夫婦仲円満?
更新する時間があったので……
オーデンさんにあまり人に話さないように言われたため、ヴェルさんたちには極秘情報なので、の一言で黙って頷いてくれた。
そういうところは冒険者ギルドの受付をしているだけに詮索等はしてこない。
ついでにスカサハさんと猫ちゃんの事も勝手に極秘情報と勘違いしたのか3女神揃って追及してくることはなかったのは助かった。
ちなみにスカサハさんはここでしっかりデスのマークがついた皮やなんやらを渡して報酬を得ていたのだけど、その時にヴェルさんのヒッと小さく悲鳴が上がっていた。
たぶんアレを見たんだろうなぁ……
「完全なる生命体か……だが……以前この町は襲撃を防いだのだろう?」
移動しているとスカサハさんが聞いてくる。 なのでその時は世界の守護者が助力に来てくれた事を話すと驚いていた。
「もしも我らだけであったらどうなっていたと思う?」
「たぶん……全滅していたかもしれません」
「お主やアラスカが居てもか?」
「単体でもかなりの強さだというのに、それが何百と来られたらさすがに呑まれてしまいますよ」
実際に見たことがないスカサハさんには大げさなと思っていることだろうけど、キャロを助けに1人で霊峰の麓で見たゼノモーフの数は目の前が真っ黒と表現するのがいいほどだった。
その麓近くにある訓練場まで戻ると、驚きの光景を目にする。
ゲッコとガーゴが槍に見立てられた先に布を巻かれた棒を手に仁王立ちしていて、その先には力尽きて倒れている訓練を受けに来ている冒険者の姿があったからだ。
そんな光景の中、僕の姿を見るなりゲッコとガーゴが膝をついてくる。
「ディルムッド、これは一体……」
「ああ、コイツら思った以上に強いんだな。 実践に見立てて戦わせてみたらこのザマだよ」
ちょっと死人とか出てないよね!?
その心配も僕たちが戻った事で休憩が取れたのか、1人また1人と潰れたカエルのようになっていた訓練生が起き上がりだしたためホッとする。
「驚いたよ、リザードマンがここまで強いとは思いもしなかった」
最初は1対1でやらせたものの全く相手にならなかったため、チームを組ませてみたところ、それでもあっけなく倒してしまったそうだ。
仕方がなく一斉に全員で相手にさせてみたものの、槍と尻尾を駆使されて全員打ちのめしてしまったということらしい。
日も傾き始めていたためこれで解散となって僕たちだけになる。
ゲッコとガーゴは存分に暴れられたのか、表情はわからないけどスッキリした顔をしているように見える。
「さて、それじゃあ俺にも聞かせてくれるんだろう? 何があった?」
普段飄々としているディルムッドが、まるで何があったのかわかっているかのように真剣な表情を見せてくる。
「確実じゃないけど、ゼノモーフが世界中に湧き出るかもしれない」
ピクッとディルムッドの片眉が上がったかと思うと、世界中かとこぼした。
「それでね、ゲッコとガーゴにゼノモーフの槍を渡したいと思ってるんだ」
「それなら孤児院でいくらか尻尾を隠してあるから問題ない。 あとで渡すから好きに加工して使ってもらって構わんよ」
隠してというのには訳があって、あの異常なまでの貫通力に加工済みのもの以外は国が全回収してしまったのだ。
もっともシスターテレサにはバレていて暗黙の了解となっているため、一応隠してあるとしている。
「しかし、よりにもよってララノア様の感謝祭を狙うとはさすがの俺でも憤りを覚えるというものだ」
「そういえばディルムッドってララノア女王を知っているんだっけ?」
「ああ、非常に慈悲深い方だった。 父王を攫われ考えもつかないような拷問をされたにも関わらず我らを受け入れてくれた偉大にして寛容な方だ」
そしてボソッといい女だった、と言ったことは聞かないことにしておく。
訓練場の片づけを手伝い孤児院に戻る頃には、もう日が落ちてこれからちょうど兄弟たちの夕飯時だろうという頃になっていた。
ディルムッドがカルラならきっとみんなが来る事を想定して量を用意してくれているだろうし、僕の家だろうと言われて孤児院に向かうことにした。
「すっかり信頼しきってるんだね?」
「当たり前だ。 カルラと結婚してからは女遊びもしていないほどだぞ?」
「あ……っそ……」
まぁ仲がいいのならいいけどね。
そんなわけで孤児院に着くと、兄弟たちがゲッコとガーゴを見て驚くけど怖がるよりは興味津々といった感じで、ゲッコとガーゴも兄弟たち相手に遊び始める。
「はっは、いい遊び相手が見つかったといったとこだな」
「お帰りなさいませマイセン様、それとお客様方ようこそ。 見ての通り何もないところですがゆっくりしていってください」
「いい加減僕に様つけるのやめようよ」
頭をコツンと自分で叩いて謝ってくる。
「ディルムッドも早く手伝ってちょうだい」
「へいへい」
なんだかディルムッドがカルラの尻に敷かれているようで思わず笑うと、カルラがハッとなって顔を真っ赤にさせた。
「夫婦仲はいいみたいだね?」
「ああ、マイセンに負けないぐらいにな?」
「ちょっと、ディルムッド!」
まだこの町を離れてたいして経っていないのに、2人を見るとずいぶん会ってないように思えた。
食事も済んで兄弟たちも眠りについた頃、孤児院の納屋に連れて行かれてゼノモーフの尻尾を2本渡される。
「好きに加工して使えばいい」
僕にではなくゲッコとガーゴにディルムッドは渡してそう言うと、受け取った2匹はまるで言葉がわかるかのように頷くと尻尾の先端を調べはじめだした。
「それほど優れているのであれば……私も欲しいのだが?」
すかさずスカサハさんも欲しがってくる。
ゲッコとガーゴと同じく槍を主武器にしているスカサハさんであれば、欲しがるのは当然かもしれない。
「ドラウの姫君、どうぞ」
シュタッと片膝をつき、まるで献上するかのようにゼノモーフの尻尾を1本差し出す。
すぐ隣でカルラがいるというのにだ。
そのカルラはといえば見て見ぬ振りをしながら愛用しているゼノモーフの槍をゲッコとガーゴに見せていて、ディルムッドがスカサハさんに渡す姿を見た瞬間、ズドンッと音をさせて納屋の壁を貫通させる。
ゲッコとガーゴはその貫通力に驚いていたようだけれど、僕は嫉妬というかヤキモチを妬いているカルラに恐怖を覚えながらディルムッドを見ると……
「う、うむ、さて明日も訓練場の仕事があるし休んでおくとしようか」
爽やかな笑顔を浮かべながら回れ右をして納屋から出て行ってしまい、カルラが残されたままになった。
「まったく……」
カルラがぷりぷりさせている姿を見るのは初めてで、僕が驚いていると慌てて普段の装いに戻しているつもりのようだけど今更遅い。
「まぁ許してやってはくれぬか? ディルムッドは女尊男卑の社会を生きてきたから身についてしまっているのだろう」
「えっと、それではドラウの姫君と言うのは……」
「私は姫ではなくただの冒険者だ。 おそらく地下世界ではドラウの女は皆姫なのだろうな」
「そうだったんですね、ディルムッドには申し訳ないことしてしまったようです」
カルラが急いで後を追おうと納屋を出ようとする。
「ね、猫もその尻尾が欲しいにゃりよ!」
言い出すタイミングを逃しまくっていたのか、カルラが納屋を出ようとしたのを見た猫ちゃんが慌てるように口にした。
猫ちゃんにも尻尾が渡されるとカルラはそそくさと納屋を出て行く。
「どうやら女遊びはしてないのではなく……できなくなったが正しいようだな」
納屋の中で笑いが起こったのは言うまでもない。
次話更新は木曜日の予定のままです。




