鬨の声
新章に入ります。
しばらくするとディルムッドが数名の人を連れて戻ってくる。
その中にはソティスさんの両親の姿もあった。
あとから来た者は入れないと言っていたギルガメシュさんは、これをあっけなく受け入れて戦えない者は建物の中に入ってもらう。
「よかったんですか?」
「まだ間に合ったというだけだ。奴らと交戦が始まっている最中に門を開けたいか?」
つまりは戦いが始まるまでは受け入れるつもるのようだ。
「ゼノモーフの数は確認できたか?」
「ああ、相当な数だった。 麓はせいぜいもって半日がいいところか」
それを聞いてギルガメシュさんの顔色が変わる。 それは僕も同じでそんなに数がいるとは想定していなかったからだった。
「奴らめ! 一体どうやって増えたというんだ!」
「ここは元々産卵場があったから……」
「だとしてもだ! 奴らの成長は卵から孵って寄生して成長していったはずだ。 そのプロセスの為には生贄が大量に必要となるはずだ、違うか!?」
確かにゼノモーフの成長過程はギルガメシュさんが言った通りのはず、だとしたら増やすまでの期間にそれだけの犠牲者が見つからなかったのはおかしい。
「そこは今考えても仕方がないさ。 アレが押し寄せてくるのを対処する事を優先したほうがいいと思うが?」
こんな状況だというのにディルムッドは落ち着いていて、言うが早いか両手に槍を一振りづつと腰に2本の剣を下げて外壁の外へ降りて行ってしまう。
「言われなくてもこちらは準備は整っているわ!」
そしてギルガメシュさんも取り乱したりしているわけではなく、考えるだけの余裕がすでにできているといった感じだ。
「いいか『気斬りのマイセン』、もしも俺様に何かあったら……その時は貴様がここの連中を導け」
僕の横に立ち並んでいるギルガメシュさんが、僕の方を向かずにそんな事を口にしてくる。
「僕なんかに……」
「無理とか言ってくれるなよ? 俺様が貴様を指名したんだ、貴様がやれ」
ディルムッドやスカサハさん、他にもたくさんいるだろうにギルガメシュさんは僕にもしもの時を託してくる。
「もっとも……俺様も死ぬ気は毛頭ない」
昼が過ぎた頃だろうか、町から悲鳴なんかが聞こえてくる。
町外れと言っても孤児院は普段町の活気のある音なんかは聞こえてくる距離だ。
中には早い段階で逃げ出して孤児院に向かって走って逃げてくる者たちもいて、そういった人たちは外壁の門は開けないで縄梯子を下ろして登らせていた。
「町はどんな様子だ」
「今頃はあの時の化け物でいっぱいだと思います。 わしらは麓で兵士たちがまだ防いでいた間に逃げ出す準備をしていたんで……」
「つまり麓の兵は殺られたという事か?」
「そこまでは……」
ふむ、とギルガメシュさんは頷いたあと、他にも逃げ出した者はいたのかを聞いたりしていた。
「分散して逃げてくれたおかげで全部がこちらへ来るわけでは無さそうだ。 とはいえ相当な数が来るのは間違いなかろう」
そこへ武装したカルラが外壁を登ってきて僕たちのそばに姿を見せてくる。
「私も戦います」
ゼノモーフの槍をギュッと構えてそう言うと、外壁の下で待機していたディルムッドが戻ってきて、戻るように促してきた。
「あなたが最前線で戦う姿を見守りたいの」
「……仕方あるまいな、無様な死に様は見せないようにしよう」
「ディルムッド、あなたが死んだら……お腹の中の赤ちゃんが父無し子になってしまうわ」
驚いてカルラのお腹を見てみるけどまだ目立ってはいない。
ディルムッドもどうやら初耳らしく、驚いた表情を見せてカルラを抱きしめていた。
「……ここが死に場所ではなくなったようだ。 もうしばらく生き抜いてみせよう」
徐々にゼノモーフたちのキシャーという叫び声がこちらへ近づいてくるのがわかる。
ディルムッドがカルラから離れるとまた外壁の下に降りていって、2本の槍を構えて迎え討つ態勢を整えていた。
「そろそろか……マイセン、貴様が鬨の声をあげろ。 これから戦う者たちを鼓舞してやれ!」
シーンとなったこの場にいる人たちの目が僕に集中する。
何を叫ぶか僕は一度よく考えてみる。
なぜ戦うのか? もちろん死ぬわけにはいかないからだ。 何のために? ここにいるみんなを守るため……違う、アラスカとの約束を守るためだ。
だから、僕は死ねない。 生き残りたい。 生き残る。
ここにいるみんなだって理由はいろいろだろうけど、考えは同じはず。
刀を抜いて天に向かって突き上げる。
「家族のため、愛する者のため、死にたくない生き残りたいため、それぞれ理由はあるだろうけど、みんなが思うことは1つだ!
————みんな! 生き残ろう!」
鬨の声をあげたつもりだったけど辺りはシーンと静まり返ったままで、焦りそうになった次の瞬間————
『ウオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオッ!!』
全員呼吸があったかのように声が上がる。
「まぁまぁってとこだな」
ギルガメシュさんが肩を叩いてきた。
今の声につられるかのようにゼノモーフの姿が見え出した。
次話の更新は土曜日を予定しています。




