最後の技?
僕の前世は史上最強と言われた英雄セッターの魂を持つ。
本来の姿であれば騎士魔法を駆使して戦うのであろうはずが、7つ星の騎士ではなかったせいかは定かではないけど、『気』を使った騎士魔法のようなものを使えるのはそれが理由なのかもしれない。
もしそうだとするとアラスカも言ったように攻撃的な7つ星の騎士に近いと言っていたところから、同じように7つの力があってもおかしくはない。
ただその騎士魔法ですら未だに最後の1つの力は謎のままらしい。
そこで僕自身が使える力を思い返してみる事にした。
まずは武器自体ではなく『気』で斬る『気』斬り。
これが今現在のほぼ通常攻撃となっていて、刀身より数歩離れた位置から『気』で相手を斬れる。
『気』を読むことで居場所を特定する騎士魔法の感知のような力。
気配を読むためアンデッドのように『気』がない相手はわからないことと、騎士魔法の感知よりも範囲は狭いようだ。
同じく騎士魔法の予測に似た『気』で相手の次に取る行動を読める力。
正直この力のおかげで僕は戦えていると言っても過言じゃない。
『気』を放出させる衝撃波。
アンデッドのように『気』のない相手に対しての攻撃手段として習得したものだけど、実際には放射状に広がる『気』によって切り刻む範囲攻撃みたいなものだ。
『気』を圧縮させて叩きつける剣圧。
衝撃波を見出して思いついた技で、こちらも範囲攻撃ではあるけど至近距離のみになる代わりに切り刻むのではなくて、『気』で叩き潰す技だ。
相手の『気』を感じ取って断つ居合斬り。
僕の奥義でもあって、たぶん気配が読めれば神様だって殺せるかもしれない技。 有効距離は相手の『気』を完全に読み取れる距離で、読み取れれば遮蔽物を無視して相手の『気』、つまり命を絶つ。
欠点としては刀が鞘に収まっている状態じゃないと使えない。
そして先ほど使ったものが最後の1つだとすれば、これでちょうど7つになる。
ただ今まで使ってきたどの技よりも身体への負担も大きいようで、今までのように意識がなくなるだけではなく出血までしていたところから、生命に関わるほどの力なんだと思う。
そこでどんな能力だったのかを思い返してみる。
まず僕自身には特に何か起こったようには見えないけど、周りの景色は止まって見えた。 止まっていたわけではないとわかったのは、僅かに温泉の揺らぎと思う水面の動きが見えたからだ。
そして僕を襲った刺客は暗殺者で、高速移動という技を持っている。
これはウィザード魔法にある加速と同効果が得られるんだったと思う。
そのおかげでスローモーションでだけど動いているのはわかった。 だけどあの時の僕はそれを遥かに凌駕して動けていた。
もしもあの技が自在に使いこなせたら、何百と襲い来るゼノモーフも相手ではないのかもしれない。
「マイセン様! マイセン様!」
カルラの叫ぶような声で目をさますとベッドに寝かされていて、シスターテレサの姿もそこにあった。
「まったく何をしたらそんな状態になるんだい」
どんな状況だったのか聞くと、目や鼻、口から耳に至るあらゆる箇所から血を流して倒れていたらしい。
その場は笑ってごまかしてお礼を言った後、刺客はどうなったか尋ねると今は僕を優先して自決できないように束縛して納屋に転がしてあるそうで、ゲッコとガーゴに見張らせているそうだ。
体を起こして納屋に向かおうとすると、ディルムッドとスカサハさん、それにシスターテレサも一緒についてくる。
猫ちゃんは? と思ったら兄弟たちと一緒になって気持ちよさそうに眠っていて、カルラは兄弟たちについていてあげるそうだ。
「そっか、猫ちゃんってここにいればまだみんなとああして暮らしているはずの年齢だもんね」
「先ほど宮廷司祭殿と話をして……あ奴が望むならここに住まわせる」
いきなりこの数のお姉ちゃんは大変だぞと思いながら頷いた。
納屋に着くとゲッコとガーゴが刺客を見張りながらゼノモーフの尻尾で何かをしていて、僕たちの姿を見ると慌ててその手を止めて片膝をついて頭を下げてくる。
「見張りありがとう。 続けてていいよ」
グア
一声あげてからもう一度頭を下げて作業に戻りはじめる。
「あれ? ゲッコとガーゴ、言葉がわかるの?」
作業の手を止めるとグワワと何か言ってくる。
「これは驚いたな……少しだけ覚えたそうだ」
どうやら僕についてくると決めてから、人種の言葉を覚えていったようだ。 ただ残念な事にヒアリングはできるようになってきても、発声だけは人種のようには出来ないみたいだ。
ディルムッドが妙に慣れた手つきで刺客の身体を強引に起こして、その深く被ったフードを退けると出っ歯が目立つネズミの獣人の男だった。
そこをすかさずスカサハさんが、デスのメンバーの証であるDの刺青を探し出すと、またもや陰茎に刺青を発見して深いため息をついた。
「よりにもよって……なぜここなんだ!」
「まぁまぁ、なんとも可愛らしいモノが出てきたねぇ」
シ、シスターテレサ……
いやまぁ、確かに僕の小指程度しかないけどさ。
ディルムッドが気付けをして目をさますと、即座に状況を把握したようで大人しくしている。
「よいか? 今から聞く質問に全て正直に答えるのだ。 もし自決しようものなら、死ぬ直前で何度でもこちらにいる宮廷司祭殿が癒してくれると思っておいたほうがいい」
やたらと嬉しそうな顔を見せるスカサハさんが、まず第一に聞いたのは……
「なぜよりにもよってここに刺青を入れるのだ!」
未だ露出させられたままのモノを指差した。
そこ、そんなに重要なんですね……
当然答えようとしない刺客のネズミ獣人に、僕にとってはとてつもなく冷酷にした残酷な拷問がはじまるのだった。
次話更新は土曜日の夜にできると思います。




