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焦る気持ち

 連れて行かれた先はここで暮らすものなら誰でも知っている豪華な宿屋で、しかも離れのまるで一軒家のような場所だ。

 ここはその昔、ハネムーンでララノア女王と王配のフィン王も訪れた場所でもある由緒ある場所だ。


 ゲッコとガーゴがいても問題なく離れの建物に入れてテーブル席に着くと、ギルガメシュさんの奴隷がすかさず飲み物なんかを用意してくれる。



「それで?」

「なんだか何でも見透かしているみたいですね」

「当然だ。 俺様のように貴族出であれば常に先を見ていなければならん」


 というわけで僕はギルガメシュさんに迷宮の町の迷宮で起きた出来事を話すと、渋い顔を見せてきた。



「アレがまた湧き出るというのか……それが世界規模となれば人種の存亡に関わりかねんな」

「アラスカはそう遠くない未来と言ってたけど、それがいつなのかはわからないですけどね」


 ふむ、と考える仕草を見せながらもゲッコとガーゴが気になっているようだ。



「あー、猫だからわかっちゃったにゃりよ。 きっと感謝祭に合わせて、とかじゃないにゃりか?」


 えっと猫だからはよくわからないけど、それは十分にありえそうだ。



「感謝祭っていつでしたっけ?」

「……10日後だ」


 冷たいものが背中を流れる。

 もしそうなら、感謝祭で浮かれているところを襲われることになってしまう。



「急いでシスターテレサに知らせないと!」


 ガタッと席を立つとギルガメシュさんが止めてきて、確証もないのにそんな話を国は早々信じたりはしないって言ってくる。



「だからと言ってこのまま放っておくなんて出来ません!」

「……まぁ貴様の言い分であれば、この国なら動いてくれるかもしれんな」


 行けとでも言うように顎を上げてくる。

 僕はギルガメシュさんに頭をさげてから、茶菓子で口の周りを汚しているゲッコとガーゴにフォローを命じて急いで町外れの孤児院へと向かった。




 孤児院が見えてくると兄弟たちと遊ぶカルラの姿が見えて、僕が走ってくる姿を見て慌てた様子で手にゼノモーフの槍を持ち出しはじめて兄弟たちを孤児院の中に入れさせている。



「カルラ! シスターテレサは!」


 僕が叫んで言うも厳しい表情のままだ。

 そこでゲッコとガーゴの事を思い出して、敵じゃないことを叫び直すと身構えるのをやめた。



「マイセン様、これは一体? アラスカ様はどうされたのですか?」


 そう言いながらカルラは今度は後からついてきたスカサハさんと猫ちゃんに目を向けてくる。



「詳しい話は後でするから。 シスターテレサは何処?」

「シスターテレサなら大統領府にいるはずです」

「ありがとうカルラ!」



 孤児院について早々、今度は大統領府に向かって走って向かう。



「少し待たなぬか! 焦る気持ちはわかるが、大統領府にこいつらを連れて行ったら大事になりかねんぞ」


 スカサハさんが僕の横に現れて止めてくる。

 足を止めて我に返って立ち止まってゲッコとガーゴを見ると、おとなしくフォローしてついてきている。



「そうでした、すっかりゼノモーフの事で頭がいっぱいになってしまって……」

「わからないでもないが、お主はもう少し落ち着いて行動するようにした方が良いぞ?」


 スカサハさんに諭されて思い返せば切羽詰まれば詰まるほど冷静さを欠いていた事に気づく。



「武力だけではダメだ。 真に強い者は冷静沈着にして大胆不敵でなくてはならぬ。 そうなれればお主に並ぶ者はいなくなるだろうよ」


 冷静沈着にして大胆不敵……

 僕の知りうる限りそんな人はアラスカとディルムッド、あとはギルガメシュさんかな?

 確かにみんな慌てるところなんて見たことないような気もする。



「努力してみます」

「日々鍛錬だ」


 どうもスカサハさんは鍛錬という言葉が好きみたいだ。



 何処にゲッコとガーゴを待たせておくかは当初の予定通り訓練場がいいだろう。

 どうせあそこに訓練に来る者なんかいなくて暇を持て余しているはずだ。




 また町で冒険者たちに囲まれながらなんとか訓練場に辿り着くと、しんと静まり返ってなくて、中から活気のある声が響いていた……って、あれ?


 どういうことだと中に入ってみると、ざっと見まわしただけで訓練に来ている人の数は30を超える。

 そして中心になって指導している人物こそディルムッドだ。



「ん? 誰かと思えばマイセンじゃないか……!」


 言い終えるかどうかというタイミングで、ディルムッドの姿が消えて僕の後ろに気配が感じて振り返るとスカサハの前で片膝をついていた。



「これはドラウの姫君、ご機嫌麗しゅう。 ぜひその美しい手の甲に従僕の口を付ける許可を頂けませんでしょうか?」


 僕、ポカーン。

 スカサハさんもポカーン。

 猫ちゃんはニヤニヤ。


 飛んでいた意識が戻ったスカサハさんが咳払いを一つした後そっと手を差し出す。



「きょ……許可する」


 許可を得たディルムッドがその手を取って口を押しつけると、スカサハさんがご満悦な表情を浮かべてなぜか僕のことを見ている。




 で……

 早速話に入ろうと思ったところで、門下生というか訓練を受けにきている冒険者の卵たちの注目を集めていることに気がつく。



「詳しい話は後でするから、ゲッコとガーゴをここで待たせたいんだけど大丈夫かな?」

「ん、別に構わないが、ついでにコイツらの練習に付き合わせてもらってもいいかな?」


 練習って……

 スカサハさんにお願いして、ゲッコとガーゴに稽古をして貰うように頼んでもらうと、先ほどディルムッドがした様に片膝をついて頭を下げてきた。



「了承したと言っている」


 凄く見てみたい思いに駆られたけど今はやるべきことを優先することにして、2匹をディルムッドに任せて訓練場を後にする。



 訓練場を出て念願のディルムッドに会えたスカサハさんを覗き見るも、あまり感動した様に見えない。

 僕やキャロの時は嫌でも表情に出ていたけど、思っていた雰囲気とは違ったのかな?

 確かにディルムッドは精悍(せいかん)なイメージよりも、どちらかといえば飄々としていて軽い雰囲気の方が強いかもしれなかったかな?


 なので移動しながら聞いてみることにした。



「ディルムッドに会えたのにあまり感動してなさそうですね」


 尋ねると僕に向けた青白い顔の頬を赤く染めさせながらとんでもないことを口にしてきた。



「いや……そうでもないが……むしろディルムッドと対等に話をしていたお主に惚れてしまったようだぞ?」

「は?」


 あまりの驚きで思わず足が止まってしまう。



「あはは、冗談言わないでくださいよ」

「お主が望むのなら今すぐにでもこの身体……自由にしてやっても良いとすら思っている」


 僕の目が目の前にある抜群のプロポーションから目が離せなくなる。



「おぉぉおぉお、略奪愛にゃりな!」


 猫ちゃんのその言葉でハッとなって首を振る。


 

「僕にはアラスカがいますからゴメンなさい」


 フッと笑った後、猫ちゃんの頭にゲンコツを落としていた。



「痛ったいにゃり! ししょー何をしたっていうにゃりよ!」


 危ない危ない……後で猫ちゃんには感謝しておかないとね。



次話更新は明日……か明後日を予定しています。

はっきりできなくてすみません。


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