クロックアップ!
ゲッコとガーゴには納屋で眠ってもらうことにして孤児院の中に入った僕たちは、未だ戻らないシスターテレサを待つことになって、僕はついでだから孤児院の温泉に入りに向かった。
「ふぅ……やっぱり温泉は生き返るなぁ……っ!」
こちらに向かってくる気配がある。
気配は2つで今の僕は当然丸腰で、刀を取りに行く余裕があるかわからない。
そして温泉はもちろん露天で、板で壁を作ってあるだけだから、飛び越えるなりしてくれば入り込むのは難しくはない。
とはいえこのまま無抵抗でいるわけにもいかず、急いで上がろうとしたところで壁を乗り越えて2人が姿を見せてきた。
その姿はあの時街道でスカサハさんが言っていたとおりで、2人共ローブ姿でフードを深く被っている。
助けを呼ぶ声をあげようとも考えたけど、もし兄弟たちが起きてしまったらと考えるとそれはできない。
すっぱだかのまま僕は身構えるしかなかった。
「こんな状況で狙ってくるなんて卑怯だと思わないのか?」
「声を上げなかったのは賢い選択だったな。 我らを見たら女子供であろうと容赦はしない」
「しかしよく我らに気がついたものだ。 さすがといったところか」
どうやら僕の質問には答える気がないのか、言いたいことだけ言って2人は手にしている武器で僕に向かってきた。
どうする……どうしたらいい!?
頭で考えてもどうにかなるものでもなく、とにかく今は丸腰でこの刺客を倒せなくともなんとかしなくてはならない。
集中だ、とにかく集中するんだ!
普段から刀で相手の攻撃を受けるようなことはしていないのだから、同じ要領で躱せばいい……
そう思い、限界ギリギリまで集中しただろう、そう思った瞬間だった。
———————————え?
僕の目に映ったのは異常なまでのスローモーションで動く2人の刺客の姿だった。
よく見れば風の音も静かになり、温泉のお湯の揺らぎすらも止まって見えている。
どういう事か一瞬分からなかったけど、今はこの機会を逃すわけにはいかない。
まず片方の相手の首めがけて手刀をたたき込み、次いでもう1人の片腕を後ろに回して地面に押しつけた。
フッと集中が途切れたと思った直後、ウグッという声の後に倒れこむ音と、僕が地面に押さえつけて腕を締め上げられて苦痛の声を上げる音が聞こえてくる。
「マイセン様!」
カルラとスカサハさんに猫ちゃん、ディルムッドが武器を手に浴場に駆け込んできた。
なんで? と思ったら、
「争う音が聞こえたにゃりよ」
えっへんと猫ちゃんがポーズをとって見せてきた。
「コイツらはあの時の街道で見た奴らだな」
スカサハさんが意識を失っている刺客を槍で上手に肩の辺りを切り裂くとDの刺青が見える。
「ふむ……やはりコイツらはデスだったか」
「マイセン、もうその手を離してもいいんじゃないか?」
やっぱりかと思っていたら、ディルムッドが指をさしてそんな事を言ってくるから刺客を見ると口から血を流して死んでいた。
「死して口を割らぬ……といったところか。 コイツらは暗殺者だな」
暗殺者とはその名の通りターゲットを速やかに暗殺する者たちで、接近戦においても目にも留まらぬ高速移動で攻撃してくる。
それでスローモーションだったのか。 となると僕があの時に起こった事象は高速移動でもなくなんだったんだろう?
「暗殺者を2人相手に丸腰で倒すとはな、いや、見事な聖剣があるか?」
極度の興奮状態だったからか股間がいきり立っていて、そこで僕がすっぱだかだった事を思い出して慌てていると、カルラがタオルを渡してくれる。
「あ、ありがとうカルラ」
タオルを巻きつけながら隠すも僕の聖剣はタオルを押し上げて目立っていて、カルラは目のやり場に困りながら頷いてみせてくる。
「確かに立派な聖剣を持っているようだ」
カルラとは逆にスカサハさんは、タオルを押し上げている聖剣をガン見してくる。
「と、とりあえず! もう1人は気絶してるうちに捕まえておいてください!」
それだけ言って脱衣所に駆け込んだ。
着替えながらあの時の事を思い出す……
あの時確かにまるで時間が止まったかと思うほどゆっくりになった。
もしアレが自在に操ることができるようになったのなら……
ん?
ポタポタと床に何かが落ちていく。
目の前はま赤く染まっていて、ハッと手を鼻に当てると鼻血が流れている。
次の瞬間、僕の意識は遠のいていった……
次話の更新は明日3/9の予定です。




