答えは見出せないまま
大統領府に着いて門を守る衛兵にシスターテレサに今すぐ会いたい事を伝える。
霊峰の町では僕は有名なため、すぐに動いてくれて大統領府の中へ通されるのだけど、その際にスカサハさんが猫ちゃんにここでは絶対に盗みをするなと念を押していた。
応接間に通されてソファに腰を下ろして待っているとシスターテレサが姿を見せる。
「いったい何の用だい? 今はララノア感謝祭の準備で忙しいことぐらい分かってるだろうよ。 それに……見知らぬお嬢さんたちまで連れちゃって」
「そのことは順を追って話します」
スカサハさんと猫ちゃんの事は、アラスカとここを出て迷宮の町に着いてから順を追って話しをしながら紹介していき、ゼノモーフが世界各地で湧き出る可能性があること、そしてアラスカと猫ちゃんが予想したことまで全てを話す。
話を聞き終えたシスターテレサはスカサハさんにも確認を取って、違うところや言い忘れているところがないかしつこく確認してから、まだ30代だと言うのにまるで老婆のように疲れ切った表情を見せて溜息をついてきた。
「今からすぐに大統領にも話はしてくるよ。 ただね、これが間違いならとんでもないことになっちまう。 この国だけであればなんとかできるかもしれないがね、よその国までこの話を流して嘘だったら大変な事になっちまうし、その逆も然りだ」
確かにもし猫ちゃんの言った感謝祭を狙ってゼノモーフが湧き出てこなかった場合、一冒険者程度の話を鵜呑みにした国と罵られるかもしれないし、本当であった場合に伝えていなかったら知りながら教えなかったと言われかねない。
「そこは各名所から出てくる魔物を討伐した数の1番多い人には賞金が出るにゃり! とかして感謝祭ぽくしたらどうにゃりか?」
まるでゲームですよとでもいう感じで言う猫ちゃんのアイデアに、スカサハさんとシスターテレサ、それに僕も驚いてしまう。
「ただそれも湧き出てくれたらの話だが、なかなか良いアイデアだよお嬢ちゃん」
「猫にゃり、正式にはチェシャにゃりよ。 今はししょーの弟子にゃり」
よく分からない事もいうけど、猫ちゃんは妙に頭の回転は速いようだ。
ただし、今までを見ている限り決して賢いわけではなさそうだけど……
あとはどうなるかはシスターテレサに委ねられて、僕たちは大統領府を出て行く事になる。 その際、シスターテレサに戻るのは遅くなるかもしれないけど孤児院に夜に来るように言われた。
「あの人が宮廷司祭のテレサ殿か……あとはあの方と国に任せるしかなかろうな」
「あとは冒険者ギルドに行って、冒険者ギルド長のオーデンさんにも伝えようと思います」
この町はすでに一度ゼノモーフの襲撃に遭っていて、奴らの脅威もわかっている。
きっと話せば冒険者ギルドの方でも何らかの動きを見せてくれるかもしれない、そう僕は思った。
「冒険者ギルド長にまで顔が効くとはな。 ますますもってお主に興味が湧くというものよ」
「いやぁ、それは本当に無理です。 ゴメンなさい」
「一夫多妻のハーレムなら問題ないにゃりよ?」
「アラスカが嫌がってるからダメだよ」
「……という事はお主自体は私を拒絶していないということだな?」
うおぉぉぉぉ! アラスカ助けてくれぇぇぇ! スカサハさんのアプローチが激しいよ。
というわけで、冒険者ギルドに顔を出す。
「マ、マイセン君!? もう旅は終わったの?」
「それで、少年の後ろに連れている2人が誰なのか、アラスカ様がいない理由も合わせて説明してもら必要がありそうだ」
「ま、まさかマイセン君、浮気ですか!? それとも3人も奥さん作っちゃいました? それならついでに私も加えてもらいますよっ」
なんだかイキナリ言われ放題言われてしまい、とりあえず違いますとしっかり否定してから、オーデンさんに急用がある事をまだ冷静さが見えたヴェルさんに言うと、何かを察したのかすぐに呼びに行ってくれた。
「中に入ってって。 ギルドマスターの部屋ね」
「ありがとうヴェルさん」
お礼を言ってヴェルさんの横を抜けようとしたところで腕を掴まれ、青筋を立たせながら目は笑顔で嘘はついてないよね? と……
怖いっす。
全力で否定してからギルドマスターの部屋に向かっていくと、後ろからついてくるスカサハさんと猫ちゃんの笑い声が聞こえてきた。
「マイセンはモテモテにゃりね」
モテモテじゃなくて、モテ遊ばれているだけだと思うんだけどな。
そしてギルドマスターの部屋に入るとオーデンさんがデスクに向かって忙しそうにしているところだった。
「急ぎの用だと言うから聞くが、普通ならギルドマスターとアポ無しで会えると思わないことだぞ?」
「すいません、わかっていますがどうしても急ぎの話があったもので……」
シスターテレサにはもう既に話してあることを伝えたうえでオーデンさんに話して様子を伺うと、デスクにあった書類をぐしゃりとやりだした。
「とんでもない情報を持ってきちまったもんだな、おい」
やっぱり本当に起こった場合とそうでなかった場合の両方の事で困っているようだ。
そしてここでも同じように猫ちゃんが言うんだけど、オーデンさんはあいつら相手にそんな遊びじみた真似はさせられないと一蹴してくる。
「口を挟むようで申し訳ないが……そのゼノモーフという魔物はそんなに手強い相手なのか?」
「ん、ああ、あいつらは言ってみれば完全なる生命体とでも言ったところだな……」
前回の襲撃でゼノモーフを知るオーデンさんは、その時だけでわかったことを口にしていく。
見た目よりも遥かに怪力であり、体液は強力な酸で浴びれば瞬時に大火傷を通り越して肉が溶け落ち、伸びるインナーマウスの一撃はプレートアーマーすら貫通してきて、長く鋭利に尖った尻尾も板金の盾を軽々と貫通してくる。
弱点らしい弱点もハッキリしておらず、白兵戦は酸の体液のせいで諸刃の剣となるのに加えて、ウィザードの話では魔法に対しても強い抵抗力があるそうだ。
今更ながらそんな話を聞かされて、あのゼノモーフの女王がいた場所で戦い抜いた、その時いたみんながどれだけ凄かったのかがよくわかり、それと同時にその時失った仲間たちも思い出して一度だけ長く目を閉じる。
「マイセン、亡くなった者たちはもう帰ってはこない。 生き残った者はその意志を受け継ぎながら先を進んでいくものだぞ」
一瞬だけ見せた表情をオーデンさんは見逃さないでそんな僕をなだめてくれた。
結局オーデンさんもその場では答えは出せないと僕たちを追い出すように部屋から出され、仕方がなくディルムッドの元に戻ろうとした。
次話更新は木曜日にできると思います。




