勘違いをさせる
冒険者ギルドに戻った僕はヴェルさんのところへ行く。
「マイセン君、お帰りなさい。 今日はのんびり出来た?」
「はい!」
「それは良かったわ。 じゃあこれ、夕食のお金ね」
「ありがとうございます。 それとコレ、いつもお世話になってるお礼です」
そう言ってヴェルさんに手渡す。
「わ、何かしら? あとで見させてもらうわね」
どうやら喜んでもらえたようで良かった。
その足で〔ヒヨコ亭〕に向かい、いつものカウンター座るとすぐにソティスさんが料理を持ってきてくれた。
「はい、お待たせ」
「ありがとうございます。 それと、これプレゼントです」
「うわ! 本当に? マイセンありがとう! 開けてみてもいい?」
「はい、どうぞ。 気に入ってもらえると嬉しいんだけど」
そこでふと気がつく。 ソティスさんがいつの間にか僕のことを呼び捨てにしていることに。
「わぁ! イヤリングだぁ。 これって結構したんじゃない?」
「ええ、まぁ」
その場でイヤリングをソティスさんが付けて見せてくる。
「どう?」
「とっても似合ってます」
「そう? ありがとう! 大事にするね」
僕が〔ヒヨコ亭〕を出るまでソティスさんは終始ご機嫌な様子で、シスターテレサの言った通りにして良かったと思った。
下宿先に戻るとギルド職員の時には決して見られないようなラフな格好のウルドさんがいた。 初日のことがあってからはちゃんとラフながらも服を着てくれるようになっている。
「よぉ少年」
「ウルドさん一応僕も15歳成人なんですから、少年っていうのは……それより、これプレゼントです!」
「ほぉぉ、私にねぇ? 意外だったけどまぁよろしい、貰っておくとしよう」
そう言うとなんだかそそくさとウルドさんは自室に入っていった。
残るはスクルドさんなんだけど……
そう思いながら、とりあえず自分の部屋に入る。
「ちゃお」
「あ、はい、こんばんは」
—————————え?
バタン……
部屋から一度出て、自分の部屋である事を確認してからもう一度入りなおす。
「ちゃお」
「なんで僕の部屋にいるんですかぁぁぁ!」
「うーん、なんでですかねぇ? きっと居心地がいいんですね」
この人のペースがよくわからない……でも、丁度良かったのでプレゼントを渡すことにした。
「えっと、これプレゼントです。 スクルドさんに渡すのに部屋に行こうか迷っていたんで丁度良かったです」
「わぁ、ウブだと思ってたけど、案外肉食系だったりしちゃいますかぁ? でもそう言うのも嫌いじゃないですよぉ」
「はい?」
なんか勘違いされてるような気もする。
「えっとぉ……」
「プレゼントありがとうございますねぇ」
僕がプレゼントはいつものお礼ってことを言おうとしたら、スクルドさんはさっさと部屋を出て行ってしまった後だった。
「まぁこれで全員にお世話になっているお礼は出来たからいいのかな?」
僕はなんだかスッキリした気分になれて、気持ちよくその日は眠りにつくことが出来た。
朝日が眩しくて目がさめる。 伸びをして身体を起こして、革鎧を身につけていく。
腰に剣を吊るして準備が整い、隣の冒険者ギルドに向かった。
「おはようございますヴェル、さん……?」
あれ? なんか機嫌悪い?
隣にいるウルドさんとスクルドさんもなんだかすごく機嫌が悪そうに仕事をしている。
「おはようございますマイセン君。 これ朝食代、それと……君、2人になんて言ってプレゼント渡したの? 今日3人とも同じイヤリングが被っちゃって話を聞いたら、君にプレゼントして貰ったって言ってたわよ?」
どうやら冒険者ギルドを開ける前に、3人が3人共同じイヤリングをつけているのに気がついて、ウルドさんとスクルドさんが喧嘩し出しちゃったみたいだった。
「僕は……」
思い出しながら話すと、ヴェルさんがため息をつきながら注意してきた。
「いいかなぁ……なんで、私の時みたいにちゃんといつもお世話になっているお礼ですって言わなかったの? そんなプレゼントです、なんて言われたら、女性なら喜んじゃうものなのよ?」
「う、い、えぇぇぇぇ……僕はそんなつもりじゃ……」
「だからため息が出るのよ……
2人には私から言っておくから、今後は注意すること。 わかった?」
「はい……ゴメンなさいヴェルさん」
まさかこんなことになると思わなくてガッカリしていると、ヴェルさんが肩を叩いてくる。
「マイセン君、似合ってると思う?」
ヴェルさんが髪の毛を持ち上げてイヤリングを見せてくる。
「……似合ってる、と思います」
「よろしい。 それじゃあ後のことは私に任せて、マイセン君はなすべき事をしてくるといいわ」
ヴェルさんは気落ちした僕を元気付けてくれて、笑顔を見せてくる。
「はい! 行ってきます!」
我ながら凄い更新速度だと思っています。
次話更新は明日朝6時ごろ予定で、その後は章が変わるので夜になっちゃうかもしれません。




