防衛戦
ゼノモーフの数が多すぎる……
外壁に取り付けられたリピーターバリスタ2基をゲッコとガーゴ、スカサハさんと猫ちゃんが撃ちまくって倒していっているけど、まったく数が減っているように見えない。
ディルムッドも外壁の真下で抑えてくれていて、まるでノミのように跳ね回りながら戦っているけど、ゼノモーフの数の前に徐々に押されてきているようだった。
隣で弓を弾くギルガメシュさんの顔を見ると、最初の頃に比べて余裕が感じられない。
僕もだいぶ衝撃波を使って疲労が溜まってきていた。
「ここだ! ウィザード隊、作戦通りできるだけ数多くぶっ放してやれ! 放て————!!」
待ち構えるウィザードにギルガメシュさんから命令が出される。
もっともウィザード隊というと聞こえはいいけど、実際は4人しかいないけど……
一斉に聞き取れない魔法の詠唱をはじめて、最後に発動詠唱が発せられる。
「我が眼前の敵を爆せよ! 火球!」
「我が眼前の敵を爆せよ! 火球!」
「我が眼前の敵を爆せよ! 火球!」
「雹よ降り注げ! 雪よ霙よ嵐となれ! 氷嵐!」
広範囲にわたって爆発と爆炎なんかが上がり、ゼノモーフたちが吹き飛ぶ姿が見える。
「ありったけの魔法を叩き込んだらウィザード隊は下がってろ!」
続く命令で更に魔法が放たれていった。
「我が眼前の敵を爆せよ! 火球!」
「魔法の矢よ敵を打て! 魔法矢!」
「冷たき空気と光の光線よ、我が前の敵を凍えさせろ! 冷気光線!」
本来なら魔法の使える回数から抑えながら使うウィザードたちも、ギルガメシュさんの命令に従って惜しむ事なく使っていき、撃ち尽くしたと思われるウィザードは外壁を降りていった。
頼みのウィザードも魔法を撃ち尽くして、今は孤児院の前で最悪白兵戦で戦う準備をしているようだ。
「コイツはきりがないな」
「倒しても倒しても終わりが見えないですからね」
ついにはディルムッドもゼノモーフの圧倒的な数に外壁まで引いてきて、今は登ってこようとするゼノモーフをカルラと一緒に槍で突いている。
「クソッ! ここまでか! 全員外壁を降りて門を開けるぞ!」
門なんか開けたら一斉に入り込むんじゃと思ったけど、僕に他に考えがあるわけじゃない。
スカサハさんと猫ちゃん、ゲッコとガーゴもリピーターバリスタを放棄して外壁を降りて門の前に集まってくる。
僕の剣圧とギルガメシュさんの一斉掃射のような技を使って、外壁の近くと登ってこようとしていたゼノモーフを一度蹴散らしてから外壁を降りる。
「いいか! 一度だけ言うぞ!
外壁の外は奴らでいっぱい、逃走経路もない。 状況は最悪という最高の舞台だ! 貴様らの全力を尽くして叩き潰してやれ!」
オオォォォォォォォォォォッ! と声が上がるのと同時にギルガメシュさんが門を開け放つように指示を出した。
ギギギギギっと門が開くのが速いかゼノモーフ達が門だけからなだれ込んでくる。
どういう事か驚いていると、おそらくゼノモーフはそこまで頭はよくないだろうから、1箇所に通りやすい場所がみつかれば、そこからしか来ないだろうと思ったからなんだそう。
これもギルガメシュさんのレンジャーの勘らしく、便利だなと思った。
とにかく来る場所が限定されれば、こちらも一点集中で戦いやすくなる。
「衝撃波!」
一斉に門を抜けてこようとするため、衝撃波の的になって切り刻んでいく。
「マイセンよ無理はしてくれるなよ? 貴様は1人じゃないんだ」
言われて周りを見回すと、武器を持て余している他の共に戦う仲間たちが逆に戦えなくて手ぐすねしてみせている。
「わかりました。 みんなも無理はしないで!」
僕の掛け声に応える声が聞こえて、みんなもゼノモーフに向かっていった。
主力となるディルムッドとギルガメシュさんが次々と倒していき、少しするとスカサハさんがディルムッドを真似るような戦い方を見せはじめる。
カルラはゼノモーフとの戦闘経験があるため安定した戦い方をして、ゲッコとガーゴは……うん、なんかごり押ししている。
大丈夫だろうか……
他の共に戦う仲間たちも前回の襲撃で戦った経験があるのもあって、仲間と連携を取りながら必死に応戦している。
だけどその頑張りも、尽きる事のない圧倒的なまでの数の暴力の前に苦戦一方だ。
———その時だった。
「主らよ、汝らの祝福で我らを解き放ちたまえ 喜びと平穏で心を満たしたまえ 汝らの愛と救いの恵みを享受せん 我らを癒したまえ」
美しい声色の歌が聞こえ出して振り返ると、アレスさんの奥さんが槍を地面に突き立てて胸の前で両手を結んで祈りを捧げる姿勢を取りながら歌を歌い始める。
その歌はすぐにアップテンポな荒々しい歌詞になっていく。
「あれは【闘争の神レフィクル】を讃える聖歌! あの女、ただの神官じゃなく聖歌隊だったか! この局面でこいつは助かる!」
この歌を聴くとなぜかさっきまでの疲れが薄れていく。
周りの共に戦う仲間を見ると同様のようで、しかも恐怖心までも取り除かれて押し返しはじめた。
ちなみに聖歌隊とは神官の中でも特殊で、人種全てに当てられた神を讃える歌があり、その歌を歌うことでその人が信仰する神とは無関係にその恩恵を得ることが可能となり、その聖歌を聞かせたい相手全員に効果を発揮できるものらしい。
ディルムッドは前線で戦い続けて、猛烈な速度で倒し続けていき、カルラがそのサポートに回っている。
スカサハさんは魔法と次元扉を駆使してゼノモーフの尻尾で作った槍で次々と倒していく。
ゲッコとガーゴも奮闘しているけど、返り血であるゼノモーフの酸を多少受けているのか、身体から煙が上がっているようだった。
他にもここに集まってくれた冒険者やギルガメシュさんの奴隷戦士たちも必死に応戦しているけれど、圧倒的な数の前に1人また1人と倒れていく姿も見れた。
パンッ!
両手の掌をアレスさんの奥さんが音を立てて合わせる。
「聖歌【保護の神ロルス】を讃える歌!」
そう言うと先ほどとは違った歌を歌い始め、その効果はというと即効性は低いものの傷が癒えていくようだ。
ゲッコとガーゴを見ると酸による煙が見えなくなっていて、肉が焼けただれた人も徐々に傷が癒えて痛みも和らいでいるようだった。
そこへ僕のそばにスカサハさんがくる。
「マイセン……儂のバカ弟子を見なかったか?」
「え!?」
すっかり忘れていたけど、猫ちゃんの姿が見当たらない。 ついでにスカサハさんがまた儂って言っている。
それはさておき慌てて声をだして呼んでみるけど返事は返ってこなかった。
「まさか……」
「儂の責任だ……」
「ししょー何がにゃりか?」
と思ったらいつの間にかひょっこり顔を出してきて、ゼノモーフの尻尾で作ったダガーを手に持っている。
「危ないからお主は下がっていろ!」
「猫はさっきからちゃんと安全な場所にいるにゃりよ」
「ならなぜ武器を使った形跡があるんだ!」
「えっとね……」
猫ちゃんは確かに離れた場所でキモいの……ゼノモーフから離れて見ていたらしい。
そんな距離を置いて見ていたからこそある事に気がついたらしく、試しにいったそうだ。
それは———
「キモいのの体液は他のキモいのにかかっても煙が出なかったにゃりよ」
そこで実際に試すために既に死んでいるゼノモーフで試してみたんだという。 ゼノモーフの尻尾で作ったダガーに使った形跡があったのは、試すために使ったからのようだった。
そこで今更ながら魔法効果もないゼノモーフの尻尾で作った槍はゼノモーフを突いても溶けないことを思い出す。
「これをうまく使えば……」
「あの酸から身を守る事ができそうだな?」
僕が言おうとした事をスカサハさんに言われてしまった。
だけどそれがわかったとしても、今はこの状況を乗り越えなくては意味がない。
そしてそんな時にカルラの悲鳴が上がって振り返ると、ディルムッドがゼノモーフの酸を浴びてしまい、人の肉が焼ける匂いと浴びた箇所から煙が立ち上っていた。
次話更新は明後日の予定です。
早まる場合もあるかもしれません。




