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地獄の感謝祭のはじまり

この章の最終話です。

 こうして孤児院は集まった人たちでごった返し、戦えるものは孤児院の外でテントを張って控える事になるのだけど、その中にはアレスさんの奥さんの姿もあって、元は奥さんの武器でもある槍を手に今は武装を整えている。

 お子さんもいるんだからと止めようとしたけど、元は登頂組のトップパーティの冒険者だったのと、神官戦士だからきっと役に立つと押し通されてしまった。



 集まった人数で戦力になり得る人数は僕たちとゲッコとガーゴも入れて20人程度で、兄弟たちと避難した人の数の総数は50人以上にも昇り、外壁の中はすし詰めとまでは言わないもののかなり結構圧迫された状態に陥っていた。


 ちなみにシスターテレサは大統領府の方にいずっぱりで、こちらは僕たちに任されることになっている。



「思った以上に集まっちゃいましたね」

「想定内だ。 この戦いを勝ち抜いたら敷地は広げる予定をしている」


 ギルガメシュさんが言うには、バイオハザード状態になるだろうからしっかりとしたコミュニティを築いておかなければならないらしい。

 僕にはその辺ちんぷんかんぷんで、ただ頷くだけだった。




 その頃スカサハさんと猫ちゃん、ゲッコとガーゴはリピーターバリスタの練習に励んでいて、ゲッコとガーゴの方は兄弟だけあって操縦の息がぴったりだけど、スカサハさんと猫ちゃんの方が大変だったようだ。

 外壁のリピーターバリスタが設置された場所から怒号が飛び交い、息を合わせるのに必死なようだった。


 20人程の戦えるものたちも魔法が使えるものは集まって作戦を立てていて、そうでない者たちは弓を手に練習をしている。


 暇を持て余しているのは僕とディルムッド、それにギルガメシュさんぐらいだった。







 そしてついにララノア感謝祭の初日が訪れる。

 ララノア感謝祭は5日間の日程で、今頃町ではどんちゃん騒ぎで祝っていることだろう。

 ここ孤児院も細々ながら非戦闘員で、料理屋の娘であるソティスさんが陣頭に立ってヴェルさんたちも手伝いながら作った料理を食べて、少しでも感謝祭の雰囲気を味わいながら、いつゼノモーフが現れてもいいように交代で見張りをしている。

 もっとも町にはディルムッドがいて、ゼノモーフの出現と共にドラウ固有の能力の次元扉(ディメンジョンドア)ですぐに戻る手筈になっているし、ウィザードで魔法に余力のある者は魔法(ウィザード)(アイ)という魔法で監視している。



 ギルガメシュさんは早朝から指揮をとりながら、準備に怠りがないか入念にチェックをしてずっと忙しそうにしていて、ゲッコとガーゴはリピーターバリスタの場所で何度も可動範囲なんかを調べているみたいだ。

 心配だったスカサハさんと猫ちゃんの方も、なんとか呼吸を合わせてリピーターバリスタを扱えるようになったようで、今は感謝祭を楽しんでいる。



 そんななか僕は外壁の上の中央に立って7つ星の騎士団領に向かったアラスカのことを考えていた。

 アラスカは無事に7つ星の騎士団領にたどり着いているのだろうか?

 実際には行ったことがないからわからないけど、7つ星の騎士団領は自治領で、実際には7つ星の騎士団は領地としての運用には一切関与していないらしく、勝手に集まった人たちが自治領を7つ星の騎士団領と呼ぶようにしたと聞いている。


 本当にゼノモーフの襲撃が世界規模で起こったら、僕はアラスカにまた会えるんだろうか? アラスカは必ず戻るって言っていた。 今はただその言葉を信じるしかない。

 そのためにも何が何でも生き延びなければならないんだ。


 ほんの少し……僅かにだけ意識を集中させてみる……

 一瞬にして辺りが止まって見える。 実際には世界が超スローモーションになって見えているだけだけど、ほぼ止まっているようなものだ。


 そこですぐに集中を解いて、このわけのわからない力を解放させるとすぐに元どおりに動きだした。



 ツゥっとこそばゆいような何かが垂れてくる感覚がして、手を鼻に触れると鼻血が出ている。

 時間にして1〜2秒、それでもこの力は身体に大きく負担をかけてくる。


 感謝祭が始まるまでの間、自分で使えるようになろうと毎日少しづつ試すことで使えるようにはなったまではいいけど、それでも最初の頃は加減がわからないで血を吹き出して倒れていたけど……

 当然理由を聞かれたけど、みんなには説明しにくいから適当に新しい技とだけしか言っていない。





 ララノア感謝祭の初日は特に何も起こらないまま夜が訪れる。

 夜の襲撃にも備えなければならず交代で見張りをするのだけど、本当に起こるかすら怪しいのもあって今一つどこか緊迫感が感じられない。




 結局初日の夜も何事も起こらず2日目が訪れ、3日目も過ぎようとしていた。

 そうなってくると徐々に緊張感も薄れていき、襲撃は起こらないんじゃないか? と思う人が増えてきて、ついには孤児院を出て行ってしまう人まで出てきた。



「いいんですか?」

「想定内だ。 もしも襲撃があった場合、僅かな可能性であっても危機管理能力を保てない者はこの先生きてはいけない」


 ギルガメシュさんは未だに冷静にいた。

 ふとどうして不確かな情報なのにここまで信じているのか理由を聞いてみると、腕を組んで町の方角を見据えながら答えてくれた。


 まず情報の発信源が僕である事、そしてギルガメシュさんの勘らしい。

 そんな勘だけでと思ったけど、ギルガメシュさんのクラスはレンジャーと言うもので、7つ星の騎士のような能力や、暗殺者(アサシン)のような加速(ヘイスト)などの能力と同じくして危険を予測する勘が働くのだそうだ。



「レンジャーは弓が得意武器の者が多い。 狙撃してくる矢を避けるには貴様のような『(オーラ)』でも7つ星の騎士が使う予測(プレディクション)でも無理だ。 だが、俺様は避けられる」

「それってもう未来予測みたいですね」

「っは! 未来予測ときたか。 レンジャーは単独行動に優れ生存能力に長けている程度であって、貴様のように直接的な戦闘の強さはない」



 ちなみにクラスには上位クラスがあって、7つ星の騎士も暗殺者(アサシン)も上位クラスに該当するけど、誰もが簡単になれるものではない。

 7つ星の騎士の場合は幼い頃からの修練が必要で、暗殺者(アサシン)は師となる暗殺者(アサシン)に教わらなければならないらしい。

 そしてレンジャーもその1つだ。 ただどうやったらレンジャーになれるのかはわからないけど……




 そしてついには5日目のララノア感謝祭の最終日の朝を迎える。



「今日も何も起こらなければいいですね」


 この数日、ディルムッドは町に出ずっぱりで、リピーターバリスタにスカサハさんと猫ちゃんが、カルラは兄弟たちの面倒を見ていたりで僕はギルガメシュさんとほぼ一緒にいた。



「そうとも限るまい? もし感謝祭で襲撃が無かったら次は予測すら立てられなくなるのだからな」

「あ……」


 ……そうだった。


 でももしかしたら……アラスカの予想はハズレて、ゼノモーフの襲撃がそもそも無いなんてことはないんだろうか?


 そんな楽観的な事を考えていた時だった。



「ひっ! ひぃぃぃぃぃ!」


 1人のウィザードが悲鳴をあげて尻餅をついた。

 そのウィザードは魔法(ウィザード)(アイ)を使って監視をしていた者で、恐怖からか這いつくばりながら逃げ出そうとまでしていた。



「来たか……」


 ギルガメシュさんが静かに呟いたあと、みんなに聞こえるように声を張り上げだす。



「全員配置につけ! 戦闘に加わらないものは直ちに建物の中へ避難しろ! 」


 一斉に動きだしてそれぞれ決められた場所に向かい準備が整うと静かにその時を待ち構えると、ギルガメシュさんが戦う者全員に向かって演説しはじめた。




「よく聞け! 間もなくゼノモーフの大群がここに押し寄せてくる!

ここだけではない、全世界の各地にもだ!

そしてこの一戦でおそらく多くの人種が死ぬだろうし、存続も危ぶまれるかもしれない。

国どころか文明も終わるかもしれない。

だが貴様らは違う! 貴様らは敵を知っている! その強さも残忍さも知っている!

今日初めて戦わなければならない者たちよりもこれから戦う相手の事を知っているのだ!

前回は神や代行者に助けられた? 否!

それより以前にダンジョンで俺様たちは戦い、そして駆逐しているのだ!

いいか貴様ら!

簡単にあきらめる者に勝利は無い!

勝利を勝ち取る者は最後まで諦めなかった者だけだ!

貴様ら全員が、その義務を果たすことを俺様は期待している」



 激しい言い回しも最後は静かに締めくくると、しばらく間をおいてから歓声が上がりだす。

 ギルガメシュさんの指導者としても優れていることに驚かされた。



「ん、どうかしたか?」

「その……カッコよかったなと思いました」

「貴様はバカか? あんなもん口から出任せに決まっているだろう。 それにな……」



 僕の情報通り卵だけであればそれ以上増えることもなくて、そうなれば実際に現れる数はたかが知れているとそこまで見越していたようだ。



「なるほど! 女王(クイーン)が居なければ増やせないですからね」

「そういう事だ……と言いたいところだが、どうにも落ちつかない」

「勘、ですか?」


 ギルガメシュさんが町の方角を見据えながら頷いて答えた。


 こうしてララノア感謝祭最終日に地獄が始まろうとしていた。




次話の更新は明日か明後日にできると思います。

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