それぞれの戦い
☆ディルムッド
つい先ほどまで俺は死を覚悟してカルラを守ろうと思っていた。
だがカルラが俺の子を身篭り父無し子にしないでくれといい、そしてそれを踏まえたうえでマイセンの奴も鬨の声で生き残ろうなんて言ってくれる。
ならばそれに答えなければ男じゃない。
先に死んでいった同胞たちには悪いがもうしばらくそちらに行くのは待ってもらうほかあるまいな。
もっとも既に転生していないとも限らないわけだがな。
前方の町からゼノモーフたちの姿が近づいてくる。
あの時の狭いダンジョンと違い、今回はオープンフィールドになる。 長年地下世界で生きてきたこの身としては少々戦い辛いところではあるが、致し方がないだろう。
「アンドゥダグ家のガヴェイルジャグには及ばないが、ドラウの戦いの真髄というものををとくと味わうがいい!」
2本の槍を構えて姿勢を低く構え、最初の2匹をそれぞれの槍で貫くのと同時に次元扉で頭上に移動する。
標的が突然消えて立ち止まったゼノモーフの頭を槍で貫き、またすぐに次元扉で次の場所へ移動する。
ガヴェイルジャグはこれを剣1本でできるというらしいが、噂ではララノア王女の侍女にあっけなくやられて最後を迎えたと聞いているが、俺はそんな女は見ていない。
一呼吸にして4匹屠り、一度距離をとった俺は槍を上空に投げて剣を抜き、通りすがりに3匹仕留め、一斉に貫通力に優れた尻尾で俺を貫こうとしてきたときにはすでに上空へ移動し、落ちてきた槍をキャッチして刺し貫く。
これは俺の得意とする戦法であり、2本の槍と剣を我が手足の如く使いこなすところにある。
剣で貫いて手を離せばそこに槍がちょうど落ちてきて次の標的を貫く、そこには本来なら息つく暇もないほど動き回る必要があるが、そこはドラウの固有能力である次元扉が役に立っている……
とまぁいったい誰にたいして説明じみた事を言っているのかわからないが、とにかく俺の役目はこの次元扉ですぐに戻れるから外壁の前の防衛を任されているわけだ。
俺の前方で魔法が爆発し、リピーターバリスタのボルトが次々と飛んでいき、時折突風のようなものが俺の横を抜けていってゼノモーフたちを纏めて切り刻んでいく。
これはマイセンの衝撃波なのだが……頼むから間違って俺に当てないでくれよ?
☆スカサハ
「来た!来た! 来たにゃりよー! ししょー! 何あれキモいにゃりー!」
「お主は少し黙らぬか!」
「痛ったいにゃり!」
あれが話に聞いていたゼノモーフという奴らしい。 全身が黒くまるで痩せ細った犬のように走ってきている。
私とバカ弟子の役割は、攻城兵器であるリピーターバリスタを使ってあの黒い奴を屠るのが役目だ。
「ディルムッドの動く距離よりも遠い場所にいる奴を狙って倒していくぞ」
「わかったにゃり! むふふ、猫の恐ろしさを見せてあげるにゃりよ!」
まったく根拠のないことばかり口にする弟子だが……ふむ。
「行くにゃりよ! 撃つにゃりよー!」
ドシュドシュドシュっと等間隔で放たれるボルトは確実に命中させて1射1殺していっている。
「どうにゃり!」
「うむ、素晴らしい武器だな」
「ししょー! そこは猫の腕前って言って欲しいにゃり!」
まぁこんな感じでバカ弟子ながら目の良さは獣人特権といったところのように見える。
しかし……数が多すぎる。
リピーターバリスタの射撃速度は決して早すぎるほどではない……現に外壁の中央で矢を放っているギルガメシュという男……リピーターバリスタの1射につき3射以上は放っているように見える。
これでも腕には自信があった方ではある私だったが……ふっ、世界は広いといったところのようだ。
そして外壁の外で戦うディルムッド……地下世界時代から生きる男のドラウの中ではその名を知らぬものはいないと言われるほどの強さを持っていると聞いてはいたが……あれほどまでとはな。
「さて、バカ弟子よ……あちらにいるリザードマン2匹もなかなかなものだぞ?」
「にゃ! 負けないにゃりよー!」
☆ゲッコ
(兄貴! 来やがったぜ!)
(落ち着け弟、しっかり狙って倒せばいいだけの作業だ。 景気よくやってやろうぜ)
(おう!)
弟のガーゴは本当は俺より強いし、頭だって切れる。 だが、俺がいるせいで俺を超えてはいけないとどこかで思っているように思える。
その証拠に今だってこのバカでかいクロスボウも俺よりも早く使いこなしやがった。
にもかかわらず俺が先に覚えたかのように振舞ってくる。
主君と初めて出会い戦った時も屈服することを思いついたのはガーゴだった。
(兄貴、見てみろ! あいつら動きも速いがそこまで頑丈じゃない。 だけど飛び散る血が触れた場所から煙を出してやがるぜ!)
(あれかなり強い酸だな、かかったら熱いじゃ済まない。 きっと鱗も一瞬で解けるだろうな)
(さすが兄貴だぜ!)
これだ……こうやって弟はわかっていてわざと俺を立てようとする。
もちろんこの事を聞いたことはある。 だがガーゴは俺なら絶対に分かってたことだろと返してくる。
まぁどういうつもりかはわからないが、弟が俺を立てるというのならそうさせてもらうとしよう。
(マズイぞ兄貴、数が多すぎて間にあわねぇ)
(ギリギリまでコイツで戦って指示がなければ突っ込むぞ!)
(わかった兄貴!)
主君は未だ中央で戦っている。 勝手な行動は取るべきじゃないだろうな。
次話更新は明日の予定です。




