決意
「プレゼント騒動」最終話
冒険者ギルドを出て、〔ヒヨコ亭〕に向かう。 徐々に看板が近づいてくると、ソティスさんにもプレゼントをした事を思い出した。
ヤバい。 昨日ソティスさんになんて言って渡したっけ? いつものお礼って……言った? 言ってない? どっちだったけぇぇぇ。
「マーイセン、どうしたの?」
「うひゃおう!」
口から心臓が飛び出すかと思った。
ソティスさんが耳にかかった髪の毛をかきあげて、今日もちゃんとつけてるのをアピールをするように、イヤリングを見せながら僕を覗き込んでくる。
—————————終わった。 そんな気がした。
僕は怒られるのを覚悟で、イヤリングはいつもお世話になっているお礼だったことを話すと、最初こそ怒った顔を見せたけどため息をついてくる。
「どうせそんなことだろうと思った」
「え?」
「だって、マイセンって食事しに来る以外来てくれるわけじゃないのに、急にプレゼントだなんておかしいなって思ってた」
「ゴメンなさい……」
「もう良いって。 でもね……私、男の人からプレゼント貰うなんて、父さん以外からは初めてだったから嬉しかったよ」
「え、そんな風に見えなかった。 可愛いからお店に来る人からプレゼントなんてたくさんもらってると思ってました」
ソティスさんが、ボッと音がしそうなぐらい顔を真っ赤にさせる。
「か、か、可愛い……?」
「ええ、ソティスさんは綺麗っていうより可愛い雰囲気の人ですよね!」
僕は頬っぺたに見事な紅葉を作って朝食を済ませることになった。
なんでひっぱたかれたんだろう……
朝食を済ませた僕は霊峰の麓に向かう。 国から告知が出ていたから、僕もどこかのクランに入ろうと思ったからだった。
麓に着くとあちこちでダンジョン組がそれぞれ特徴を挙げてクラン員を募集をしている姿が見れる。
だけどここで僕は厳しい現実を叩きつけられることになる。
どこのクランに行っても、僕が冒険者ギルドの職員と仲が良いというだけで、相手にもしてもらえず入れてくれるところはなかった。
もちろん女性の冒険者が口添えしてくれるところもあったけど、抜けさせるような話をすると黙り込んでしまっていた。
これがアレスさんが言っていた事か……
辺りから笑い声が聞こえて、のけ者にされている自分が惨めに思えた。 このまま逃げて帰りたい衝動に駆られる。
それでももしかしたら、どこか入れてくれるクランがあるかもしれないじゃないか。 諦めないでもう少し頑張ってみよう。
実際、ここに集まっている冒険者の数はそれこそ100や200じゃ効かない。
僕は彷徨きながら入れてくれそうなクランをその後も探し続けた。
結局、日が傾き始めるまで探し続けたけど、入れてくれそうなクランは見つかることはなかった。
徐々に人も減っていく中、わずかに残っているクランらしい集まりも僕を受け入れてくれることはなく、諦めて僕が立ち去ろうとした時だった。
「ゴメンな……本当は入れてやりたかったけど、あいつらを敵にまわすと仲間にも迷惑がかかるんだ……」
そんな声が数人の人から聞こえて、そんな声が聞けただけで僕は十分だった。
冒険者ギルドに戻って、元気のない僕の姿に心配そうな顔したヴェルさんから夕食代を貰って、〔ヒヨコ亭〕で食事を済ます。
〔ヒヨコ亭〕でもソティスさんが心配そうな顔を見せてきたけど、笑顔で必死に返した。
それで下宿先に戻って、下宿にある温泉に入って僕は1人、声を押し殺して泣いた。
温泉を出て部屋に戻った僕は、明日からのことを考える。
クランに入れない以上1人で努力していくしかない。
だったら僕が強くなるしかない! アラスカ様の様に強くなれば、きっとみんなも認めてくれるに違いないんだ。
僕はそう心に決めて眠りについた。
次から新章でダンジョンパートになります。
次話の更新は本日のお昼頃を予定していますが、更新できなかったらゴメンなさい。




