生存者と裏切り
フラつくオーデンさんの元に駆け寄って身体を支える。
顔を見る限り怪我をしているというよりは、疲労しきっているようだった。
「水と食料をギリギリまで抑えながら耐えた甲斐があった」
どうやらわずかにあった蓄えで今日までしのいできてたみたいだ。
覚悟を決めて外に出るか話し合っていたところに僕が来て助かったというところだ。
「でもよく僕だとわかりましたね?」
「その刀の音だ」
そう言えばこの刀を手に入れた時にオーデンさんに見せたっけ。
それで中にどれだけいるのか聞くと50人程いて、冒険者よりも一般人の方が圧倒的に多いらしい。
救援が来たと思ったのかモソモソと近づいてくる人もいて、僕の姿を見て助かったなんて大声をあげはじめる。
「まだあいつらは町にいるんです! 静かにしていてください!」
声を抑えながら言うも奥の方まで声は届かないで、喜ぶ声はどんどん大きくなるばかりか、中には喜びのあまり歌まで歌いだす人まで出てくる。
「ちょ! 静かに! 静かにしてください!」
オーデンさんも黙るように注意するけど、助かったと思い込んだ人たちの耳には届かないようだった。
騒ぎを聞きつけたのか、スカサハさんが僕のところに慌てた様子で駆け寄ってきて、オーデンさんたちの姿を見て納得する。
「奴らがここの騒ぎを聞きつけて集まりつつあるらしい。 ギルガメシュが集まる前に撤収するようにお主に伝えろと言われてきたのだ」
「じゃあこの人たちは?」
「何人いる?」
僕が人数を伝えると歓喜に満ちた声を耳にしながらスカサハさんがため息をついてオーデンさんに冷酷なひと言を告げた。
「自業自得とはこの事だな。 一旦ここで奴らが早く分散するのを期待して待つほかあるまい?」
オーデンさんはすぐに理解してくれて頷いてくれたけど、すぐそばで僕たちの会話を聞いている他の人たちは納得がいかない様子で、最初は置いていかないでくれ、一緒に連れて行ってくれと言った懇願だったのが、自分だけ助かろうというのか! や、人で無しと言った罵倒にまで変わっていく。
「どう言われようがお主らの勝手だが……グズグズして隠れないでいると奴らが来ても知らんぞ?」
もう知るかとでもいうように早く戻ろうと僕に手で合図してきた。
オーデンさんは必死に中の人たちが出て行こうとするのを抑えているけど、それも限界のようにも見える。
「行け!」
後ろから押されるのを抑えながらオーデンさんも言ってくる。
「待っててください。 必ず助けにきますから」
頷くオーデンさんを見て僕とスカサハさんは冒険者ギルドを出た。
まるで見捨てたかに見えるような気分で冒険者ギルドを出ると、外では既にゼノモーフと戦っているギルガメシュさんたちの姿だった。
「遅くなりました!」
「やっと来たかうすのろめ! さっさと退散するぞ!」
僕の衝撃波とギルガメシュさんの一斉掃射のような射撃で1度大量に蹴散らしてから孤児院のある砦に向かって撤退を始める。
「一体何をちんたらしてやがった?」
「冒険者ギルドの中に生存者がいたんです」
そうか、と小さく呟いたけれど戻って助けようとは決して言わなかった。
猫ちゃんの作ってくれた防具のおかげで、大怪我を負っているものもなく、ゼノモーフの尻尾で作った槍でみんな撃退しながらなんとか孤児院のある砦が見えるところまで戻ってくる。
後方からはゼノモーフたちの声が聞こえてきて、ついてきているのは明白だ。
「開門だ! さっさと開門しろっ!」
ギルガメシュさんが叫ぶも門が開く気配が一向にない。
「早くしろ! 奴らが来てるんだぞ!」
すると外壁の上に大統領補佐官のガイモンが姿を見せてきて、僕たちにとんでもない事を言ってくる。
「大統領は討伐命令を出したのであって、奴らを連れてこいとは一言も言ってはいない。 ここには小さな子供たちも大勢いる、諸君らは囮となって奴らを引きつけ殲滅する義務がある! 健闘を祈っているよ」
「貴様、ふざけている場合か!? 砦で防衛すれば済むだろう、おい、大統領を呼べ!」
大統領補佐官の男の人はフッと口元を歪ませるだけだ。
「ディルムッド! スカサハ! 中に入って門を開けてこい!」
2人が頷いて次元扉で中に入ろうとした時だ。
合図でカルラと猫ちゃんが連れてこられる。
その姿はまるで捕らえられた罪人のように手には枷が口には詰め物がされている。
「この者たちは国家反逆の疑いがあってね、捕らえさせて貰った。 もしも違うというのならばわかっていると思うが?」
後ろからはゼノモーフの声が確実に近づいてきていて、そして味方には裏切られる形となってしまう。
ディルムッドの顔は殺気に満ちた表情をしていて、今にもあの補佐官のガイモンに攻撃しかけそうで、スカサハさんも……あれ? 思った以上に冷静そう……
「くっ……仕方あるまい、ひとまず急いで場所を移すぞ!」
ギルガメシュさんの命令に従い、みんなも大統領補佐官を一度睨みつけてからその場を離れていく。
僕たちは人質を取られ良いように扱われることになってしまい、孤児院にはできるだけゼノモーフが近づかないように音を立てて囮を演じながら移動していく。
「どこに行くんですか?」
「間に合えば大統領府だ。 あそこなら防衛もし安かろう」
そうは言うけどここから大統領府まではまだまだ距離がある。 追いつかれるのは明らかだ。
「あの補佐官……デスのメンバーらしい」
「え!?」
スカサハさんが走りながらそんな事を言ってくる。
猫ちゃんがスカサハさんにだけ分かるようにサインを送っていたんだそうだ。
「なるほど、それで2人を捕らえたというわけか。 という事は宮廷司祭もあいつが陥れた可能性があるな、小賢しい連中だ」
続けてギルガメシュさんが喋ろうとしたところで、ついにゼノモーフたちが追いついてその姿が目視できるところまで接近している。
「チッ……ここいらで1度迎撃しておくぞ!」
走るのを全員やめて、呼吸を整えて戦闘態勢を取り始めた。
次話更新は明日……というか、深夜に予定しています。




