防衛準備
あれから数日が経ってララノア感謝祭まで僅かになっている。
ネズミ獣人を連れて行った翌日、シスターテレサからホープ合衆国の対応を聞いたら、さすがに前回の襲撃を体験している町だけあって、大統領の命令で感謝祭が行われる数日間は兵士たちに完全武装による演習を見せるという名目で麓に待機させることにしたそうだ。
また合衆国領である迷宮の町なども同様に名所前で待機させることにしたらしい。
ただしあくまでも演習としてであって一部の人しかこの理由を知らないことになっていて、そうしておくことで襲撃があっても無くても他国に名目がたつからだそうだ。
それと冒険者ギルドの方だけど、冒険者ギルドは独自の組織のようなものの為、冒険者に勝手な指示を出すことはできないのだそう。
そこでここ霊峰の冒険者ギルドのオーデンさんは、極一部の信用のおけるパーティリーダーを集めてもしもの時の防衛をおねがいすることにしたみたいだ。
つまり、冒険者ギルドも国同様動かすことはできなかったようだ。
不安が残る中僕もノンビリと待っているわけにはいかず、ディルムッド、カルラ、スカサハ、猫ちゃん達総出で少しでも孤児院の強度を増したり、備蓄を用意したりして、最悪立て籠もれるように準備していく。
「っは! どんなものかと来てみれば、まるでなってない!」
不意にギルガメシュさんが姿を見せて、孤児院の強度を上げるために新たに作った囲いなんかを見て笑い飛ばしてきた。
「ギルガメシュさんこんにちは。 これでも素人ながら頑張ったと思いますよ?」
「はっは! こんなもんだろうと思って俺様が手伝いに来てやったのだ」
確かに普段ダンジョンに連れている奴隷の他に、宿屋で待機させている全ての奴隷と思われる人たちが一緒に来ている。
「どうだ? 手伝う代わりに、こいつらもここにおいてはくれくれないか?」
ギルガメシュさんは奴隷だからといって簡単に見捨てるようなことはしない本音は良い人だ。 これが本当の理由なんだろう。
僕の方こそとお願いすると、早速奴隷達に命令を出して今まで作った囲いの方へ向かわせる。
「でもどうしてですか?」
「あいつらは俺様のものである限り最後まで責任を持つのは当たり前の事だ。 そして貴様は何もわかっていないようだが、孤児院は相当考えられた場所に作られている」
ずっと町外れにあって不便だと思っていた理由がギルガメシュさんに教えられて、孤児院は自然をうまく利用して目立ちにくいように出来ているらしい。
言われてみれば確かにキャロのお墓を作った大木のせいで、前々から町から孤児院は見えにくいなとは思っていたけど、そういう理由があるとは思わなかった。
そうこうしているうちにララノア感謝祭前日になって、孤児院は小さいながらも立派な要塞に出来上がってしまう。
「まるでお城にゃり!」
「こいつは驚いた……この短期間で要塞を築いてしまうとはな」
猫ちゃんとスカサハさんもその出来栄えに口をぽかんと開けて孤児院をガッチリと囲う壁を見回している。
「はっは! あとあいつは俺様からのプレゼントだ。 リピーターバリスタと言ってな、高速射撃が可能な据え置き型のボウガンだ」
リピーターバリスタと呼んだその武器はお城の城壁に取り付けられる非常に高価なものらしく、それが町の方角に向けて2基設置されている。
これはある程度向きを変えながら最速で1秒に1本のボルトを射出出来るらしい。 ただし重量があるため、2人1組でないと扱うのは難しいそうだ。
矢となるボルトも何処からこれだけ用意したのかと思うほど既にセットされていて、それぞれ1000発分あるらしい。
「これだけあればゼノモーフが来ても返り討ちですね!」
「当然……と言いたいところだが、もしも貴様の言うように全世界で湧き出るのであれば、その後もここに籠城しなければならないかもしれん。 となると消耗品であるボルトが無くなれば飾りでしかなくなる」
ギルガメシュさんは今回の感謝祭だけでなく、既にその先をも見越して考えているようで凄い。
「あとは誰があいつを扱うかだが……」
「はいはいはい! はーい! 猫がバシュバシュ撃つにゃりよ!」
「バカモノ! お主はガキなのだからおとなしく建物も中にでもいろ!」
ゴチンと本当に痛そうな音が聞こえてくる。
「痛ったいにゃりよ! ちゃんと理由だってあるにゃり! 猫は耳とお目目がいいにゃりよ!」
言われてハッとなったスカサハさんも言い返す言葉が出なくなってしまい、困ったように僕たちの事を見てくる。
「なら少しばかりテストをしよう」
ディルムッドが剣と槍とゼノモーフの槍を取り出して見せる。
「俺が頭の上にあげた武器がどれかを言い当ててもらう」
「いいにゃりよ」
その結果……ココにいる誰よりも1番遠くの物を言い当てて、しかも誰よりも早く答えている。
とはいえ猫ちゃんはまだ未成人。 やはり未成人を戦いの前線に立たせるのはみんな抵抗があった。
「私が責任を持とう。 ここへ連れてくる事になったのも私が弟子にしたからなのだからな」
「師弟コンビにゃり」
これで一基の方は決まったけど、もう1基を誰にするかとなる。
「じゃあ僕が……」
「待て、貴様は『気』で広範囲に凪払えるのだから、あそこに立って迎え撃て」
そう言って指差した場所は城壁の上のリピーターバリスタ2基ある真ん中、ちょうど出入り口に当たる正面だ。
「両サイドには俺様と俺様の奴隷で魔法が使えるものを配置させる。 これで正面は問題なくなるだろう」
ギルガメシュさんの弓は爆発する力を秘めた弓で、加えて腕前も前衛に立って弓で戦えるほどだ。
「じゃあ誰にもう1基を扱わせるんですか?」
「貴様のペットにやらせればいい」
ゲッコとガーゴを顎で指し示してくる。
「扱い方を教えれば誰でも使える。 ディルムッド! 貴様は城壁の前に出て戦えるな?」
驚いた事にギルガメシュさんはディルムッドに城壁の外で迎撃戦をやれと言ってくる。
これにはさすがにディルムッドではなく、妻であるカルラが反対してきた。
「ギルガメシュ様、それでは私の夫に死ねと言っているようなものです。 お願いします、どうか考えを改めてください」
「フンッ! 貴様は己の夫の力も信じてやれぬのか?」
カルラも僕もディルムッドはどうなのかと顔を見ると、闘争心をむき出しにした嬉しそうな顔を見せている。
「最高の戦場だ」
決して否定せず、むしろ感謝しているようにも見えた。
ただカルラの表情は曇ったままだけれど、未だ奴隷として救ってもらえた恩義があるのかそれ以上ギルガメシュさんに言い返すことはしなかった。
あとは前もって助けたいと思う相手がいれば、今のうちにここにいさせるようにと、襲撃があってからは受け入れる余裕はないとギルガメシュさんは言ってその場を離れていってしまう。
残された僕たちは、これでよかったのか疑問に思いつつもギルガメシュさんを信じるしかなかった。
次話の更新は火曜日か水曜日辺りにできると思います。




