を浴びた2人が焼けただれた箇所から煙が上がりながら、イシスさんの治療を拒んでそんな事を口にしだす。
「そんな! ダメだよ!」
「わかった! 貴様らの命は無駄にはしない」
僕とは反対にギルガメシュさんはあっけなく切り捨てて、全員に大統領府に走るように言う。
「奴らの思いを無駄にするな!」
よく見ると2人の身体は骨まで見えている箇所があちこちにあるほど、酸によって怪我を負っていて重傷なのが見て取れる。
「コレを!」
ドッグタグを引きちぎって僕に渡して、行けと言わんばかりに押してくる。
「トップパーティの冒険者たちと肩を並べて戦えたんだ、死んでいった仲間たちに自慢してやるぜ!」
「そうだ! 最後ぐらい徒花を咲かせて見せてやる! 俺は十分生きた、さぁ行ってくれ! 少しでも足掻いて時間は稼いでみせる」
「……ありがとう、ございます」
先を行くギルガメシュさんから急ぐように声がかかる。
もう一度だけ2人を見て頷きあってからギルガメシュさんたちの後を追った。
走りながら後ろから聞こえる怒声とも悲鳴とも取れる声が聞こえて、僕の耳から離れなかった……
大統領府まで辿り着いたのはいいけど息つく間もなく、未だ大統領府を彷徨いていたゼノモーフたちが僕たちに気がついて向かってきて、今来た道からもゼノモーフたちのキシャーキシャーと鳴き声が聞こえて向かってきているのがわかる。
「建物の中に入れ! 戦闘は極力最小に抑えろ!」
大統領たちが住む場所でもあり、この国の中枢でもある建物は通称アイボリーハウスと呼ばれていて、本来であれば厳重な守りで固められた要塞でもある。
そのアイボリーハウスもゼノモーフたちの猛攻を受けてあちこちが破壊されていて、そしてここを守っていたであろう兵士たちの死体もたくさんあった。
「急げマイセン!」
たくさんある死体の中にシスターテレサがいるんじゃないかと思わず足を止めていると、ギルガメシュさんが気がついて僕に叫んでくる。
我に返ってアイボリーハウスの内部に飛び込んだ。
次話更新は水曜日の予定です。




